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もはや会話のネタに欠かせない?!
ティーンの「お笑い」人気事情

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■芸人の「入り待ち」でファンレターを渡す熱狂的10代女子も

渋谷センター街の奥に位置するお笑い劇場「シアターD」のオーナー、矢野さんに話を聞いた。「当劇場のオープンは1997年で、当時は人気TV番組『ボキャブラ天国』の影響でお笑いブーム真っ只中の頃。当初、客はティーンズであふれていた」と矢野さんは話す。矢野さんは渋谷生まれの渋谷育ちで、父親はストリップの殿堂と名高い「渋谷道頓堀劇場」のオーナーだ。「シアターD」の「D」の字は道頓堀の頭文字を取って付けたものだという。現在矢野さんは「ニュースタッフエージェンシー」というお笑い芸人事務所を経営する傍ら「シアターD」の管理も行っている。

矢野さんは「1999年頃にはお笑いブームが一時終息し、客足は遠のいた。しかし、ブームじゃない時に劇場に来る客こそ根っからのお笑いファンで、年齢層は10代よりは上の層が多かった。現在はお笑いブームの再来によって、また10代も増えてきたようだ」と語る。客の9割は女性で、理由は「単純に芸人が男だからでは」(矢野さん)とのことだが、「芸人には、10代女子に人気が出ると最初の威力は大きいものの、すぐ飽きられることも多いため危険だという認識がある。移り気な10代よりは、一度ファンになったら根付くケースが多い30代男性などを中心に、現在は幅広い年齢層に受け入れられるネタ作りを心掛けている芸人が多いのでは」とも見ている。

「シアターD」の客席は定員120名。人気のライブは月初に開催される、ニュースタッフエージェンシー所属の芸人13組による月一の定例ライブ「ドライブ」や、矢野さんがプロデュースを手掛け、各お笑い芸人事務所から1組ずつ芸人を選抜して月末に行う「シアターD スペシャル オールスター」などで、毎月満席になるという。その内9割がインターネット上での販売による前売り分だ。矢野さんは「ネットでは予約だけを受け付け、当日代金を支払ってもらうようにしている。10代客は特に当日キャンセルが多く、ひどい時は約30人の予約客にドタキャンされたこともある」と頭を抱える。当日客の動員など劇場運営側の都合もあるだけに、キャンセルは3日前までに電話かメールをすることを決まりとしているが、10代は連絡も入れずに来ないことも多いそうだ。

しかし、当日キャンセルが多い10代客でも、劇場に訪れる子はきちんとマナーを守っているという。「渋谷という街は昔から犯罪や危険の多い街というイメージが強いが、お笑いを見に来る10代客は健全だという印象を受ける」と矢野さんは言う。熱狂的なお笑い芸人ファンも多く「開演の1、2時間前から、芸人の入り待ちをしてファンレターを渡す女の子も多いようだ」と矢野さん。中には切手を貼って自分の住所を記入してある返信用封筒を入れ、芸人からのメッセージを受け取りたいという熱心な子もいるそうだ。10代女子の場合、お笑い芸人は「笑い」の部分だけでなく、芸人のタレント性も重視しているということだろう。

シアターD
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■ネタの精度が高まっている?お笑い芸人を目指す10代

新宿区西新宿にある専門学校「東京アナウンス学院」にはお笑いタレント科があり、現在様々なTVで活躍中の原口あきまささん、はなわさん、土田晃之さんなども同校出身だ。教務教育部の川田さんに、お笑い芸人を目指す10代について話を聞いた。「現在、お笑いタレント科の生徒は約70名在籍している。現在のお笑いブームの影響で芸人を目指す10代は増えていると思われるが、同様の学校や養成所も増えているため、生徒数はここ数年横這い」と言う。お笑いタレント科は1999年に開講されたが、その前身である放送演技科コメディーコースは1996年から始まっており、当初の生徒数は5、6名だった。近年の傾向として、川田さんは「お笑い芸人を目指す10代女子が増えている」点を挙げる。「今までお笑いタレント科に女子は皆無だったが、来年の新入生には10名前後の女子が入学予定」と川田さん。様々な業界で女性の進出が目覚ましい今、遅ればせながらお笑い業界にも女性が入り込んできたということだろう。川田さんは「今後ますます女子の入学者は増えるだろうと予測され、それに伴って上下関係の厳しい縦社会であるお笑い業界も、徐々にソフトな業界へと変わっていくのではないか」と予測する。

同校は専門学校であるため、生徒は高校を卒業した18、19歳のハイティーンだ。昔と比べた現代の生徒の特徴について聞くと「全体的に幼いという印象が強い。芸人を目指す子は、仲間内では社交性のある10代が多いが、講師である大人とは会話ができないという、社会性のない子が目立つ」(川田さん)と言う。10代は社会経験がないにしろ、ハイティーンにもなれば、昔はアルバイト経験や部活動などで年上の人間との接し方を学んだものだ。しかし、現在はそうした経験のある子でも、大人との会話ができない子が多いのだそうだ。また、川田さんは現代の10代のプラス面について、お笑いに関する知識が豊富になってきていることを挙げる。「今はTVなどでお笑いのネタ番組が増えている。DVDやビデオなども豊富な今の10代は、多くの情報を得て自分なりに分析し、自らのネタ作りに役立てるという能力が優れている」と川田さん。情報が溢れている今、お笑いを目指す10代は少々頭でっかちの傾向にありそうだ。

同校では毎夏、高校生のためのイベントとして「お笑い検定」を実施している。「お笑い検定」は、全国の高校生から応募を受け付け、テープ審査、書類審査の予選を勝ち抜いた者だけが本選に出場できる仕組み。本選では、舞台でネタを披露し、審査員によって1~5級で評価してもらうという内容だ。めちゃイケ・元祖爆笑王こと人気放送作家の高橋裕幸さんをプロデューサーに迎え、お笑い雑誌「お笑いTYPHOON!(タイフーン)」が後援する「お笑い検定」は、2000年に初めて行われ、今年で4回目を迎えた。「お笑い検定は同校のお笑いタレント科推奨のため、入学イベントとして行っている。併せて、同校のブランドイメージを形成するためのイベントでもある」と川田さん。第1回、2回は前述の「シアターD」で、第3回、4回は「club asia P」で開催したが、開催地を渋谷にこだわる理由について「渋谷イコールお笑いの発信地、という訳ではないが、渋谷は高校生にとっての聖地であると考えている。10代のうちからお笑いに親しんでもらうために『渋谷イコールお笑い検定』というイメージを作りたい」(川田さん)とのこと。

今年の「お笑い検定」には、約50組の応募があり、同校の在校生1組と12組の高校生、計13組が本選に出場した。ライブ審査ではインパクト、ルックス、好感度、ネタのセンス、演技力、ネタの構成、将来性という7つの基準で評価されて級付けされる。レベルの目安は1級=プロ、2級=セミプロ、3級=街の人気者、4級=クラスの人気者といったところだ。ライブ審査の様子について川田さんは「年々、ネタの精度が良くなってきている。昔はキャラクター勝負だけのインパクトを狙った子が多かったのに対し、今はネタのセンスや構成がしっかりしている高校生が多い」と言う。川田さんによると、お笑い芸人を目指す10代には2つのタイプがあり、1つはクラスの人気者で目立ちたがり屋タイプ、もう1つはクラスの隅にいて物事を斜めに見ているおとなしいタイプなのだそうだ。現在は、後者のタイプでオタクなみにお笑いの知識を持つ10代が多いようだ。

専門学校東京アナウンス学院(東放学園)
講義風景 講義風景 講義風景

■お笑い芸人はスタイルやカッコ良さも大事?!

渋谷センター街にいた高校生15人に、好きなお笑い芸人について聞いたところ、以下の名前が挙がった(複数回答)。アンガールズ、ドランクドラゴン、ペナルティ、ダウンタウンはそれぞれ2人ずつ回答があり、その他キングコング、青木さやか、ヒロシ、はなわ、ダンディ坂野、ガレッジセ―ル、次長課長、インパルス、ロバートは各1人ずつという結果だった。その芸人を好きな理由として、「面白い」という回答以外で目立ったのは、「キングコングは両方ともカッコイイから」(アサミちゃん・16歳)、「青木さやかは顔のわりにスタイルがいい」(モモコちゃん・16歳)、「アンガールズは何か不思議だから」(アズサちゃん・16歳)、「ドランクドラゴンの塚地が好き。私はデブフェチだから、見た目の汗臭そうなところが好き」(アヤノちゃん・14歳)という意見。10代の特に女子にとっては、お笑い芸人のルックスが重要なようで、「もっとカッコイイお笑い芸人が出てくればいいのに」(ノゾミちゃん・17歳)という意見もあった。

よく見るお笑いテレビ番組については「はねるのトビラ(通称:はねトビ)」が1位で8人、2位は「エンタの神様」、「水10!~ワンナイR&R~」が各2人、3位は「爆笑オンエアバトル」「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!」が各1人だった。しかし、好きなお笑い芸人はいても、よく見るお笑い番組はないと回答した10代も3人ほどいた。「爆笑オンエアバトル」をよく見ているというカリンちゃん(18歳)は、「お笑いは最高。いつも、次の日に学校で友達と会話するときのネタにする。面白いネタはパクって、自分たちでやってみたりして遊ぶ」と話していた。持っているお笑いのDVDやビデオについては、やはりお小遣いの事情もあるせいか「持っていない」と答えた子が15人中9人だったが、中には「『ガキの使い』のビデオは持っていないけど、借りて何回も見た」(マサくん・16歳)という子もいた。所持しているDVD・ビデオで名前が挙がったのは「はねトビ」(2人)、「ガキの使い」(2人)、「ドランクドラゴンのDVD」(1人)、「インパルスのDVD」(1人)だった。

お笑いは自分にとって「どの程度重要なのか?」と尋ねると「かなり重要」と答えた子が15人中9人、「ほどほど」が3人、「そんなに重要じゃない」が3人という結果だった。しかし、お笑いライブに行った事があると答えたのはミドリちゃん(15歳)ただ一人で、「新宿のルミネに吉本のライブを見に行った」とのことだった。

現在は、各TV局でこぞってお笑いのネタ見せ番組を放送し、バラエティー番組にも若手芸人の出演機会が増えているようだ。そんな中、TVやDVD、ビデオなどで熱心にお笑いを研究する10代が増えている。「なんとなく見て楽しければいい」という程度の10代でさえも、好きな芸人の1人や2人はいるという状況だ。10代の中では、音楽や映画と同様に、エンタテインメントのひとつとして定着している感があるが、その消費スピードが早いのも特徴だ。お笑いに対する感度の高い10代と若手芸人の攻防に磨きがかかる。

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