特集

10代女子のファッション消費を牽引する
「SHIBUYA109」パワーのメカニズム

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■ターゲットを絞り込み、希少性と独自性のあるブランドを集積

「SHIBUYA109」がオープンしたのは1979年、首都圏を中心に続々と商業施設が建設されていた頃のことだ。当時の「SHIBUYA109」の様子を、運営会社である東急商業開発の販売促進部次長、相馬さんに聞いた。「オープン当初の109は、昔ながらの総合的なファッションビルで、テナントの中には呉服店もあればスポーツショップやレコードショップ、メンズファッションの店なども入っていた」と、当時の様子を振り返る。オープンから右肩上がりに売り上げを伸ばし、5、6年は成長期が続いたが、それもやがて安定期に入る。1990年頃、バブル崩壊の影響で小売業全体が落ち込み始めたとき、109も例外ではなかった。見直しを図るため、フロア毎の売り上げに注目したところ「全体の売り上げが下がっている中、地下1階だけが依然伸びていた」(相馬さん)。当時、地下1階に入っていたのは、現在も変わらず人気店である「me Jane(ミジェーン)」「LOVE BOAT(ラブボート)」といった「セクシー系ファッション」と呼ばれるヤング・レディース・ファッションの店。相馬さんは「渋谷は昔から若者の街と言われ、来街者調査においても16~23歳の年齢層が突出して多い街だった。そこで1995年から、ターゲットをヤング・レディースに絞り込むという戦略を始めた」と証言する。

手始めに、3階フロアにヤング・レディース・ファッションの店を誘致したところ、見事思惑通り、客が上層階へ流れ出した。続いて4階、6階とリニューアルを進める毎に、全体の売り上げが回復していったという。「6階には以前、大型のCDショップが入っていたが、ワンフロアを16区画に分け、『マルキュージャム』と銘打って10代を対象としたヤング・レディース店を16店舗誘致し、これが当たった。その後5階、地下2階とリニューアルを進め、現在のようなヤング・レディースに特化したコンセプトの109が出来上がった」と相馬さん。現在、SHIBUYA109は「ティーンのメッカ」と異名を取るが、10代の心を捉えた要因について相馬さんは「ターゲットを16歳~23歳の女性に絞り込んだ点が効を奏した。顧客にとってわかりやすく『あそこに行けば私の欲しいものがある』と認知されたことが勝因」と捉えている。「さらに、テナントもナショナルブランドではなく、希少性とオリジナリティの高い店を集めたことが『他では手に入らない』という価値を生んだ」と付け加える。こうしてSHIBUYA109は、1995年を境に現在まで、年々売り上げを増やしていった。

現在、ティーンの間では「109系ブランド」という括りで認識されているショップがある。「LB-03(エルビー・ゼロスリー)」「COCOLULU(ココルル)」「LIZLISA(リズリサ)」などといったショップで、いずれもSHIBUYA109への出店を契機にブレイクし、多店舗展開などで飛躍を遂げたブランド。現在、ティーンに絶大な人気を博しているサーフ系のショップ「ココルル」は、100店以上ある109のテナントの中で売上高2位を誇っている。運営会社「エクシブ」のプレス担当、柏野さんは「1998年に1号店を109に出店し、現在では全国に21店舗、そしてハワイにも1店舗展開している。109は流行の発信地であり、ショップの原点であり、現在の拠点でもある。現代の若者が次に何を着たいと思っているのか、という情報が掴みやすい場所」と言う。

SHIBUYA109 SHIBUYA109

「ココルル」は出店直後にいわゆる「カリスマ店員ブーム」に乗り、早い段階で5億、6億という年商を叩き出した。しかし、現在まですべてが順風満帆だったわけではなく、3年ほど前に売り上げを落とした時期があったという。109系ブランドの特徴は、デザイナーが元々ショップ店員だった者が多い点だ。顧客に近い感覚で商品を企画できる点が強みとなる。しかし「年月が経つに連れ、企画側の感覚が鈍ってしまったことが3年前の低迷の原因。109の顧客は常に入れ替わっているため、商品の若さや新鮮さを保ちつつ感覚を磨いていかなければならない。それが109で生き残っていくための必須条件」と柏野さんは振り返る。相馬さんも、「10代を捉えた109の魅力は、すべてテナントの努力にある。109スタートのブランドは、大手ブランドと違って規模が大きくない分、柔軟性の高いことが特徴。顧客の嗜好が猛スピードで変化する現在、フットワークを軽く時流に合わせ、さらに半歩、一歩進んだ提案ができる店が、109の中で人気を集めている」と話す。

SHIBUYA109 COCOLULU
COCOLULU(ココルル COCOLULU(ココルル

■「カリスマ店員」を生み出し雑誌との相乗効果で一世を風靡

「SHIBUYA109」が異色の商業施設として人気を得た背景には、ターゲットを明確に絞り込んだという109側の戦略と同時に、いくつかの社会現象が関係している。カリスマ店員ブームはもちろんのこと、例えば1996年頃、一世を風靡した「アムラー」現象。人気アーティストの安室奈美恵さん専属のスタイリストが、109系ブランドで衣装を揃えていたことがティーンの間で話題となった。また、女子高生ブーム、コギャルブームといった現象からヤング・レディース・ファッション誌が次々と創刊されたのもこの時期。月刊誌「Cawaii!(カワイイ!)」(主婦之友社)を始め、ギャル系雑誌と呼ばれる媒体がこぞって渋谷ファッションを採り上げ、特集を組んだ。「109のターゲットが明確だったため、雑誌の切り口としても取り上げやすかったのでは。戦略が時代にマッチし、社会現象や雑誌媒体のバックアップにより相乗効果をもたらしたことが、109復活の要因」と、相馬さんは見ている。

現在では、「カリスマ店員」という呼称は死語になりつつあるが、109を利用する10代の顧客の間では、カッコイイ店員に対する憧れは未だに健在だ。「リズリサ」を運営する「ヴェント・インターナショナル」の本部長、菊地さんは「カリスマ店員に代わる存在として、現在は『モデルスタッフ』を起用している。雑誌の読者モデルをしている女の子を社員として雇用し、セールや新規出店のイベントの際、ショップスタッフとして店頭に立ってもらうことで集客に効果を上げている」という。人気のあるモデルスタッフが店頭に立つとなると、地方からもティーンが来店する。「顧客はモデルスタッフと写メールを撮ったり、握手をして泣き出したり、店は大いに賑わう。当日の売り上げに直接反映してくるわけではないが、ブランドに愛着を持ち、店を長く愛用してもらうためには有効な戦略」と、モデルスタッフ起用の効果を打ち明ける。10代の女の子にとって、プロのモデルは遠い存在だ。しかし、モデルスタッフのように同世代で身近な存在は、等身大のモデルとして熱狂的な憧れの対象となる。10代の消費を牽引する109には、ショップ店員の人気が、もはや欠かせない要素となっている。

LIZLISA
LIZLISA(リズリサ) LIZLISA(リズリサ) LIZLISA(リズリサ)

■個性ある店を好条件で誘致、次世代を担うブランドを育成

5月15日、SHIBUYA109の7階がリニューアルオープンした。テナントを公募で集めた「109STAGE(ステージ)」の5店舗と、6つの新店舗が出店。「109ステージ」は、次世代ヤングファッションリーダーに活躍の場を与えることを目的とし、契約金、敷金、賃料などの面で特別に配慮した、1年間という期間限定の物販スペースだ。相馬さんは「109はブースに空きができるとすぐに出店申請が殺到するようになった。しかし、出店費用が高いのではないか、人気が高いから無理なのでは・・・という理由で、独自性、希少性のある若手ブランドにチャンスが回らなくなると、109にとってもマイナス。109が常に変化し進化するために、企画の実施に踏み切った」と狙いを語る。今年1月に公募を発表したところ、個人・法人合わせて90件弱の申し込みがあった。この企画は、109内部で「ティスティングスペース」呼ばれている。「試験的な」という意味と、「味わう」に値する個性のあるショップを集めたという意味だ。「中でもオーナーにやる気と情熱があり、企画力と多少の経験があることを基準に、109のコンセプトに合った応募者を採用した」(相馬さん)。

「109ステージ」のオープン以来、常に「日商」のトップを走るのは、「世界を旅する人のファッション」をテーマにしショップ「GILFY(ギルフィ)」。同ブランドのオーナーである宮内さんに話を聞いた。「109は、値頃感のある旬のファッションを提供しているところが魅力だと思う。独立前に1年半ほど109に携わっていた経験があり、109のマーケットは事前に把握していた。そこで、109の中でも決して二番煎じではない、独自のブランドで勝負したいと考え、出店に応募した」と語る。「ギルフィ」は、「GILD(ギルド=飾る)」と「BEAUTIFY(ビューティファイ=美しくなる)」を合わせた造語で「美しい人をより美しく飾る服」という意味が込められているという。

実は「ギルフィ」のターゲットは10代がメインではない。良いものをゆったりと着こなす20代以上の顧客層を狙っている。「109のメインターゲットが10代であることはわかっているが、当店の存在によってさらに上の顧客層も109に引っ張ってきたいと考えている。また、たとえ当店のターゲットが20代だとしても、10代の顧客にも十分に支持してもらえる勝算はある。ティーンの女の子たちは、常に上の世代に憧れるものだから」と分析する。宮内さんは109全体の客数に比べ、7階まで上がってくる客数は10分の1だと感じているそうだが、今後の取り組みによって客の流れを引き寄せ、1年後には通常契約を交わして109で勝負していきたいと抱負を語る。

GILFY
GILFY(ギルフィ) GILFY(ギルフィ) GILFY(ギルフィ)

■大音量のBGMで楽しさを演出、10代の期待感を煽る

SHIBUYA109の特徴のひとつに、店内に流れる大音量のBGMが挙げられる。相馬さんは「若者にとって音楽とファッションは密接な関係。クラブ系ファッションならブラックミュージック、サーフ系ファッションにはレゲエ、といった具合に。109のBGMは全館で流しているものもあるが、各テナントがそれぞれ曲をセレクトし、主体的に流している」と話す。「ビルの管理側としては、ある程度の音量規制は行なっているものの、ショップでは楽しさを演出するために各店はBGM戦略を行なっているようだ。ボリューム感のある陳列やショップ店員による元気で明るい声掛けなど、各ショップが競い合うように演出している」(相馬さん)。

109でショッピングをしていたティーンに感想を聞いてみた。愛知県から修学旅行で来ている中学2年生の女の子は「BGMが大きくてビックリした。109は楽しそうなところだな、と思っていたけれど、初めて来てみてやっぱり楽しかった」と言って、大きなショッピングバッグを嬉しそうに抱えていた。また、秋田県から同じく修学旅行で来ていた15歳の女の子は「人が多くて驚いた。ずっと憧れていた場所だったけど、欲しいものがあり過ぎて困っちゃった」と言う。しかし、神奈川県から来ていた19歳の女の子は「109はギャルの行くところ、というイメージが強くて、私が行くところとはちょっと違うという感じ」といった声もあった。

10代の消費者は移り気で、自己のスタイルを確立する前の世代であるが故に「自分にはどんなファッションがいいのか」を常に模索している。そのため、109の中でも、安定した店を除けば人気店の入れ替わりは激しい。そんな中、「次はコレがいける」と踏んだら短期間で商品化し、反対にダメだと思ったら即切り替える柔軟性のある店が人気を維持している。目まぐるしく変化する10代の嗜好を、それと同等かそれ以上の速さで捉え、商品に反映していくテナントの努力が、他の商業施設との差別化につながるSHIBUYA109独自のパワーの源泉となっている。

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