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泣ける、笑える、恐怖体験が味わえる…
10代にウケル映画の条件とは?

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■泣ける、笑える、恐怖体験が味わえる―わかりやすい映画を好む10代

パルコ・パート3 8階にあるミニシアター「シネクイント」は、PARCOの客層と同じく若い世代の観客が多い。今年上映した映画の中で最も10代客の動員が多かった作品の1位は「下妻物語」、2位が「スウィング・ガールズ」、3位が「ドラムライン」だった。公開期間中の観客動員数は以下の通りだ。

  一般 大学生 高校生 小中学生
シニア
公開期間
下妻物語 10,748 6,884 3,446 4,800 2004年5月29日~8月6日
スウィング・ガールズ 7,747 4,167 1,005 4,401 2004年9月11日~10月29日
ドラムライン 9,870 2,800 700 3,500 2004年4月10日~5月28日

(単位:人)

公開日数に差があるとは言え、「下妻物語」は他の作品に比べ圧倒的に高校生が多い。同館広報担当の坪屋さんは「『下妻物語』を観に来た10代客の中には、制服姿の女子高生が学校帰りに来場する姿も多く見られ、公開後間もない頃は恥ずかしそうにしながら来ていた男子高校生も、後半はグループで観に来るなど、男子の姿もちらほら見受けられた」と話す。さらに、「『下妻物語』では、渋谷にいる様々なファッションのティーンが一堂に会したような光景が見られ、私自身も楽しめた」と坪屋さんは笑う。例えば、109ブランドに身を包んだギャル系の女子高生、ゴスロリやロリータファッションの10代、特攻服やジャージにキティちゃんの健康サンダルを履いたヤンキーっぽい10代女子、銀座OLのようなお姉系ファッションの子や原宿系ファッションの子など、様々な若者が集まった。一方、「スウィング・ガールズ」の場合はブラスバンドをやっている高校生や、それ以外でも部活動を一生懸命やっているように見受けられる普通の高校生が多かったという。また「ドラムライン」はアメリカの大学生がマーチング・バンドで競い合うストーリーの映画だが、キャストはすべて黒人で、ブラック・カルチャー色の強い作品。そのため、10代の観客はB系ファッションでクラブに通っているような、ヒップホップ好きの10代男女が目立ったという。

「下妻物語」

「下妻物語」

渋谷はミニシアターの多い街。坪屋さんは「ミニシアターとしての個性を出しつつも、幅広い層に受け入れられる作品を上映するのが当劇場のコンセプト」と話す。そのため、観客参加型でエンタテインメント性のある劇場作りを目指し、シネクイントでは様々なイベントにも注力している。例えば「下妻物語」では、作品中で深田恭子さんが演じる主人公がロリータファッションであったことに関連付け、ロリータファッションで来場した観客は1,000円で入場できるという割引企画を実施した。「その結果、ロリータファッション割引で入場された観客は全部で906人いた」という。同じく「スウィング・ガールズ」はブラスバンドがテーマの作品であったため、本人が何か楽器を演奏している写真を持参した場合は1,000円に割引するという企画を行い、こちらも大きな反響を得たそうだ。坪屋さんは「イベントに面白がって参加するのは、10代を中心とした若い年齢層の人々だった」と話す。10代はただ映画を観に行くだけでなく、プラスアルファの楽しみ方も求めているのだろう。

人気作品の傾向などから、映画を観に来る10代の特徴について聞くと、「10代は他年代層と違って、一人で劇場に来る子はまずいない。友達や彼氏とノリで来ることが多いようで、みんなで楽しめる分かりやすいものを好む傾向にあるのでは」と推察する。例えば、10代には「呪怨」や「着信アリ」などのホラー映画が人気だが、その要因として坪屋さんは「一緒に来た友達や彼氏と恐怖体験を共有するため、遊園地のお化け屋敷に来るのと同じ感覚で映画を観に来ているのではないか」と推察する。一時期、話題をさらった「世界の中心で、愛をさけぶ」=通称「セカチュー」も、「泣ける」というわかりやすい一つのキーワードが10代の間で人気現象を起こしたとも言えそうだ。

「10代には、アート系のフランス映画など複雑なストーリーはまず、受け入れられない。たとえば予告編でも、ベタ過ぎるくらいに内容をすべてわからせるもののほうが、10代の興味を引くようだ」と坪屋さんは見ている。また、昔は「邦画は洋画に劣る」といった風潮があったが、今の10代にはそうした意識が薄れているようで「洋画も邦画も区別なく観る傾向にあるようだ。大きなシネコンで一斉に洋画も邦画も上映していることが、垣根を無くすきっかけになったのでは」とも。10代にとって、泣ける、笑える、恐怖体験ができる、といった感情を喚起するためには、邦・洋関係なく「分かりやすさ」が重要であるようだ。

シネクイント
シネクイント シネクイント シネクイント

■原作本、映画、音楽の三位一体戦略が10代を動かす?

日本映画界の制作・配給会社大手、東宝宣伝部長である矢部さんに、10代客をどう捉えているかについて話を聞いた。「これまで、結果的に10代がメインになったという作品はあっても、当初から10代をターゲットとして狙い撃ちした作品はない」と矢部さんは話す。もちろん、10代客はこれからの映画産業を支えていく大切な存在として、需要を掘り起こしたいという狙いはあるものの、他の世代に比べると劇場に牽引するのが最も難しい世代であるというのが矢部さんの見解だ。「10代は可処分所得が少ない上、映画と競合するアミューズメントの数が多いため、観る映画を取捨選択する姿勢が他年代に比べてシビア」と、矢部さんは言う。ゲームにカラオケ、携帯代と、現代の10代のお小遣いは少ないながらも様々な用途に使われている。そんな中、劇場で映画を観る面白さを伝えられる、説得力のある企画でなければ、10代をメイン対象とした作品を手掛けることは難しいのだそうだ。

今年公開した作品の中で、10代客を最も多く動員した作品について聞いたところ、「動員数から言えば、1番は『世界の中心で、愛をさけぶ』だろう」と矢部さん。正確なデータは取っていないが、観客動員数の約3割が10代ではないかとのことだ。また、純愛系で泣ける映画として同じ流れを汲んでいるのが「いま、会いにゆきます(通称『いまあい』)」で、この両作品は「まずは原作を読んで引っ張られた観客が多く、10代に関しては映画作品だけでなく映画音楽も鑑賞動機を促すきっかけになったのでは」と矢部さんは言う。「セカチュー」は平井堅の「瞳をとじて」、「いまあい」はオレンジレンジの「花」が主題歌となっており、両曲・アーティスト共に10代に人気が高い。「セカチュー」と「いまあい」は、純愛系で泣けるという要素だけでなく、原作本、映画、音楽といった三位一体の戦略が10代を動かしたと言える。

その他、10代客に支持を得た今年の作品としては、「今年4月に公開した『名探偵コナン 水平線上の陰謀(ストラテジー)』は、今年でシリーズ9年目を迎える。ローティーンをメインにティーンからの支持が高い映画として定着した」と矢部さん。さらに「下妻物語」「スウィング・ガールズ」「着信アリ」なども女子高生を中心としたティーンの人気が高かったそうだ。矢部さんは「『着信アリ』は、作品のテーマが『携帯を伝わってくる恐怖』であったことから、携帯世代と言われる10代にとって身近なアイテムだったため、興味を持った子も多かったのでは」と言う。また「10代のホラー映画人気は1998年に公開となった『リング』をきっかけにしているようだ」と矢部さん。「リングの試写会を行った時、上映が終わった途端に10代女子がロビーで携帯を取り出し、友人に『怖すぎる!』と、半分怒りながら電話している様子を何度か見かけた」ということから、「着信アリ」でも同じような口コミ現象が起こったのではないかと推察される。「怖いもの見たさの恐怖映画は、10代の感性とどこかリンクするものがあるのだろう」と矢部さんは見ている。

田舎の女子高生がジャズ・バンドに挑戦するという「スウィング・ガールズ」は、男子高校生がシンクロナイズドスイミングに挑戦するというストーリーの「ウォーター・ボーイズ」の流れを汲んだ作品だ。この2つの作品が10代に支持された要因について「出演キャストがスターではない分、等身大の主人公に親しみを感じた10代が多かったのでは」(矢部さん)と推察する。これは、例えば、ティーン誌の読者モデルを身近に感じてファンになる女子高生の心理と同じだと言えそうだ。ストーリーに入り込み、自分に置き換えて夢中になれるという意味では、学園もののサクセスストーリーは昔からある映画のセオリーの一つとして、今の10代にも受け入れられやすいようだ。

東宝
「世界の中心で、愛をさけぶ」

「世界の中心で、愛をさけぶ」

「名探偵コナン 水平線上の陰謀(ストラテジー)」

「名探偵コナン水平線上の陰謀(ストラテジー)」

「着信アリ」

「着信アリ」

■センター街で聞く「10代が観たいお正月映画ランキング」

渋谷センター街にいた男女高校生計20人にアンケート調査を行ったところ、「最近観た中で一番面白かった映画は」という質問に対する結果は以下の通りだった。

最近観た中で一番面白かった映画
作品タイトル 投票数
いま、会いにゆきます 8
ハウルの動く城 3
世界の中心で、愛をさけぶ 3
スパイダーマン2 2
下妻物語 1
デビルマン 1
特になし 2
20

1位の「いまあい」と回答した16歳のアツコちゃんは、「やっぱり恋愛系の映画は好き」と言う。ユウヤくんとユウカちゃん(共に17歳)のカップルも一緒に「いまあい」を観たそうで、ユウヤくん曰く「感動した」とのこと。「セカチュー」と回答したマイちゃん(17歳)は「セカチューは泣けた。やっぱ純愛はイイ。私も『助けてくださーい』って言われてみたい!」とはしゃいだ様子が印象的だった。

次に、「今まで観た中で一番好きな映画」という調査を行ったところ、以下の結果だった。

今まで観た中で一番好きな映画
作品タイトル 投票数
パイレーツ・オブ・カリビアン 3
タイタニック 3
アルマゲド 2
DeepLove 劇場版 アユの物語 2
となりのトトロ 1
世界の中心で、愛をさけぶ 1
E.T. 1
プリティ・ウーマン 1
ロード・オブ・ザ・リング 1
恋愛適齢期 1
スパイダーマン2 1
A.I. 1
プリティ・プリンセス 1
レオン 1
20

バラつきがあるものの、「パイレーツ・オブ・カリビアン」や「アルマゲドン」などは予想外の回答だった。アユミちゃん(16歳)は、「ジョニー・デップのファンというわけではないけど、あの映画はかっこ良かった」と言っていた。アンケートに答えてくれた子が映画館で観る映画は月に1、2本が相場で、ビデオやDVDは平均月4、5本、多い子で20本という子がいた。その割には、一番好きな映画は最近公開された作品が多く、やはりレンタルビデオでもまずは話題作や最新作を観る傾向にあるようだ。

最後に、今年のお正月映画で「観たいと思う映画」を2つ選んでもらった。回答結果は以下の通り。

作品タイトル 投票数
Mr.インクレディブル 12
ターミナル 9
僕の彼女を紹介します 8
ゴジラ FINAL WARS 3
エイリアンvsプレデター 3
マイ・ボディーガード 2
インストール 2
映画 犬夜叉 紅蓮の蓬莱島 1
40

回答者は女子17人、男子3人だったこともあり、やはりディズニー映画の「Mr.インクレディブル」が強かった。意外なところでは2位の「ターミナル」で、同じく芥川賞受賞作家・綿矢りさ原作の「インストール」も予想に反して票が伸びなかった。

取材を通じて、今の10代にとって「洋画も邦画も関係ない」ということがわかった。作品を選ぶ上で重要なのは、感動する、泣く、笑う、怖い、といった何らかの感情を喚起されるインパクトのあるストーリーであることらしい。10代は、観る人によって見解が違ってくるアート系の複雑な映画よりは、友達同士で単純に共感し合える映画に娯楽性を求めているのだろう。こうした10代がいずれ20代、30代になった時、どんな作品を支持するのだろうか。

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