特集

英国ブランドの上陸で活気づく
渋谷「サンドイッチ・カフェ」最新事情

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■サンドイッチ・カフェの潮流

母国イギリスでは200余年の歴史を持つサンドイッチ。日本では、1899年(明治32年)に駅弁として初めて登場。当時は行楽の人気弁当であった。当時はまだサンドイッチ・ショップやサンドイッチ・カフェといった業態はなく、サンドイッチは弁当のひとつのメニューであった。その後、洋食店が「カツサンド」を考案し、洋食メニューのひとつとして浸透する。一方、ベーカリーショップも次々にヒット商品を考案していく。ペストリー、クロワッサンなどのブームを経て、女性を中心に「おいしいパン」にこだわるスタイルが定着する。サンドイッチはおいしいパンはもとより、具材にも細心の注意を払う必要があるため、メニューの差別化としては大きな意味を持つ。サンドイッチはパン文化の浸透とともに現在ではベーカリーショップはもとより、サンドイッチ専門店、カフェ、レストランでも親しみのあるメニューとして定着している。

渋谷エリアに本格的なサンドイッチ・カフェの業態が登場したのは1970年。パンと洋菓子の製造販売を営む広島の企業で、ベーカリーとレストランの複合業態「アンデルセン」を広島に構えるタカギベーカリーが「青山アンデルセン」(南青山)を開店し、首都圏初進出を成功させる。「アンデルセン」の経営、フランチャイズチェーンの展開を営む「アンデルセン」(本社:新宿)はその後、多店舗化に成功。現在、全国で72店舗の展開を行っている。「青山アンデルセン」は地下1階に軽食主体のデリカテッセン&サンドイッチ・バー、2、3階は本格レストランスタイルのシチュー&サンドイッチレストランを設ける人気店。1階ベーカリーのパンもイート・インが可能。同社広報室の桑原さんは「創業オーナーが広島でパンの製造からスタートしたが、ただパンを売るだけでなく、パンを通じて食文化を提案していきたいと考え、ベーカリーとレストランの複合業態を考えた。パンはどのようにすればおいしく食べられるのかということを具体的に提案するのがサンドイッチ・バーやレストラン」と、業態開発のポイントを説明する。「青山アンデルセン」が進出するまで同店規模のショップはなかった。しかし、軌道に乗るまでさほど時間はかからなかった。桑原さんは「南青山は東京の一等地で、西洋の文化を取り入れた人が多いのでパン文化は自然に受け入れられたようだ」と分析する。アンデルセングループではベーカリーショップとしては「アンデルセン」ブランドと並行して「リトルマーメイド」ブランドを展開しているが、同時に「サンドイッチ・カフェ&ベーカリー」スタイルの店舗展開として「カフェ デンマルク」を全国に10店舗運営している。渋谷では2001年7月、センター街に「カフェデンマルク渋谷店」を出店。1階はベーカリー、2階はイート・インのカフェコーナー。同社では予想以上の手ごたえをつかんでおり、連日、若い女性で満席とのこと。

その「アンデルセン」が9月28日、世界最大のコーヒーチェーン「スターバックス」とコラボレートする新たなコンセプトの店舗「アンデルセン 横浜シァル店」を開店した。同店隣に同時オープンした「スターバックスコーヒー 横浜シァル店」向けにオリジナルのパンを開発。ペストリーやクロワッサン、サンドイッチ類約30アイテムを「スターバックスコーヒー 横浜シァル店」の専用商品として「アンデルセン」店内で製造し、「スターバックスコーヒー 横浜シァル店」のみで販売。また、「スターバックス」の客席(123席)を「アンデルセン」の顧客が利用できるサービスを導入したことも目新しい試みである。「アンデルセン」広報担当の?原さんは「現在のところ、スターバックスとのコラボレートは同店のみ。まだスタートしたばかりなので他の店でも実施するか否かは白紙の状態」と説明する。一方のスターバックスコーヒー(本社:渋谷区)では「抽出したての香り高いコーヒーと、焼きたて、作りたてで高品質なペストリー、クロワッサン、サンドイッチを提供することにより、幅広い客層に時間帯を問わず満足してもらえるサービスを提供できる」(同社広報)と、コラボレートの意図を説明する。同社でも今後のコラボレートの展開は未定とのこと。

アンデルセン
アンデルセン

代官山ヒルサイドテラス1階の「トムズ・サンドイッチ」(猿楽町)は、1973年開業の老舗のサンドイッチ・カフェ。サンドイッチをメインに据え、イート・イン、テイクアウトとも対応し、エスプレッソやカプチーノなどカフェメニューも揃えた業界のパイオニアである。パンにはさむマヨネーズやミートローフ、コンビーフなどはすべて自家製。店長の佐藤さんは「もともとお腹がいっぱいになるサンドイッチがあればいいなという思いで店を開いた。今は昔から通ってくださっている常連さんに支えられている」と話す。30年もの歴史を刻んできた同店でも「サンドイッチはファーストフードのイメージが強いが、素材にこだわり、オーダーを聞いてから調理をするので、お出しするまで時間がかかる。この時間を惜しまれる方が今でも多い」と開拓者としての苦労を語る。一方、サンドイッチ・チェーンや外資系サンドイッチ・カフェの進出について佐藤さんは「規模的に大型店には対抗できない。ウチはこのスタイルを続ける」と話す。

トムズ・サンドイッチ/TEL 03-3464-3045
トムズ・サンドイッチ

1977年、表参道から一本小路を入った場所にオープンしたのが「サンドイッチハウス バンブー」(神宮前)。もとはオーナーの自宅だった建物をレストランに改装し、当時はまだカフェ・レストランのメニューとしてはなじみの薄かった、20種類以上の具と3種類のパンの中から選べるサンドイッチを提案。開放的な空間とおしゃれなインテリアも手伝って、すぐさま人気店になった。店長の竹内さんは「当時はまだ今日のようなカフェの文化が定着していなかった。オーナーに海外生活の経験があったので、自然にカフェとサンドイッチを展開することに決まった」と話す。同店ではヘルシーな具材が人気で、特にシーフードがよく売れているという。カフェ、レストラン、専門店などサンドイッチを提案する飲食店のオープンについては「業態が違うので競合にはならないが、いいところは学ぶように務めている」と謙虚な姿勢で他店の動向にも目を配っている。

サンドイッチハウス バンブー/TEL 03-3407-8427
サンドイッチハウス バンブー

■チェーン店の展開にも注目

カフェ・チェーンやハンバーガー・チェーンの動向も見逃せない。現在、前出の「スターバックスコーヒー」のように精力的にサイドメニューに力を注いでいる。これは店舗の差別化になるほか、客単価のアップにつながることからカフェ・チェーンの大きな課題になっている。「ポッカクリエイト」(本社:新宿区)が運営するカフェ・チェーン「カフェ・ド・クリエ」では今秋、相次いで「新サンド」を発売した。フランス語でボールを意味する「ブール」(330円)はボール状で表面に3本の切り込みが入ったオリジナルのフランスパンにサーモンとクリームチーズをはさんだサンドイッチ。「パケット」(250円)は細長い棒状のフランスパンだが、同店ではミニサイズで焼き上げている。また、煮込みハンバーグをサンドした「トーストサンド」(390円)もランチ用に新登場。

ポッカクリエイト

国内屈指のカフェ・チェーン「ドトールコーヒー」(本社:渋谷)では、10月よりミラノサンドB「シーフードのハーブソース」と、ミラノサンドC 「モルタデラとフレッシュベジタブル」(各370円)の発売を開始した。2001年11月、超ロングセラーである「ジャーマンドック」を改良。本年はレギュラーフード刷新の第2弾としてミラノサンド専用パンの改良に着手。パンの原材料の配合を変更し、具材が引き立つサンドイッチを目標に据えたという。同社では「より口解けがよく、食べやすい形状の新しいパンを目指した。また、大人の男性にも満足してもらえるボリュームと食べ応えを実現したメニュー」としている。新サンドイッチはヘルシーがコンセプト。ミラノサンドC「モルタデラとフレッシュベジタブル」ではメインの具材に新鮮野菜をたっぷり使用。ミラノサンドB「シーフードのハーブソース」では、エビと貝柱、カットオニオンをマヨネーズで和え、ボリューム感がありながらさっぱりとしたサンドイッチを実現している。同社は価格と価値のバランスが見直されている昨今、「食事のできるカフェ」を標榜してきた。フードメニューの支持率を高めるために、レギュラーフードの改良に着手したのである。

ドトールコーヒー

ハンバーガー・チェーン「モスバーガー」を全国展開する「モスフードサービス」が運営する新業態「キッチンモス」は、食事を念頭に置いたレストランスタイルのショップ。既存店をリニューアルした「キッチンモス目黒三丁目店」ほか、都内に2店舗を展開している。同店の特徴は、ランチやティータイム、ディナータイムに合わせた商品の提供をはかっていること。早朝にはモーニングサンド、夕方5時以降はピザやサンドイッチに加え、アルコールも提供する。ハンバーガー・チェーンも新たなマーケットを模索しており、積極的に業態開発に取り組む企業は少なくない。

モスフードサービス
ドトールコーヒー

■日本上陸を果たした英国生まれのサンドイッチ・ブランド

ロンドンのオフィスワーカーのランチ・シーンに革命をもたらしてきた英国生まれの本格派サンドイッチ・ショップ「プレタ・マンジェ」の日本1 号店「日比谷シティ店」(千代田区)が9月25日、日比谷国際ビル地下にオープンした。続いて9月末から10月半ばにかけて「赤坂店」(港区)、「浜松町店」(港区)が開店。「プレタ・マンジェ」は1986年、ロンドンで創業。現在、イギリス国内で約120店舗を展開している、イギリスで最も著名なサンドイッチ・ブランド。2000年7月には海外初店舗として、“ファーストフード”の誕生国、米国ニューヨークのブロードストリートにオープン。現在、マンハッタンに13店舗を構えるほか、2002年には香港出店をはかり、現在4店舗が営業している。「プレタ・マンジェ」のサンドイッチの特徴は、合成の添加物は使用せず、新鮮な食材をふんだんに使っていること。サンドイッチ、バゲット、ラップは早朝からスタッフが手作りし、新鮮さを保持できる間のみ店頭に並べられる。この姿勢が消費者に大きな信頼を与えた。また、食に対するこだわりは食材だけでなく、パッケージにも徹底。サンドイッチは同社が独自に開発した耐久性の低い紙製のボックスに入れられている。耐久性の低い紙で包装することにより、サンドイッチが長時間作りおきしたものでなく、新鮮な状態であることがひと目でわかるようにするためである。

「日本プレタ・マンジェ」(本社:港区)広報担当の園木(そのき)さんは、利用客の反応を次のようにまとめる。「オープンして間もないが、従来のサンドイッチと異なる食材を使っているので目新しさがあることと、合成の添加物ほ使用せず、野菜を豊富に使っているので安心してサラダ感覚で食べられることなどの要因で好評を博している」。同社は戦略的にビジネス街に出店している。「日比谷、赤坂などビジネスで訪れる人が多い街。性別を問わず健康や食へのこだわりがあり、忙しくても食べるものに妥協したくないビジネスマンは多い。「プレタ・マンジェ」のサンドイッチはボリュームがあるので男性にも満足してもらえている」と、オフィスワーカーが集まるビジネス街での展開に手ごたえをつかんでいる。業態としては「サンドイッチ・ショップ」で、商品の受け渡しはテイクアウト。そうするとファーストフードチェーンに思われがちだが、園木さんは「注文を受けてから商品を渡すまで短時間で行うという意味では“ファーストフード”だが、業態としてファーストフードとは謳っていない」と独自性を強調する。

イギリス生まれの他のサンドイッチ・ブランドが今後、日本での展開をスタートすることについて園木さんは「イギリスではランチにサンドイッチというスタイルが浸透している。ほぼ同じ時期にイギリスのサンドイッチ・ショップが日本にオープンすることは、マーケットの拡大という意味で歓迎。商品を渡す形態は異なるが、日本になじみのなかった食文化を普及するめにはいいことだと考える」と語る。日本上陸当初のメニューは、約30種類のサンドイッチ、バケット、ラップを中心にデザート、サラダ、コーヒー、フレッシュジュースなどを含めた約90アイテム。少し酸味のあるグラナリー・ブレッドにフランス料理などによく使用されるクレイフィシュと、日本のサンドイッチではあまり使用されていなかったルッコラをふんだんにサンドした「クレイフィッシュ&ルッコラ」が人気メニューとのこと。今後の店舗展開としては、年内に都内5店舗、2004年までに80店舗を目指す。

日本プレタ・マンジェ

■英国の人気「カフェ&デリ」ブランド、恵比寿にオープン

11月1日、「恵比寿ガーデンプレイス」に新たに誕生する新商業施設「GLASS SQUARE」内に、ロンドン生まれの人気カフェ&デリ「ベヌーゴ」の日本1号店がオープンする。本場ロンドンで「サンドイッチがおいしい」と評判を得る同店は、カフェ・ソサイティー主催の2001年度「ベストカフェ」を受賞、さらに2002年の「サンドイッチ・バー・オブ・ザ・イヤー」を受賞した。「ベヌーゴ」の創業は1998年。店名は創始者である二人のイギリス人、ベネディクトとヒューゴから名づけられた。歴史はまだ浅いが、ロンドンではすでにブランドが確立している理由は、「サンドイッチ・バー」「カフェ&デリ」ブームの火付け役だからである。「サンドイッチ・バー」というスタイルは日本ではまだなじみが薄いが、サンドイッチを主体とした飲食店の総称で、ロンドンでは普段に大人が利用する店として生活に定着している。同店の特徴は、オーガニックにこだわった食材で作るフレッシュなサンドイッチと、グルメコーヒーなどドリンクメニューを総合的に提案することにある。ファーストフード店と異なり、大人をターゲットとした商品構成と言えよう。

ベヌーゴ ロンドン ベヌーゴ ロンドン

ベヌーゴ ロンドン

日本でも「ベヌーゴ」のムーブメントを起こすために本年6月「ベヌーゴジャパン」(本社:港区)が設立。同社は創始者の一人、ベネディクトの実兄ベンジャミン・ウォーナー氏とそのパートナーであるアンディー・マンキェヴィッチ氏が代表を務める。ベンジャミン・ウォーナー氏は、表参道の「V28」ビルや「ブルーノート・トーキョー」などを手掛ける日本でも有数の建築デザイナーで、英国「ベヌーゴ」のキーデザイナーも務める。アンディーはイギリスの人気ピザレストランチェーン「ピッツァエクスプレス」の日本法人社長を務めている。同社マネージャーの佐藤さんは「ロンドンの食文化を提案する『ベヌーゴ』は、具材の組み合わせ、パンとの相性などを考慮し、1品ずつオリジナルのサンドイッチを提供する店。オープンキッチンに近く、どちらかといえばレストラン寄りのスタイル。おいしいサンドイッチはもちろんのこと、おいしいコーヒーを出すことにも細心の注意を払っている。バリスタの育成にも力を注いでいる」と特徴を説明する。「日本人も成熟し、本当においしいパンを求めるようになった。だからジャンクフードでない、オイルも使わないヘルシーなサンドイッチはすぐに受け入れられると考えている」と自信をのぞかせる。

“グルメサンドイッチ”と表現される同店のサンドイッチメニューは3種類に分類できる。独自のレシピで展開する「ベヌーゴ・コンビネーション」、素早く選べる「ベヌーゴ・クラシック」、食材を自由にアレンジできる「カスタムメイド・サンドイッチ」。共通するのはオーガニックにこだわった具材と調味料、保存料無添加のパンを使っていること。人気定番商品の「ベヌーゴ・コンビネーション」には、「ニューヨーク」(スモークターキーのサンドイッチ)や「パリジャン」(ブリ-チーズのサンドイッチ)といった名前がついており、その土地ならではの食材がレシピに組み込まれていることも特徴のひとつ。12月16日には、2号店として赤坂のプルデンシャルタワーに「ベヌーゴ赤坂見付店」がオープンする。

ベヌーゴ

「サンドイッチ・カフェ」や「サンドイッチ・バー」と呼ばれる業態は、既存のベーカリーショップ、ファーストフードチェーン、カフェ、レストラン、コンビニなど、サンドイッチを取り巻く様々な業態からこの秋、注目を集めている。おいしいパンとおいしい具材から成るサンドイッチは、食文化の成熟期を迎えた日本でも、、手軽に購入できる新たな“ヘルシーフード”として受入れられると予想される。多忙なビジネスマンにとって栄養のバランスがとれた食事をテイクアウトできる点に対する潜在ニーズは高い。健康を意識する女性ワーカーやビジネスマンをコア・ターゲットに、ファーストフードやコンビニ、カフェのサイドメニューでは物足りなかった部分を、きちんとフォローしてくれるのが「サンドイッチ・カフェ」や「サンドイッチ・バー」のポジショニング。「サンドイッチ・カフェ」は街を大人化する要素でもある。

また、一部のベーカリーショップしかなし得なかったベーカリーとレストランの融合を定着させるという意味でも興味深い挑戦である。渋谷には逸早くサンドイッチを主体とした店が登場し、それぞれ個性を打ち出してきた。渋谷には新しいものを受け入れる消費者が多く集うため、ブランドを逸早く浸透させるには好都合であったとも言えそうだ。パンの風味や味に一家言持つ女性が増え、マーケットもしのぎを削っている。それだけに渋谷に出店することに大きな緊張感を持つ企業は多い。先の「プレタ・マンジェ」や「ベヌーゴ」の話題性が今後高まると、既存店や既存業態でもサンドイッチを核にした商品開発や新たな業態開発への取り組みが必至となる。

今後、街角に続々と増えそうなサンドイッチ・カフェは、激戦のフード業界をどのように塗り替えていくのだろうか。

時計台 創始者の二人 ベヌーゴジャパン ベヌーゴジャパン ベヌーゴジャパン
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