特集

女子高生はケータイで詩を綴る?!
ティーンズの「ポエム」事情

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■女子高生は携帯で詩を綴る?!"自分で自分に酔う"10代

携帯向けコンテンツプロバイダのボルテージ(渋谷区)が運営する携帯サイト「恋&詩♪10代トーク」は、恋と人生をテーマに10代が語り合う場として2001年2月にスタートした。中でも詩を投稿したり、第三者が感想を書き込んだりできるコンテンツ「ティーンズの詩」はユーザーの関心が最も高いという。同社コンテンツ制作・運営グループの高濱さんに話を聞いた。「当初は10代の子達が自由に書き込みできる掲示板の形をとっていたが、次第に詩の形態で書き込みをする子達が増えてきたため、コンテンツを別に設置したのが『ティーンズの詩』の始まり」と高濱さんは説明する。現在、同サイトの延べ登録人数は10万7,000人に上り、1日のアクセス数は平均1,900件。ユーザーは13~18歳が8割以上を占め、男女比は約4対1で女子が多い。「ティーンズの詩」に限っては、1日に約130点の投稿があるという。

投稿される10代の詩の内容について高濱さんは「思ったよりもしっかりした10代の内面を感じる」という。約4~5割は恋愛に関する詩、3割は友人関係を詠った詩だが、残りは社会や政治に対する不満、将来の不安などを詩に表現したものだという。「そうした社会性の強い詩を投稿してくる子ほど、一人あたりの投稿数が多い傾向にある」と高濱さん。同サイトでは、親投稿に詩でスレッドを立て、子投稿は感想やアドバイスなど、第三者の意見が書き込めるようになっている。中には中絶経験を詩で表現し、「産んであげられなくてごめんね」といったような内容で投稿してくる10代女子もおり、そうしたテーマには第三者の反響も特別大きいそうだ。同サイトではハンドルネームを使い、個人情報は一切わからないようになっているため、10代の子も安心して本音を表現した詩を投稿してくるのだろうか。また、その表現テクニックについても「プロのライターが見たら唸るような出来の良いものから、10代らしい拙いものまで様々。中には、インディーズバンドの方が曲を付けたいと申し出てくるような作品もいくつかあった」(高濱さん)とも。実際に投稿されてきた10代の詩を紹介しよう。

『泣けない』

ホントに辛い時 人前で泣けないんだ
強がって 涙こらえてしまうんだ
涙見せること 少し恥ずかしいんだ
そういう時に 同情されるの
あんまり 好きじゃないんだ
心配されるほど 僕はきっと 弱くなんかないからさ

…でもね、
なぜだか 涙したくなることが あるんだ…
みんなの前で 泣きたくなるんだ…
それが 偽りの涙でも。
誰かに 助けて欲しいんだ
誰かに 心配されたいんだ
同情でもいいから 優しくして欲しいんだ

分かってよ…
このままじゃ 強くなんかなれないから
誰か叱ってくれよ こんな僕を

夜、ベッドの中で 独り泣くんだ
結局、誰の前でも 素直に泣けない僕だけど
それだけ苦しいんだ それだけ臆病なんだ
誰にも 気付いてもらえないけど
寂しさを紛らすには ちょうどいいさ

なんか こんな自分が惨めだけど
いつか僕も 誰かの前で泣ける日が
来るのかな
誰かに 心配して欲しいから 泣くんじゃなくて
誰かの為に 泣けたらいいな
それは 家族だとか友達だとか
好きな人の為に

ねぇ?
泣きたいときは 思いっきり 泣いてもいいよね。
寂しいときは寂しいって
素直に 甘えてもいいよね。
…強がらないでさ。


『111411』

「あいたい」
そう思って何度目かな
気づけば 携帯の上の親指は
『あいたい』 そう打ってた
画面に表示されたのは「111411」

逢いたくて逢いたくて でも逢えなくて
逢いたくて逢いたくて もう逢えなくて
にじむ画面を そっと指でぬぐった

逢いたいよ逢いたいよ
繰り返される「111411」

また、10代の詩は歌謡曲の影響を受けている場合も多いという。多少言い回しを変えて、部分的に納得のいかない箇所を自分なりの詩で埋め込んで投稿してくる子もいるそうだ。「10代の子の特徴として『世の中に出回っているものは嘘が多い』という思いを持っていることが感じられる。歌謡曲の歌詞でも、『ここの部分はこうじゃない』といった意見を出し、第三者と一緒にサイト上で話し合う光景も見られる」と高濱さんは言う。あまりに過激な詩や攻撃的な表現の詩は、事務局で事前にチェックを入れ、平日は1日に3回、休日は2回更新しているが、もっと頻繁な更新を望むヘビーユーザーも多いそうだ。そうした10代の熱心さには、どのような心理が働いているのか。高濱さんは「とにかく、10代の子は他者とのコミュニケーションを求めているのでは。詩を投稿するだけでなく、人の作品に感想を書き込む作業もマメな子も多く、人の作品をよく読みこんでいる様子が伺える」と話す。

10代はなぜ詩で表現することを好むのだろうか。高濱さんは「今の10代は自己表現に対する意識が強い。良くも悪くも、自分に酔っているのでは」と推察する。本音を綴った詩によって、ネット上という顔が見えない場所で誰かに気持ちを知ってもらいたいという思いから詩を投稿するという。しかし、第三者による感想は肯定的なものばかりとは限らない。否定的な意見を書き込まれたときは「自分に酔っている」分、ケンカになるなどサイトが荒れることはないのだろうか。その点について、高濱さんは「現代の10代は比較的穏やかな性格の子が多い。ケンカになりそうになると、決まって誰かが「そんなことを言ってはいけないと思うな」などと仲裁に入る。『人の意見は素直に聞くべきだ』という考えを持った子が多い」とも加える。生のコミュニケーションが苦手だと言われている10代だが、顔が見えないネット上で詩を綴ることは、10代同士の感性にしっくりくるコミュニケーション法なのかもしれない。

ボルテージ
恋&詩♪10代トーク

■詩をパフォーマンスする「スポークン・ワーズ」にはまる10代

「渋谷古書センター」2階の古本屋「Flying Books(フライングブックス)」店長の山路さんは、ポエトリーリーディングやラップなどのパフォーマンス=「スポークン・ワーズ」のイベント「SSWS(新宿スポークンワーズスラム)」のサポート及び審査員を務めている。人前で詩を朗読するポエトリーリーディングや、曲に乗せてラップでパフォーマンスする10代の様子について話を聞いた。「元々それほど多くの人が参加するイベントではなかったが、最近はハイティーンを中心とした10代にもスポークン・ワーズが定着してきたと感じている」と山路さん。山路さんがサポートする「SSWS」は、新宿のライブハウス「MARZ(マーズ)」で昨年までは月2回、今年からは月1回定期的に実施している。「スラム」と言う通りトーナメント形式で、約15名前後の出場者が勝ち抜き戦を行い、観客は50名から、多くて100名ほどが集まるそうだ。

「10代がスポークン・ワーズを始めるきっかけとしては、学校で友人に影響を受けるなど、周囲のコミュニケーションの中で知ることが多いようだ」と山路さん。2003年の初めからスタートしたこのイベントは、最初は女性の方が多かったそうだが、現在では男性が増え、大体半々の比率になってきた。10代が自分の詩を発表する動機について、山路さんは「人前で発表することによって評価を得て、パフォーマンスとしてのスキルを磨きたいという人から、自分の主張やメッセージを人に伝えたいという人まで、目的は様々」と推測する。そうして、実際に自分の詩を披露することによって、10代は自分に自信を持ったり、友達を増やしたりしているという。

スポークン・ワーズにはまる10代の特徴について山路さんは「20代、30代と比べると、表現がぐらつきやすく、オリジナリティ性が乏しい」とのこと。10代は、好きな作家やアーティストなどの作風に、影響を受けやすいことが原因らしい。また「言葉のスキルの面でもまだまだ勉強が必要だなと感じる。10代は『自分の主張を聞いて聞いて』といった若さに走りがちで、聞く人の感情や、伝わりやすさなどを配慮する余裕がないのかも」と付け加える。しかし「その反面、感性はとてもピュアで、いいセンスを持っているなと感じる10代も多い」とも。日常の何気ない風景や恋愛のことを10代の視点で詩にしたものは面白く、短歌にして読み上げるなど趣向を凝らした10代女子も印象的だったそうだ。

Flying Books
SSWS(新宿スポークンワーズスラム) SSWS(新宿スポークンワーズスラム)

■悲しい時は友達とポエムメールで癒しあう?!

渋谷センター街にいた10代女子に、ポエムについて話を聞いた。現在中学1年生のアイカちゃんは、「詩を投稿する携帯サイトが流行って、一応登録はしたけど私はまだ書いたことはない」という。さらに「クラスの中に、いつも秘密にノートに詩を書いている子がいる。一度勝手にノートを盗み見たら、ポエムと一緒に絵とか書いてあって、女なのに『ボクは』とか書いてあった」と話す。同級生の心の内がどのように詩に表現されているのかに興味を惹かれたのだろうか。

高校1年生のアイちゃんは「友達同士のメールで、ポエムを書く時もある」と教えてくれた。どんな時にポエムを書くのかと尋ねると「悲しい時とか。自分を癒すためでもあるし、友達同士で慰めあうこともある」とのこと。ちなみに、最近作ったポエムについて聞くと「金正日、夜6時になったら戦闘開始」と、詩というよりも川柳のようなものを教えてくれた。意味を聞いてみると、アイちゃん曰く「うちのお母さんが金正日に似ていて、いつも6時になると『早く帰ってきなさいっ!』って怒りの電話が来るから」と、笑いながら説明する。ブラックユーモアを交えながら、自由にならない10代ならではの不満を表現しているのだろうか。

若さゆえに持ち得る純粋な感性を表現するために、10代は「詩を書く」という行為に及ぶ。インターネットや携帯の普及によって、誰もが発信する側になれる現代は、詩を披露することによって自分の主張やメッセージを広く伝えることもできる。今の10代にとって、詩は自分だけの心の内に秘めるものではなく、人前で発表し、評価されることで人とのコミュニケーションをとる一つの手段となっているようだ。

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