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祝「日本一」! サンロッカーズ渋谷「天皇杯」優勝

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 渋谷をホームタウンに活動するプロバスケットボールチーム「サンロッカーズ渋谷」(以下、SR渋谷)が、1月9日~12日にさいたまスーパーアリーナで行われた「第95回天皇杯全日本バスケットボール選手権大会」で優勝し、日本一に輝いた。クラブとしては2015(平成27)年以来5年ぶり2度目となる。

 プロバスケットボール「Bリーグ」に所属するチームや大学、社会人チームなどがトーナメント形式で戦い日本一を決める同大会。SR渋谷は2次ラウンドから出場すると、群馬クレインサンダーズ、新潟アルビレックスBBを下し、ファイナルラウンドに駒を進めた。準々決勝のレバンが北海道、準決勝の滋賀レイクスターズから勝利を収め迎えた決勝の相手は川崎ブレイブサンダース(以下、川崎)。

 SR渋谷と川崎は今季、Bリーグの2戦で1勝1敗と五分の戦いをしているが、川崎はポイントガード(PG)の篠山竜青選手と藤井祐真選手をけがや病気で欠きながらも決勝進出を果たしたことから、「正直、すごく怖かった。アクシデントが重なりチームが一つになっていて、そういうチームと試合するのはすごく難しい。余裕や気の緩みはあってはいけない」(ベンドラメ礼生選手)相手となった。それでも、選手たちが今季度々、「やっていることは間違いないと信じている」と口にしていることもあり、「勝つ自信はあった」(同)という。

 決勝の相手が決まり伊佐勉ヘッドコーチ(HC)が「ずっと考えていた」のは、起用する外国籍選手。リーグ戦同様、所属している3選手の中から1試合で起用できるのは2選手。SR渋谷には、元NBAプレーヤーでオールラウンダーのライアン・ケリー選手、リバウンドやゴール下の得点力で強さを見せるチャールズ・ジャクソン選手、得点やリバウンドに加え高い運動量を見せるセバスチャン・サイズ選手の3選手が所属。川崎はPGの2選手がいない中、外国籍選手がボールを運ぶ可能性を視野に「よりアクティブさのある」サイズ選手と、川崎には外角のシュートを打てる外国籍選手がいることから、準決勝でプレータイムを30分弱に抑えられたケリー選手の起用を、試合当日の朝に決めた。

 「特別な試合だが積み上げてきたことをしっかりやろう」(伊佐HC)と、試合の立ち上がりから、今季徹底しているオールコートディフェンス(DF)でプレッシャーを掛けていくSR渋谷。DFをけん引しているのは関野剛平選手。リーグ戦4連敗を機に「学んだことの一つ」と試合の入り方に重きを置いており、ベンドラメ選手も「試合の入り方を決めるのは僕たち。毎試合、流れを作ろうと話している」と言う。オフェンス(OF)面では、機動力があまり高くない川崎のファジーカス ニック選手の所を中心に「ペイントアタックを徹底的にしよう」とドライブ(ドリブルでリングにアタックするプレー)を仕掛け、そこからのレイアップやパスを回し3ポイント(P)シュートを狙っていった。ベンチから出場した杉浦佑成選手は、大学時代にインカレ(全国学生選手権大会)3連覇を成し遂げていることもあり「久しぶりの感覚に高ぶった」と言うが、出場直後には落ち着いて得意の3Pを決めた。渡辺竜之佑選手も「ボールが来たら絶対に打ってやろうと決めていた」と、結果的にこの試合で唯一のシュートアテンプトとなった3Pをリングに沈めた。

 拮抗(きっこう)した展開が続く中、第2Q序盤、9分23秒でコートに入ったのは関野選手と石井講祐選手。石井選手が早速スチール(ボールを奪うプレー)からレイアップを決めると、直後に「DFは僕の仕事。それ以外は今のところあまり役に立てていないのでそこだけは全力でやろう」と関野選手が、川崎・辻直人選手が運ぶボールに手を掛けると、「剛平はボールプレッシャーが掛けられるので、チャンスがあったら仕掛けられると狙っていた」石井選手がダブルチームに行きボールを奪った。それに反応したのは「出ている時は常にアグレッシブにプレーすることを心掛けている」サイズ選手で、1対1を仕掛け得点につなげた。サイズ選手はリバウンドからの速攻に対しゴール下から前線に真っ先に駆け上がりレイアップを決めるなど、持ち前の運動量も見せた。一時9点差を付けるが、川崎に得意の3Pを連続で許すなど、試合を振り出しに戻され前半を終えた。

 川崎は前半、ファジーカス選手とジョーダン・ヒース選手のビッグマン2人を20分出場させた。SR渋谷もそれに合わせてケリー選手とサイズ選手をフル稼働していた。「ファウルトラブルが無い限り交代は無いだろう」と考えていた日本人ビッグマンの野口大介選手に出場機会が回ってきたのは第3Qの8分22秒、ケリー選手のファウルが2つになったタイミング。「いつ呼ばれてもいいように準備はしていた」と、出場間もないタイミングで外角のシュートを決めた。終盤には、「彼のフリースローの確率が悪かったので、普通に点を取られるよりはフリースローに持ち込んだ方がいい。そういう指示もあった」(野口選手)ことから、ヒース選手に押し込まれ体勢を崩しながらも「絶対にシュートをさせないと、執念で」ファウルをした。目論見は当たりヒース選手はフリースローを1本外した。SR渋谷の強度の高いDFは続き、スローインの5秒バイオレーションを誘発する場面やスチールなども見られ4点のリードで最終Qに突入した。

 互いに譲らない展開となった最終Q序盤。1点差に詰め寄られ、ターンオーバーが出ると伊佐HCはタイムアウトを要求。明けに川崎の24秒バイオレーション(OFは24秒以内にシュートを打たなくてはいけない)を奪うと、このタイミングで投入された特別指定選手の盛實海翔(もりざね・かいと)選手はドライブでファウルを誘発したほか、「気持ちを切らさなかった」と前半決められなかったシュートも沈めた。同点で迎えた残り約4分30秒からは、「しっかりペイントアタックしていこう」(伊佐HC)という指示に、再びベンドラメ選手が連続でドライブを仕掛けたほか、山内盛久選手はスクリーンに対して川崎のDFがアンダーを通っているのを見逃さず3Pを沈めた。終盤、ファウルゲームを選択した川崎に対し、昨年まで所属していたチームで同大会3連覇を経験していた石井選手と、5年前に同大会で優勝を経験した広瀬選手が、「緊張感はあったが落ち着いて打てた」(石井選手)、「決めてきれいに終わろう」(広瀬健太)と得たフリースローを確実に沈め勝利を引き寄せた。最終スコアは78-73。

 試合終盤、ベンチでは「一致団結、皆で勝とう」(関野選手)と選手たちが肩を組んで戦況を見守った。ファイ サンバ選手は「決勝戦が接戦になるのは当たり前。その中でもチームは崩れていなかったのでリードできると見ていた」と言い、野口選手は「少しでも力になれば」と声を出しチームメートを鼓舞していたが、「ファンの気持ちが分かった」と笑う。

 残り0.8秒に広瀬選手がフリースローを得たタイミングで伊佐HCはベンチの選手らの元に歩み寄ったが、試合に出られなかったジャクソン選手の顔を見て「涙腺が崩壊してしまった」と男泣き。そのジャクソン選手は「声を掛けたり応援したり、少しでもためになること言ったり、できることをしようと心掛けた」と言う。「どちらが流れをつかむか、チームメートが頑張っているところを見られるのが、一(いち)バスケ選手として楽しかった」と試合を振り返った。けがで出場できなかった田渡修人選手は試合中、ベンチには入れないジャクソン選手と一緒にコート脇で試合を見守った。「この4日間、皆がいつも通りの仕事をしてくれればチャンスがあると思っていた。皆がすごく頼もしいと思ったが、正直試合に出たい気持ちもあった」と本音をこぼしつつ、「日本一が初めてなので、正直泣きそうになった」と明かした。

 小学生からバスケをしていて初めて「優勝」をつかんだ関野選手は「どのチームの誰よりも僕が一番優勝したかった」と勝利を喜び、チーム最年長の36歳で「初めて」日本一の称号を得た野口選手も「こういう世界だったんだ…と、この年で経験できて良かった」と話した。杉浦選手は「プロになって初の優勝なのでうれしい。優勝が経験できたのは今後のプロ生活にも影響するのでは。これで終わりじゃないので、この感覚を忘れないようにしたい」とも。

 会場には、チア「サンローッカーガールズ」やマスコット「サンディー」が応援に駆け付けたほか、チームカラーの黄色を身に着けたSR渋谷のファンも多く見られた。広瀬選手は「ホームのような感じで『GO サンロッカーズ!』の声が常に僕たちの背中を押してくれた」と応援に感謝し、ジャクソン選手は「ファンの皆が喜んでくれて、応援されているのを感じられて幸せだった」と、ケリー選手は「優勝した時に、黄色いウエアを着たファンの姿を見られたのはうれしかった」と、それぞれ話した。

 試合後に行われた表彰式で会場に集まった9000人近いバスケファンが注目する中、天皇杯を掲げたキャプテンのベンドラメ選手は「天皇杯を掲げ皆で叫ぶのは気持ち良かった」と笑顔を見せた。伊佐HCらを胴上げした後、チーム全員でハドルを組み、今季のチームスローガンである「結」と叫んだ。

 試合後、勝因を「DFのボールプレッシャー」と言い切った伊佐HC。試合前にも、「積み上げてきたことを40分間全員でやり続けたら、最後必ず川崎が疲れてくるから」と話したという。その読み通りか、試合終盤の残り約3分30秒以降、川崎は武器の一つとする3Pを5本放ったが1本もリングを揺らすことができなかった。拮抗した展開の中、「誰一人、自己中心的なプレーをすることなく、やるべきことを徹底できたのは、やっているバスケを信じ切っているからこそ」と山内選手が言うと、広瀬選手も「やっていることを全員が共通認識を持ってやれている」と続けた。さらに、「試合に出られなかったCJ(=ジャクソン選手)や田渡含め、今季やってきたことが積み重なった結果。全員が分かち合える優勝だった」と、チーム全員での勝利を強調した。

 ベンドラメ選手はMVPに輝いたほか、ベンドラメ選手、ケリー選手、サイズ選手が「ベスト5」に選ばれた。

 天皇杯は終了したが、Bリーグはシーズン中となる。「優勝の実感を持つ間もなく試合が来る。しっかり喜んで、次に向けて切り替えないと」(ベンドラメ選手)と余韻に浸る間もない。山内選手は「優勝したが、天皇杯の優勝を目標に掲げていない。目標であるリーグのチャンピオンになるための過程。この結果に満足することなく、リーグ後半戦勢いに乗って優勝できるよう頑張りたい」と言い、田渡選手も「もう一回、皆であのような舞台に立とうという話をしたので、リーグ戦も頑張らないと」と話した。

 SR渋谷は、現在リーグでは19勝9敗(1月12日現在)と貯金を積み重ね、アルバルク東京・千葉ジェッツ・宇都宮ブレックスといった「3強」と言われる強豪ひしめく東地区で3位に位置。ベンドラメ選手は「(勢力図を)崩している感じはあるが、上位のチームとまだあまり試合をしていないし、そんなに勝てていない。これから上位チームとの戦いが多くなってきて、3月、4月とタフな日程が続くので、まだ何とも言えない」と冷静さをうかがわせ、後半戦に向け「強さを表現し続けていきたい」と意気込んだ。

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