特集

世界の建築デザイナーが競演
スーパー・ブランドストリート=表参道

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■2002年秋、表参道が世界有数のブランドストリートに

イヴ・サンローラン リヴ・ゴーシュ、グッチ、シャネル、クリスチャン・ディオール、ルイ・ヴィトン、エンポリオ・アルマーニ、プラダ。表参道は来秋、これだけの海外一流ブランドが軒を並べるストリートとなる。今秋オープンした「イヴ・サンローラン リヴ・ゴーシュ青山」(エスキス表参道1階・地下1階)、「シャネル」(エスキス表参道1・2階)、「グッチ青山2」(エスキス表参道地下1階)、「エンポリオ・アルマーニ青山店」、2002年オープン予定の「クリスチャン・ディオール」、「ルイ・ヴィトン館」、「プラダ南青山店」、2003年にオープンが予想される「モエヘネシー ルイ・ヴィトン」まで含めると、2年の間に表参道周辺エリアに主だったスーパーブランドの路面店がこぞってオープンの予定。出店ラッシュの背景にあるものは?

地元商店街振興組合「原宿表参道欅会」事務局長の毛塚さんは、表参道における“スーパーブランド出店ラッシュ”の要因として、

  1. 歴史的・環境的ロケーションの良さ
  2. 行政と商店街振興組合によるインフラ整備の完備
  3. バブルがはじけて日本企業が撤退した後、勢いのある外資系企業の進出時期とタイミングが合った

こと等を挙げる。「明治神宮に通じる、多くの人が集まる参道として完成した時から道路の幅は変わらず、植樹して86,7年にも及ぶ欅の並木道もきれいに保護されている。表参道は歴史と環境が揃い、文教地区としての秩序がある」と、毛塚さんは続ける。表参道は渋谷区の地区条例でゲームセンターやパチンコ店、マージャン店や風俗店の進出を抑制しているほか、表参道にふさわしくない屋外広告の規制も行っている。「欅の保護、清掃活動、歩き疲れたら気軽に腰掛けることのできるブラスバンドの設置など、多くの努力を継続した結果として、イメージの良い表参道ができあがった」ことで、周囲の環境やイメージを重視する外資系企業が社屋や旗艦店を構える場所として真っ先に表参道を挙げるようになったのである。

ここ数年、表参道では「グッチ」「GAP」「ベネトン」など外資系企業の進出が目立っている。毛塚さんは「バブルの後始末という意味では、表参道から撤退した日本企業の跡地に、潤沢な資金と勢いのある外資系企業が進出したと言える。現在、表参道の平均家賃は坪10万円なので、今これをまかなえるのは外資系企業しかない」と分析を加える。

原宿表参道欅会

■世界中の建築デサイナーの競演、オープンまでのカウントダウンも話題に

ショップ自体もファッションと同じ“モード”であることを体現化するには、建築デザインが重視される。ファッションと建築のコラボレーションは、アパレルメーカーが力を持ち始めた頃にスタートした。日本では「DCブランドブーム」の頃にさかのぼる。商店建築に詳しい業界誌の編集者は「若手建築家は自作を披露する場として、公共施設を手がけてきた実力派の建築家にとっては新たなマーケットへの進出の布石として、最もパフォーマンス力があるのが、流行っているブランドのショップを手がけること」と分析する。

エスキス表参道の「イヴ・サンローラン リヴ・ゴーシュ青山」の店舗設計は、同ブランドのクリエイティブディレクターを務めるトム・フォードと、インテリアデザイナーであるウィリアム・ソフィールド。トム・フォードは「グッチ」を現代のようなカリスマ的ブランドに変身させた立役者で、現代、世界で最も著名なデザイナーの一人。「グッチ」が1999年に「イヴ・サンローラン」を傘下に入れたことで、2000年からトムが「イヴ・サンローラン」のデザインを担当している。ウィリアム・ソフィールドはニューヨークのホテル「ソーホー・グランド」の内装に始まり、多くの人気ショップの内装を担ってきた。「グッチモダニズム」が凝縮した「グッチ青山」もトム&ソフィールドが担当している。

イヴ・サンローラン リヴ・ゴーシュ青山 TEL:03-6418-0630

同じくエスキス表参道の「シャネル」の店舗設計は、「シャネルニューヨーク店」、「シャネル心斎橋店」を手がけた米国の建築家ピーター・マリノ。ピーター・マリノは「ルイ・ヴィトン心斎橋店」の内装デザインも担当。ちなみにパリ・シャンゼリゼとロンドン・ニューボンドストリートの「ルイ・ヴィトン」の店舗もピーター・マリノが手がけている。内装は透明度の高いガラス棚とライティング効果により、一つ一つの商品がまるで宙に浮いて輝いているように演出されているのが特徴。同ショップの面積は約700平方メートルで“日本最大”のシャネルブティックである。

シャネル TEL:03-6418-0630
表参道

「エンポリオ・アルマーニ青山店」は、“アルマーニ王国総帥”ジョルジオ・アルマーニ本人のディレクション。地上2階、地下1階の3フロアで構成され、売場面積は620平方メートル。ミラノの「エンポリオ・アルマーニ」ショップのイメージを踏襲したもので、マットと半透明、浮き彫りとなめらかさ、反射するものと不透明なものなど、物理的、視覚的なテクスチャーにおいて対照的で互いに補っているのが特徴。また、乳白色と透明の2色のガラスによって構成される高さ10m、広さ200平方メートルに及ぶファサードと吹き抜け階段は見もの。

エンポリオ・アルマーニ青山店 TEL:03-5778-1631
エンポリオ・アルマーニ青山店

次に来年オープン組の建築家に目を向けると、まず、「エスキス表参道」隣に2002年オープン予定の「クリスチャン・ディオール」は、いまだ秘密のベールに包まれており、詳細は明らかになっていない。これもブランド戦略のひとつかもしれない。

その「クリスチャン・ディオール」建設地の隣が、2002年9月1日のオープンを予定している「ルイ・ヴィトン館」。建築家は、「日本建築界の寵児」青木淳氏。97年竣工「潟博物館」(新潟県)で日本建築学会作品賞を受賞、1999年9月竣工の「ルイ・ヴィトン名古屋栄店」の外観、2001年11月にオープンした「ルイ・ヴィトン松屋銀座店」両店の外観を担当した青木氏が、表参道「ルイ・ヴィトン館」では、内観を含む館全体について設計に携わっている。先に手がけた2店舗では、市松模様のガラスと、その背後にある同じく市松模様の壁とを重ね、美しいモアレを浮かびあがらせた。この斬新なアイデアが大反響を呼び、青木氏の名は世界中に知れ渡ることとなる。「ルイ・ヴィトン館」では、青木氏は新たなチャレンジを試みる。「ルイ・ヴィトン」のトランクを積み重ねたイメージのショップである。トランク(各フロア)はランダムに積まれるので、随所に隙間が生まれ、店内にいればそこから表参道のケヤキ並木を見ることができるという。フロア面積は3,263平方メートル、地下2階、地上8階。

「ルイ・ヴィトン館」工事中の建設地では、オープン1年前の本年9月1日より、カウントダウン・プロジェクト「テアトル ルイ・ヴィトン」がスタートしている。これはビル建設に伴う仮囲いが工事現場に1年以上にも渡って設置されることから、この期間にも表参道を歩く人々の目を楽しませたいというルイ・ヴィトン ジャパンの意向によるもの。同社プレス資料によれば、光ファイバーを駆使した世界初の技術を採用することで、銅版画家の山本容子氏の描く銅板画の人物が、スクリーンに見立てた「仮囲い」に映し出されるという。映像は毎日異なり、ルイ・ヴィトンの歴史に深い関わりを持つ人物など様々。ライティングアーティスト豊久将三氏の設計による、最新のコンピュータ制御のプロジェクションシステムを設置し、ハイテクな光学技術をミックスした「カウントダウン」プロジェクトは、オープンまで期待感を演出してくれる。

クリスチャン・ディオール

2002年後半、南青山5丁目にオープンする「プラダ南青山店」(仮称)の建築を担当するのは、スイス出身の建築家デュオ、ヘルツォーク&ド・ムーロン。ジャック・ヘルツォークとピエール・ド・ムーロンは、2000年に開館した、世界一の大きさを誇るモダンアートの美術館「テート・モダン」(ロンドン)の成功により一躍脚光を浴びた。これは1940年に建設された発電所を現代アートの殿堂へと改築するプロジェクトで、この建物自体が世界中に発信する建築作品なのである。彼らの特徴は、装飾を排したミニマル性にある。商業的な空間を手がけるのは初めてだが、プラダジャパンのプレスによると、「従来のショップと異なる店づくりをコンセプトに据え、おもしろい素材を使い、ショップの定義をくつがえす建築となる。それはガラスを使った氷山のようなもので、かつてないものができあがる」とのこと。プラダの世界観を体現する情報発信型ショップを目指す。

ファッション業界が、意中の建築家を獲得することに情熱を注いでいるのは、ブランディングを体現化するリアル店舗の実現に力を注いでいる証拠。ブランドという「見えない」価値を創造し、販売する企業にとって、顧客との接点となるリアル店舗が放つメッセージはマーケティング同様、明確でなければならない。優れた建築家、店舗デザイナーが宿す立体的で視覚的なセンスと、衣料や鞄、靴を創造するメーカーのセンスを高度な次元でリンクさせる必要がある。

プラダ南青山店(仮称)

■先行オープンした「エスキス表参道」のポジショニング

9月29日、表参道「ビブレ」跡に、世界有数の17の海外高級ファッションブランドと2つのレストランが一堂に会する複合ファッションビル「ESQUISSE表参道」がグランドオープンした。地下2階、地上5階、延床面積約7,337平方メートル。「シャネル」(1,2階)、「イヴ・サンローラン リヴ・ゴーシュ」(1階)、「グッチ」(地下1階)、「アレキサンダー・マックイーン」(地下1階)など著名なブランドが集積し、早くも表参道のランドマークになりつつある。

同ビルを誘致した三菱商事新機能事業グループ金融事業本部プリンシブルの佐藤さんは「特にファッションビルを作ろうとした訳でなく、当初は不動産投資の意味合いが強かった」と説明する。ビジネスとしてファッションビルを立ち上げることになった時、佐藤さんをはじめとする開発チームは20~30代の女性層を主なターゲットとして選んだ。「彼女たちは自分を大事にする、言い換えれば、自分なりの価値を重視する層。『エスキス表参道』は彼女たちに満足してもらえるようなファッションビルをめざすことにした」と佐藤さんは、開発からコンセプト設定に至るプロセスを語る。

佐藤さんが中心となり、ファッションビルの核となるスーパーブランドの誘致に動き始めた頃、時を同じくして多くのスーパーブランドも表参道を目指していた。「クリスチャン・ディオール」「プラダ」など老舗ブランドである。やがて「シャネル」「グッチ」がテナントとなることが決まり、佐藤さんは「それらを核として出来上がるストーリーを構築した」という。「そして20代~30代の自分なりの価値を大事にする層に“ブランドの宝石箱”を提供することが『エスキス表参道』のポジショニングとなった」のである。

表参道の「オトナ化」はさらに進化を続ける。来秋、ルイ・ヴィトン、クリスチャン・ディオール、プラダなどスーパーブランドが表参道に相次いでオープンすることについて、佐藤さんは「ブランドは宝石だから、固まることでまた輝きを増す。競争の中で磨かれて残っていくものがまた輝く」と歓迎の姿勢を見せる中、「1年後にはブランド戦争が起る表参道。ルイ・ヴィトンさんが出店してからが本当の勝負と見ている」と、気を引き締める。

エスキス表参道

20~30代の働く女性は、「ブランドを購入できる自分を誉めてあげる」「よく働いたご褒美に自分にブランド品を贈る」傾向が強い。ストレスの多い現代社会では、ブランド購入がひとつの「癒し」となっている。彼女たちは“ブランド”という「見えない価値」を手にして、同じく“癒し”という「見えない利益」を享受する。生活必需品はデフレ対応の激安店で購入しながら可処分所得を最大限に温存している。技術の向上により商品そのものでは差別化を図りにくくなっている現代においては、長年のマーケティング活動によって培われたブランドイメージこそが、差別化の切り札となっている。ブランドイメージは、今や企業の“見えない資産”として、重要視される中、ブランドイメージをリアルな形にしなければならないフラッグシップの構築においては惜しみなく資金を投じる。表参道という最高のステージに、最高レベルの建築家をフィーチャーしてまでフラッグシップのクオリティを追求する海外ブランドは、数年先の短いスパンではなく、何十年、或いは何世紀といった先の未来を見据えた投資として位置付けているとも考えられている。ブランドに対するこの徹底したこだわりは、目先の戦略を追いかける日本の国内企業こそ、学ぶべき点が大きい。

結果として、ルイ・ヴィトン2000年12月期の日本市場の売上げは、バブル期の約2倍、1,003億円に達している。不景気に高級ブランドが売れる仕組みは複雑に見えるが、意外にわかりやすい。不景気になって自信をなくした日本人の拠り所が、世界に通用するブランドなのである。それらを身に付けると、安心感と一緒に自信までも手に入れることができる。同じ価格ならブランド力がある商品が選択される。同じ品質であっても、高い商品が売れるのは、このブランド力がある証拠。一方、特定のブランドを支える“熱狂的ファン”=リピーターの存在も大きい。彼女たちはブランドの“信者”として商品を購入する消費者という側面に加えて、外出する際にそれを身に付けることで、ブランドの普及にも貢献する。

今日の不景気は、視点を変えれば「出店の契機」とも言える。沈滞する企業が増えれば増えるほど、攻撃の手を緩めない企業がパワフルに映る。売れている商品が売れることで、「ひとり勝ち」する企業が生まれる。バブル崩壊以降、弱体化した日本企業と比べ、世界進出の豊富な経験を持ち、マーケティングに長けた外資系アパレル企業は、今日の「勝ち組」として日本マーケットへ進出し続けている。景気が低迷しているといえども、日本は彼らの明確なターゲットであり、日本人は程度の良い「お客様」なのである。

少し以前まで、海外ブランド言えば、銀座がそのイメージを一身に担ってきた。今や、表参道が銀座に並ぶ“スーパー・ブランド街”となりつつある。これから数年の間に続々と出現するスーパー・ブランドが足並みを揃えた時、銀座のイメージを抜き去る日が来るかもしれない。若者の集まる渋谷・原宿と隣接しながら、普遍の環境を提供する「Omotesando」は、世界の有数ファッション・ストリートとして、その名を世界に馳せる。

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