特集

「モテたい」意識が利用の動機?
拡大する10代男子のスキンケア市場

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■スキンケアへの目覚めは「モテたい」願望の表れ?!

男性用化粧品メーカー「マンダム」が発売している「GATSBY(ギャツビー)」シリーズは、ヘアケア、フェイスケア、ボディケア商品をラインナップしているヤング層に支持の厚いブランド。全国の男性を対象に、同社が2002年に行なった調査によると、肌の状態については高校生の90.6%が「余分な皮脂を取りたい」と答えており、中学生でも71.7%が皮脂に悩んでいる。また「肌の乾燥を防ぎたい」という高校生は60.4%、中学生は34.0%という結果が出た。

首都圏の中学生~大学生を対象にした「あぶらとり紙」の使用状況調査では、高校生の60%が「現在使用している」と答えている。

  全体 中学生 高校生 大学生
現在使用している 20.3% 26.0% 60.0% 42.0%

また、1999年~2001年に東京の中学生~大学生を対象に調べたリップクリームの使用率を見ると、2001年には82.9%の男子がリップクリームを使用したことがあると答え、その数が年々増加していることからも、数字からは10代男子のスキンケア意識の向上が伺える。

同社広報IR室の次長である高橋さんに、10代男子の最近のフェイスケア意識について話を聞いた。「10代男子の多くが抱えている肌の悩みと言えば、皮脂の多さと毛穴の汚れが一番に挙げられる。そのため、当社で発売しているギャツビーシリーズの洗顔料3種の中でも、圧倒的に人気の高い商品はフェイシャルスクラブ」だと言う。スクラブ系の洗顔料は、皮脂と毛穴の汚れをしっかり除去するタイプのもので、その他には保湿効果のある「つっぱりガード洗顔フォーム」と、洗顔後に清涼感が得られる「クールフェイシャルフォーム」があるが、「クールフェイシャルフォーム」の売り上げと比較すると、「つっぱりガード洗顔フォーム」はその1.5倍、「フェイシャルスクラブ」は3倍の売り上げを示している。

「皮脂の多さに悩むのは10代に限らず、20代、30代の男性でも言えることだが、商品について話題を起こすのは常に高校生や大学生などの10代男子」だと高橋さんは続ける。同社では約3年前にフィルムタイプの男性用あぶらとり紙(70枚入り294円)を発売した。濃いブルーのフィルムには目に見えない小さな穴が無数に開いていて、その穴が皮脂を吸い取るため、紙よりも遥かに吸収率の高い商品ということで人気を集めたという。しかし、発売当初の大阪では、若者が流行のファッションを求めて集まるというアメリカ村に、使用後のあぶらとり紙が散乱するという問題が起きた。濃いブルーのフィルムタイプのあぶらとり紙は、誰の目にもすぐ同社の商品だとわかった。「女子は使用済のあぶらとり紙を道端に捨てるようなことはしないため、当社としては予想外の事態だった。急遽、商品ケースに使用後のあぶらとり紙を入れられるようなポケットを付けるという対応をとった」と振り返る。現在では、紙タイプのものにパウダーを付着させ、サラサラ感を与える「パウダーあぶらとり紙」と、アルコール純度が高くニキビ菌の除去効果がある「薬用あぶらとりペーパー・ウェットタイプ」を加えた3種をラインアップし、肌質で選べるようになっている。

さらに、最近の10代男子の関心が高いのが「唇のUVケア」。「顔は日焼けして黒くなりたいという男子でも、唇が荒れてカサカサするのは防ぎたいという意識が強い。それは自分自身の不快感もあるだろうが、一番の理由は女子の好みの影響らしい。10代女子にとって唇のカサカサした男子は不快に感じるようだ。そのため、リップクリームは冬場に限らず、夏場の使用頻度も高まってきているのが近年の特徴。当社でも、今年2月からUVタイプのリップクリームを発売したところ、好調な売れ行きを推移している」(高橋さん)。また、最近売り上げの伸びが顕著な商品が「アイブローキット(945円)」。眉毛をカットして整えるためのキットで、ハサミとブラシ、眉毛抜きがセットになっている。「当社で発売したのは1999年8月だったが、それまでは彼女の物を借りたり、恥ずかしい思いをしながら女性化粧品売場で購入したりする10代男子が多かったようだ。初めて使う男子の場合、使い方がわからないケースが多いため、ハサミの使い方やカットの仕方などを説明したマニュアルを付け、好評」と高橋さん。都内では眉毛をカットしていない高校生を探すほうが困難なほど、男子の「眉カット」は常識となりつつあるようだが、同社の商品も4月の売り上げは昨年比15%アップを記録している。

「10代の男子がスキンケアに目覚めるのは、女子の目を意識し始めたという表れ」と、高橋さんは言う。「女子は自分の美しさを求める傾向にあるが、男子の場合は女子にモテたいという意識が働くことがスキンケアを始める引き金となっている。今の10代の女子は、まず汚い男子がダメ。脂ぎってない、つるつるしてさっぱり小奇麗な男子を好むため、そうした女子の好みに合わせようという10代男子が今は増えてきているのでは」と分析する高橋さん。女子は小さな頃から母親の肌の手入れを見て育ち、学校の友達が化粧を始めると自分もしたくなる。しかし、男子にそうした環境や意識はなく、恋愛の目覚めによってようやくスキンケアを始める、というのが一般的なパターンのようだ。

マンダム GATSBY(ギャツビー)
GATSBY:フェイシャルスクラブ GATSBY:あぶらとり紙 GATSBY:リップクリーム GATSBY:アイブローキット

■スキンケアの情報源は雑誌の特集や口コミ

渋谷ロフト1階の健康雑貨売場、ケア用品担当の森田さんに、店頭の動きを聞いた。「当店でメンズ化粧品をラインで揃えているのは『エテュセ・オム』という1ブランドだけだが、数年前からコンスタントに売れているリピーターの多い商品。購入する客層は10代~20代前半の男子」と森田さんは言う。中でも人気商品は、「『アクネソープ(100g/1,050円)』で、1週間に30~50個は売れている。また、ニキビを目立たなくする肌色クリームの『コンシーラー(10g/1,575円)』も、1週間に10個は売れる」。スキンケアは洗顔が一番大切だと言われているが、10代男子も基本をしっかり押さえているということだ。渋谷ロフトは女性客の多い店であるため、カップルで来店して女子のほうが彼の化粧品を選んであげるという光景も見られるようだが、「化粧品を買う10代男子は、どちらかと言えば男同士のグループで来店する傾向が強い。互いに『これいいぜ』などと勧め合い、数人で一緒に買っていくケースがよく見受けられる。10代男子にとって、化粧品は1人で買うのが恥ずかしいという要素があるのかも」と、森田さんは見ている。

「来店する10代男子客は普通の学生だが、お洒落に敏感な感じの人が多い。理想の肌にこだわりを持ったり、ニキビや敏感肌に真剣に悩んだりしている人が多いため、相談を受けることもしばしば」と森田さん。顧客の悩みに合わせて、種類が豊富な女性用化粧品のなかから商品を勧めると、それを購入していく10代男子客も少なくないそうだ。パッケージがあまりにも女性的なものは敬遠されるが、ユニセックス的なデザインであれば抵抗なく買えるという。ちなみに「エテュセ・オム」は一切CMをしていないため「雑誌や口コミで知って買いに来る顧客がほとんど。雑誌モデルの影響などもあるのでは」と、森田さんは推察する。

渋谷ロフト
渋谷ロフト 『エテュセ・オム』

渋谷の街を歩いていた10代男子に、実際はどんなスキンケアをしているのか聞いてみた。ユウタ君(17歳)は「中1のとき、床屋で眉毛を整えてもらってから自分でも抜いたりして整えるようになった。肌の手入れとかは別にしてないけれど、一時期ちょっと肌が荒れたとき、母親の化粧水を勝手に使ったりしたことがある」という。また、テレビ番組「伊東家の食卓」で、スーパーのビニール袋があぶらとり紙の代用品になるという情報がオンエアされてから、周囲で実践している友人が多いともいう。タイスケ君(17歳)は「洗顔料はDHCフォーメンを愛用、眉毛は資生堂のアイブローキットを使っている。スキンケアをするようになったのは、学校でみんながやり出したから」。シンゴ君(17歳)は「眉毛が薄いのが悩みで『ジェレイド』のアイブローを使って描いている。好きな子ができてから、やっぱ肌もきれいにしなきゃって、頑張るようになったかも・・・」という。やはり、女子に対する意識の変化から、スキンケアを始める男子は多いようだ。一方、こんな意見もある。「男も肌はきれいなほうがいいとは思うけど、手入れをするのは面倒くさいし、お金がかかるからやらない」と言うのはダイスケ君(17歳)。中学生のナオタ君(14歳)は「ビオレのスクラブ系洗顔料を使っているけど、スキンケアにはまだ興味がない」とのこと。ちなみに好きな女の子もまだいないそうだ。

ユウタ君 シンゴ君・ダイスケ君

■清潔感のあるファッションにはスキンケアも不可欠

ヤング向けファッション誌「クールトランス」(ワニブックス)では、年に2、3回、定期的にスキンケア情報の特集を組んでいる。同編集部の笠原さんは「メーカーの話を聞くと、確実に需要が増えているという。一説では、女子よりも男子のほうが皮脂が多いことや、シェービングなどで傷つけやすいことから、スキンケアの必要性があるとも言われている」という。「今、10代男子のファッションは『清潔感がないと女子にモテない』という傾向にあり、スキンケアは今や清潔感をアピールするためには不可欠な要素になっている」と話す。

肌の手入れと言えばやはり女性的なイメージが強いため、10代男子はまだ店頭で購入することに恥じらいや抵抗があるのかもしれない。また、お金がかかるという点からも、女子よりは優先度が低いようだ。しかし、10代男子が清潔感のある身なりで女子にモテるためには、お洒落をするのと同様に、スキンケアが欠かせなくなってきているのもまた現実。女子の好みを背景に、「見られること」を意識する10代男子の増加は、静かに、しかし確実に、メンズ・スキンケア市場を拡大している。

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