特集

低年齢化するインスタント・タトゥー人気
10代のボディ・アート事情

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■肌を見せるクラブ系ファッションが煽るタトゥー願望

2003年6月に双葉社から第1号が創刊されたムック本シリーズ「TATTOO girls(タトゥー・ガールズ)」は、タトゥーやシール(インスタント・タトゥー)、ペイントなどでボディをアートする若者のためのファッション誌だ。同社の企画出版部でプロデュースを担当している岩下さんに話を聞いた。「『タトゥー・ガールズ』は20代全般を対象としているが、当初の思惑とは異なり、その上下の年齢層にも幅広く読まれている」と言う。18歳未満のタトゥーは各都道府県の条例で禁止されているところもあるため、高校生以下のティーンズに対しては誌面の各所においてその旨を告知し、「タトゥーは自分で責任を持てるようになってから入れように」と呼び掛けているが、実際には今、18歳未満でもタトゥーに対する憧れや人気が高まってきているため、同誌ではインスタント・タトゥーやペイントなど「なんちゃってタトゥー」も紹介している。タトゥー人気の背景として「肌を見せるクラブ系ファッションなどの流行が10代、20代のタトゥー願望を煽っているのでは」(岩下さん)と推察する。

TATTO girls

「TATTOO girls」編集担当の上田さんは「女の子では19歳になった途端にタトゥーを入れる子が多い。中でも、ヘアメイクやデザイナーなどを目指すファッション系の専門学校生の『タトゥー人口率』が高いようで、友達同士で情報を交換し合っている」と話す。現在の日本では、まだタトゥーはアングラな世界のものという風潮が強く、なかなか情報を得られにくい。料金はどのくらいが相場なのか、どこのタトゥー・スタジオの彫り師が腕がいいのか、どの程度の痛みがあるのかといった情報は、実際にタトゥーを入れた子が友達の間で出現してから初めて明らかになるようだ。上田さんが取材した女の子の中では、タトゥーを入れた理由について「タトゥーを入れると普通の職業には就けなくなるから、ファッション系の仕事を一生続ける、という『決意』を持ってタトゥーを入れた」と話す子が多かったという。また、男の子の場合はバンドマンが多く、ミュージシャンになりたいという夢に対する決意をタトゥーとして入れるケースが目立つそうだ。

上田さんは「10代でタトゥーを入れた子は、その後2つの傾向に分かれる」という。タトゥーは「一つだけでいい」という場合と、タトゥーにハマって「どんどん箇所を増やしていく」場合とに、はっきり分かれるそうだ。ハマってしまう子の場合は完全にファッション感覚やアクセサリー感覚で、意味合いや思い入れなども薄らいでいく傾向にある。また、女の子の場合はタトゥーを入れているアーティストらの影響も大きい。上田さんによると「原宿系の女の子はCharaやUAのほか、本格的なタトゥーを入れているロック・アーティストであり、モデルの川村カオリをカリスマ的存在として崇めている。一方、渋谷系の女の子の場合は安室奈美恵に憧れている子が多い。ちなみに、タトゥーを入れている有名人で、どちらにも共通して人気のあるのはアンジェリーナ・ジョリー」だという。

さらに、上田さんは「多くの若者は後のことを考えずに勢いで入れてしまう傾向にあるようだ」と話す。例えば、当時付き合っていた彼氏の名前を入れて後で後悔している子や、好きなアニメのキャラクターを入れてしまった子、生首の絵柄を和彫りで入れた子など、今は満足していても大人になってから困りそうな絵柄を選んでいる子が少なくないという。昔と比べてタトゥーがカジュアル化してきたために、一生消えないことを深く考えずにファッションの一つとして軽い気持ちで入れてしまうのだろう。「しかし、タトゥーを入れるということは痛みを伴う行為であるため、若者は何らかの意味合いを持たせたがる」と、上田さんは見ている。それは、自分を変えたいという願望であったり、何かに対する決意を忘れないように体に刻んだ証であったり、消えないお守りとしてだったり、人それぞれだそうだ。「タトゥーを入れている子の多くが、親に言えずに隠していることには驚いた。一緒に温泉へ行くことができずに親からの誘いを断り続けたり、実家に帰るときはいつも長袖を着ているなど、親を悲しませないために努力をしているようだ」と上田さん。どうやら親に怒られるというよりも、親を泣かせてしまうからという理由でタトゥーを隠している若者達が多いらしい。親から貰った体に傷を付けることに対する罪悪感を抱きつつも、タトゥーを入れることへの欲望を断ち切れない若者が少なくないことの証でもある。

双葉社
「タトゥー」 「タトゥー」

■タトゥーを入れる場所の人気、1位は「上腕部」、女の子は「腰」

渋谷区神南にあるタトゥー・スタジオ「Tifana(ティファナ)」(TEL 03-3463-3283)のオーナー兼彫り師である平元さんは「顧客は20~22歳が一番多いが、高校生からの問い合わせも月に1件はある」と言う。しかし18歳未満の場合は施術を行なわず、平元さんはボディペイントを勧めている。「ボディペイントは見た目がタトゥーの仕上がりに近く、1週間ほどは持つ顔料を使用している。ワンポイントで1,500円から、高くても3,500円までと手頃なため、10代客の場合はボディペイントが主流だ」とのこと。ちなみに東京都の条例では、18歳未満の青少年に対する入れ墨を禁止する項目はない。しかし、禁止している都道府県は多く、10代のうちはまだ自己が確立していない時期であることを考慮して、18歳未満にはタトゥーを施さないというのが平元さんのスタンスだ。「高校生の中には、割り箸に針を固定して先端に墨汁を着け、自分で入れ墨を入れる子もいるようだが、針を入れる深さや衛生面などの危険もあるため、むやみに行わないでほしい」と、平元さんは警鐘を鳴らす。

「ティファナ」を訪れる顧客の中で、10代を含む若者の特徴や傾向については「友達が入れているから、カッコイイからという突発的な理由で来店するため、どこにどんなモチーフを入れたいのか、自分の考えがまとまっていない子が多い」という。そうした客に対してはいろいろなデザインカタログを見せ、カウンセリングを行い、予約を入れてもらってから後日施術をする。「予約をしておきながら後になって考えが変わったのか、当日、何の連絡もなくキャンセルするのも10代を含む若者に多い傾向」と、平元さんは苦笑いする。

同店で施術するタトゥーのモチーフで人気があるのは、1番が「トライバル」と呼ばれるもので、部族の象徴をアレンジしたデザインだ。2番目はカラフルな洋彫り絵柄の「アメリカンスタイル」で、3番目が「ワンポイント」だという。女の子の場合は特に「花」と「蝶」の人気が圧倒的に高い。「タトゥーを入れようという女の子の多くは強い女性に憧れていて、彫る際の痛みに耐えられたら自分も強い人間に変われるんじゃないか、という思いを抱いている。醜いサナギからきれいに生まれ変わる蝶に自分を重ね合わせているのでは」と平元さん。また、96年に公開された岩井俊二監督の映画「スワロウテイル」では、女の子が胸にアゲハ蝶のタトゥーを入れるシーンがあったが、平元さんはこの映画が蝶のタトゥー人気に火をつけたのではないかとも考えている。タトゥーを入れる場所の人気ベスト3は、1位「上腕部」、2位「腰」、3位「背中の肩甲骨の辺り」とのこと。とくに女の子の場合は腰に入れる子が多く、最近のローライズ人気によって「チラ見せ」するのがカッコイイとされているらしい。「TATOO girls」編集の上田さんも「女の子の場合は腰、胸元、うなじなど、セクシーな場所を好んで入れる傾向にある。また、入れるとお洒落度が高い場所としては足の甲や足首、手首、指の付け根などで、アンクレットやブレス、指輪のようなアクセサリー感覚に近いようだ」と話す。

Tifana
Tifana Tifana 「トライバル」 「花」と「蝶」

池袋駅の周辺で、腰にタトゥーを入れている女の子に会った。モエちゃん(19歳)は、16歳の時からさいたま市で美容師をしている。「タトゥーを入れたらかわいいなって、ずっと思っていて、18歳になってすぐ入れた。友達にやってもらったから絵柄は3,000円、文字は15,000円と安かった」と話すモエちゃん。「タトゥーを入れて後悔したことは?」と聞くと、「スポーツジムに通おうと思ったら入会させてもらえなかった。でも、タトゥーを入れるときに絶対後悔はしないようにしよう、と決めたから、潔くあきらめたけど…」と、笑って答えていた。一緒にいた数人の友達はモエちゃんがタトゥーを入れていることを知らなかったらしく、「すごい」「かっこいい」と口々に賞賛していたのが印象的だった。

モエちゃん

■10代には「なんちゃって」インスタント・タトゥーが人気

ネット通販でインスタント・タトゥーを販売しているコスメティック販売会社「バイオプロテック」代表の遠藤さんに話を聞いた。「インスタント・タトゥーは10年ほど前から取り扱っているが、昔は一部のマニアな男性客が中心だった。現在は対象がティーンへと低年齢化し、女性客が全体の6~7割を占めている」とのこと。インスタント・タトゥーがファッション雑誌などでもアイテムとして採り上げられ始めたことから、ここ3、4年は毎年倍々に売上が伸び、月に4,000~5,000枚は売れるそうだ。「本物のタトゥーは個性を出したいという自己主張の一つだと思うが、インスタント・タトゥーはメイクやネイル、アクセサリーと同じで、ファッションとして手軽に楽しめるところが支持される理由では」と遠藤さんは見ている。インスタント・タトゥーは、肌の露出が増える夏場に購入するティーンが多く、季節物として一定期間しか取り扱わない店も多い。これからの季節、クラブや海ではワンポイントタトゥーを楽しむ多くのティーンの姿が予想される。

バイオプロテック

自分を変えたいという変身願望や、将来や夢に対する決意を形にしたいという思いでタトゥーを入れる若者もいれば、単なるファッションとしてアクセサリー感覚で彫る若者もいる。しかし、メイクと違って痛みを伴う施術であること、そして一生消えないものであることなどから、タトゥーを入れる若者たちは皆、それなりの覚悟をしているようだ。流行のファッションに煽られるという一面がありながらも、タトゥーを入れるという行為の背景にある心理的なものに惹かれる若者も少なくない。そうした若者が増える反面、手軽にインスタント・タトゥーで着けたり剥がしたり、あくまでもファッション性だけを楽しむ若者も急増している。肌の露出が多くなるこれからのシーズン、ティーンズはワンポイント・ボディペインティングでおしゃれの差別化を競う。

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