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渋谷・格闘技系イベント、人気の秘密

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■ブレイクする素地があった渋谷

K-1、PRIDE、修斗、パンクラス、リングスなどの“総合格闘技”が人気を博する一方、テレビ放映がなくても、会場が広くなくても、歓声と熱気に包まれる格闘技系イベントが渋谷で人気を集めている。渋谷と格闘技系イベントはどのように結びつきがあるのだろうか。若者の街・渋谷は、音楽の街であり、エンタテインメントの発信基地である。そこには大小合わせて約20もの「クラブ」があり、ライブハウスを含めると、30以上の「ハコ」が存在する。収容人数の確保とリング設営の関係上ある程度の施設を必要とする格闘技系イベントが、この「クラブ」という「ハコ」に注目したのは当然の流れでもあった。

ヒップホップが渋谷の「クラブ」から火がついたように、一部の格闘技系イベントも渋谷というリングの上に立つことで、ファンを獲得してきた。円山町にある「CLUB ATOM」、「WOMB」、宇田川町にある「ロックウェスト」、1,500人を収容する神南のライブハウス「SHIBUYA-AX」などでは、積極的に格闘技系イベントが開催されている。特に「SHIBUYA-AX」は女子プロの試合が頻繁に行われている。こうしたクラブやライブハウスといった、格闘技とは一見縁の無い空間が舞台となって、渋谷の格闘技系イベント人気に火が付いた。

さらに、渋谷には格闘技の関連グッズを取り扱うショップも人気を集めている。プロレス関連のウェアやフィギュアなどのグッズを扱う「ワールドスポーツプラザ渋谷WEST」(神南)1階の格闘技専門ショップ「ワールドスポーツプラザKING」森田店長は「格闘技の試合の前後には、関連グッズがよく売れる。人気があるのはTシャツで、特に桜庭和志、佐藤ルミナ(修斗)のTシャツは人気商品」と話す。「ワールドスポーツプラザ・渋谷WEST」の2階は「NFLジャパンショップ」、3階は「メジャーリーグベースボールショップ」だが、森田さんによると「クラブに通う子たちは1階、2階、3階でお気に入りのウェアを買っている。クラブファンとスポーツウェアを購入する客はリンクしている」とのこと。「クラブ」で遊ぶ若者たちに格闘技を含めたスポーツウェアがファッションアイテムとして受け入れられている。

ワールドスポーツプラザ

プロレス関連グッズがファッションとして捉えられるようになったのは、1996年にアメリカで結成され、すぐさまブレイクしたプロレス団体「NWO」(ニュー・ワールド・オーダー)の選手が身につけていた「nWo」Tシャツがきっかけ。黒いボディの胸に白地「nWo」とプリントしたTシャツやタンクトップは、アメリカのストリートの雰囲気にあふれ、またロックスピリッツに通じるインパクトがあった。ハルク・ホーガンなど「NWO」のレスラーは好んで黒いサングラスを着用し、ファッション的にもスタイリッシュに映った。1977年にはNBAの反逆児デニス・ロッドマンが「NWO」入りを表明するなどして日本でも話題を集めた後、日本国内では「修斗」などの総合格闘技系の選手が着ていたTシャツをPUFFYが愛用することにより、格闘技団体のTシャツは一般に普及した。佐藤ルミナやエンセン井上(修斗)、桜庭和志(高田道場)ら熱狂的なファンを獲得した選手は必ずセンスのいいオリジナルTシャツを発売している。裏原宿を中心としたストリートで絶大な人気を誇る、元修斗ウェルター級王者・宇野薫のように自ら「有限会会社宇野薫商店」を立ち上げ、アパレルやデザインへのアプローチを試みる選手も登場している。

ほかにも渋谷にはプロレス専門ショップ「レッスル渋谷店」(円山町)や、格闘技本が充実する「大成堂書店」(神南)など、格闘技系のグッズや書籍を扱うショップがあり、渋谷で格闘技系イベントが人気を博する素地は、すでに出来上がっていたとも言える。

■ヒップホップと融合した格闘技」

2000年11月、円山町「WOMB」で誕生したのが、ヒップホップと格闘技のコラボレーションによって異彩を放った「クラブファイト」である。“今、格闘技とヒップホップがひとつになる”と銘打ち、「格闘技史上初の試み」とされたこのイベントでは、DJが流すヒップホップがフロアに流れ、リングではダンサーユニットがダンスを披露した。クラブ特有の音響、照明設備を使ったリアルな格闘エンタテインメントは、ヒップホップ、格闘技の両ファンを魅了した。ヒップホップファンは、格闘技というエキサイティングなビジュアルを目の当たりにする快感を覚え、格闘技ファンは「クラブ」のサウンド効果、照明効果を体感したのである。

格闘技面でいえば、1999年にUFC-J(アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ)公認チャンピオンとなった山本喧一選手の首に賞金を賭ける、というアイデアによって「クラブファイト」は、全国の強豪からも熱い視線をあびた。本年3月までに「WOMB」では2回の興行、名古屋で1回の興行を行った後、しばらく充電期間を設け、本年8月20日に再び「WOMB」で開催された。「クラブファイト」をプロデュースするパルティノンプロモーションの代表、趙(ちょう)さんはリニューアル記者会見の席で「3回の興行を終了して十分に手ごたえを感じ、また今後も盛り上がっていくであろうという確信を得て再スタートに踏み切った」と挨拶した。

クラブファイト

「WOMB」の飯田さんは「ハウスやテクノを中心にやっているハコで格闘技系のイベントが開かれたことで、普段は足を運ばない人も多く来てくれた。音楽面でもメジャーなゲストを呼んだこともあって相当盛り上がった。次回は未定だが、来年乞うご期待」と話す。

WOMB

一方、女子の総合格闘技イベントもここ1年の間に定着した。昨年12月に開催された「ReMix(リミックス)」というイベントを原型とする「スマックガール」のそのうちの一つ。井上京子など人気女子プロレスラーやタレントの桜庭あつこが総合格闘技に挑戦したことでも注目を集めた。この「ReMix」をもとにして、渋谷の「CLUB ATOM」を舞台にした月イチの定期興行「スマックガール」が生まれる。当初は苦戦が予想されたが、星野育蒔(いくま)や力道山を刺した男の娘・篠原光、現役レースクイーン・中島智希、素人同然のナナチャンチンなど、個性ある選手が生まれ、毎回満員となるまでに育った。「スマックガール」主催者でもあり、選手のプロモーションに長けた人物・篠ひろき氏が立ち上げた番組が、テレビ朝日の「渋谷系女子プロレス」である。ここには渋谷という街が持つエンターテイメント性へのこだわりが垣間見える。篠氏は165キロの元女子プロレスラーを参戦させるなど、スポーツライクなテイストの中にも“魅せる”要素を盛り込み、プロデューサーの手腕を発揮した。その後、「スマックガール」のルールを考案し、同時にレフェリーなどを努め、興行の中心人物であった木村浩一郎が旗揚げした「AX(アックス)」に星野、久保田有希などの人気選手をさらわれ、「スマックガール」は本年9月27日、惜しまれながら活動休止となった。篠氏は来年にも「スマックガール」の活動を再開させたいと表明。一方、木村氏は、「AX」の月1回の興行を進めている。

宇田川町の「ロックウェスト」では、不定期ではあるが、プロレスラーや格闘家を招いて「トークショー」が開かれているほか、「PRIED」が開催される1週間前には、「PRIED」レフリーの島田さんやプロレス専門誌の編集長を招いたイベントが開催されている。同店は元「週刊プロレス」編集長のターザン山本氏が塾長を務める、プロレス・格闘技ライター養成講座「一揆塾」(毎週木曜)が開かれる会場にもなっており、新たなプロレス・格闘技ライター、記者、編集者を育てるべく、山本塾長の熱い魂の講義が続けられている。同店の福吉(ふくよし)さんによれば「オーナーが格闘技好きということもあり、格闘技との深く結びついている」と話す。

ロックウェスト

■独自路線を開いた「DDT」の戦略

「CLUB ATOM」で定期的に興行を行っている人気プロレス団体「DDT」は「ドラマティック・ドリーム・チーム」の略。1996年3月、「プレ旗揚げ戦」が開かれ、ファンが旗揚げを認証する形で正式にスタートした。2000年7月から毎週木曜夜、「CLUB ATOM」で試合が開かれている。1回の興行で平均200人を動員。すでにのべ15,000人もの観客動員数している。いわば渋谷で生まれて定着したプロレスブランド。

DDTのファンは若者が多く、特に女性ファンが目立つという。広報担当の新藤さんに、DDTが人気を集める理由を挙げてもらった。

  1. エースでプロデューサーを務める高木三四郎氏が、学生時代からイベントを仕掛け成功させることに長けており、特に渋谷の箱で行うイベントには独自のノウハウを持っていた
  2. 「闘う連続ドラマ」というコンセプトのもとで観客を楽しませる表現方法に特化している (3) 渋谷に集まる、遊ぶことに貪欲な若者たちに的確にアピールしている。

要約すれば、イベント運営の手腕があり、コンセプト設定が明確で、マーケットリサーチ能力とパフォーマンス力に長けているということである。

「プロレスファンを渋谷に呼び込み、渋谷に集まる若者をプロレスファンに染めたいと考えてきた」と、新藤さんは話す。特定の地域で活動するプロレス団体は、「みちのくプロレス」(東北)や「大阪プロレス」など地方都市では見られるが、都心に密着して展開する団体は他にない。しかし、特定のエリアで興行を続けるには特化した魅力がなければいけない。DDTの場合は、「高木三四郎」というプロレスの枠を超えたカリスマと「闘う連続ドラマ」が挙げられる。「プロレスを知らない人でも一見さんでも理解できるのが物語。プロレスはドラマなんです」と、新藤さんが語るように、DDTのプロレスは、競技でなく、エンタテインメントなのである。正規軍と正偽軍(善玉、悪玉)という明確な図式、各レスラーの「いわくつき」の経歴、リング上の裏切り、結託など、会場で繰り広げられるのは、「スターウォーズ」や劇画の世界を彷彿とさせることばかりである。

さらに興味深いのは、メインイベントの後に開かれる「三四郎集会」。高木選手が当日の試合の感想や近況報告をし、ファンとともに語り合う集いは、DDTの名物とも言える。「CLUB ATOM」で開催されるDDT の興行は、午後7時から試合開始。オールスタンディングで当日3,500円。中高生と55歳以上は当日1,000円(要身分証)、小学生以下無料となっている。

11月4日(日)には、青山学院大学青山キャンパス中庭でDDTの興行が開かれる。学園祭副実行委員長の神部君と同実行委員で「TMスポーツ観戦愛好会」の代表を務める倉川君は、DDTを学園祭に呼んだ理由を「一般の人にプロレスの楽しさを見て感じてほしい。DDTは渋谷に根付いた団体なので、地元の学生としてもその存在をもっと多くの人に知ってもらいたい」と熱く語る。時間は11:30~12:00、13:00~13:30 15:30~16:00。オールスタンディング(入場無料)お問い合わせは青山学院大学2001年青山祭実行委員会TEL03-5485-0783まで。

DDT CLUB ATOM

渋谷は、リアルなエンタテインメントを求めて若者が集まる街である。「クラブ」で体験できる“ライブ”は、その最たるものである。そこに“格闘技ライブ”が加わったとしてもさほど違和感はなかった。コスト面から考察すれなら、格闘技団体にとって「クラブ」は会場費が他の施設と比べて手頃であり、音響・照明施設が充実しているので、願ってもない空間であったと言えよう。会場を貸す側もまた、新たなファンを獲得できる機会として積極的に受け入れてきた。巨大な会場で行われる格闘技系イベントは、アリーナ席に座らなければその迫力を体感できないが、「クラブ」では身近に感じることができるのも大きな特徴。会場全体が「アリーナ席」と化している。「クラブ」が格闘技ファンを取り込み、また格闘技ファンが「クラブ」に足を運ぶことで、「クラブ」の可能性と格闘技ファンの裾野が広がったとも言える。

若者にとっての「格闘技系イベント」は、すでに映画やコンサートと同様、興奮を生み出すエンタテインメントとして認知されている。一世を風靡したプロレスラーが格闘技系の団体を設立したり、プロレスラーとK-1ファイターの対決が実際に行われるなど、格闘技界は“ボーダレス化”が進み、格闘技系イベントはますます活性化している。様々なジャンルの格闘技から、個性的なスターが生まれることで、かつては少数派であった女性ファンも急増した。現在、格闘技人気を支えているのは、もはやオジサンと小中学生ではなく、10代後半~30代の若者。そこで彼らが頻繁に出入りする「クラブ」や「スポーツウェアショップ」「レコード店」「DJショップ」で、こうした格闘技系イベントの告知が行われている。

格闘技とクラブのコラボレーションから生まれた「格闘技系イベント」は、渋谷が生み出した新たなエンタテイメント・ジャンルとして、今後の展開が注目される。

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