特集

「澁谷發」の情報がアジアの若者を魅了する
アジアから見た渋谷PART1(中国・台湾編)

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■アジア各国の若者が日本に熱い視線を注ぐ背景

国際観光振興会(JNTO=Japan National Tourist Organization)が発表する「アジア諸国からの外国者訪問者数の推移」によると、アジア各国からの日本への旅行者総数は年々増加傾向にあり、訪日外国人の国籍を見ると、第3位のアメリカ以外は、すべてアジアの国が占めていることがわかる。

2000年訪日外国人の国籍別順位と前年比(JNTO)

1位 韓国/約106万人(前年比12.9%↑)
2位 台湾/約91万人(前年比2%↓)
3位 米国/約76万人(前年比3.7%↑)
4位 中国/約35万人(前年比19.3%↑)
5位 香港/約24万人(前年比5%↓)

JNTO企画調査課課長の上村さんによれば、韓国と中国から旅行者が増えた要因として「まず、訪日団体観光ビザの一部解禁などの規制緩和によって、中国をはじめアジア諸国の海外への出国者の総数が増加したことが背景にある。アジア各国はもともと異文化に関心を持っていたが、同一性の中に最新性のある国として、日本に関心が高まっている」と話す。前年度比がダウンしている台湾と香港については「IT関連企業の伸びが頭打ちとなり、旅行料金の安いタイなどに流れた」と分析。さらに「各国とも所得が増えてきたことで、若者を中心として、アジア発の映画・音楽やファッションなどポップカルチャーに同一性を見出すようになった。現代、情報発信源の最たる都市は、ニューヨーク、ロンドン、東京。アジアの若者の中に、ポップカルチャーの最先端の場所=東京に行きたいという気持ちが芽生えている」と加える。

国際観光振興会(JNTO)

■ガイドブックと日本のテレビドラマの影響を強く受ける台湾

1997年から2000年まで、台湾の台北に赴任した経験を持つJNTOの上村さんによれば、1998年、台湾の出版社「墨刻出版(ぼっこくしゅっぱん)」が台湾で発行した東京の観光ガイドブック「MOOK自遊自在シリーズ」の「東京」が13万部の大ベストセラーとなり、一大ブームを巻き起こしたという。墨刻出版では、ニューヨーク、ロンドン、パリ、北京、インド、シンガポールなど各国の都市をテーマに据えたガイドブックを発刊しているが、最も売れ行きがよいのが「東京」。特に渋谷・原宿には多くのページを割いて特集している。

2000年度版では、「原宿族新運動」と題して原宿にたむろする若者のファッショントレンドを紹介し、さらに「原宿族新主張」というコピーを掲げて、彼らがオリジナルアクセサリーを作ってオシャレをしていることを詳しくレポートしているほか、「原宿系」としてコスプレ少女の写真を掲載。ファッションビルやショップの紹介も丁寧に編集されており、「01系列百貨公司」(マルイ)や109、「人気第一的BEAMS」のコピーで「BEAMS」を取り上げたり、西班牙坂(スペイン坂)の歴史を紹介するなど、徹底的に絞り込んだ編集内容となっている。

東京 渋谷・原宿

一方、「MOOK自遊自在シリーズ」の大ヒットに便乗する形で競合誌も登場。海外旅行雑誌「TO’GO(トゥ・ゴウ)」は1999年に「TO’GO ACTION(トゥ・ゴウ・アクション)」シリーズとしてテーマ別に「東京流行地園」や「日本主題樂園」(日本のテーマパークのガイドブック)を発行し、好調な売れ行きを示しているという。

同年には、この競争に日本資本も参入。JTBは台湾の日僑(にっきょう)出版社と共同で、中国語版「るるぶ九州」「るるぶ北海道」を出版。「じゃらん北海道」を発行するリクルート北海道が「北海道自覧遊(じゃらん)」を出版した。一方、角川書店は台湾国際角川を設立し、隔週発行の情報誌「台北ウォーカー」を創刊。同誌は台北市とその周辺のトレンドスポットを扱う情報誌だが、台湾国際角川は2000年には「台北ウォーカー特別号」と銘打って「東京」、「大阪・京都・神戸」、「北海道」の3種類のガイドブックを発行した。前出の上村さんによると、日本のガイドブックは2つに大別でき、それぞれ下記のような特徴があるという。

  1. 台湾の出版社が発行するガイドブック日本人の視点からするとエリアの紹介がおおまか。台湾人記者の書き下ろしなので、台湾人旅行者の知識水準と関心や嗜好に合致した内容。
  2. 日系のガイドブック詳しい情報が掲載されている反面、観光スポットや施設が網羅されすぎているので台湾人には迷いやすい(「るるぶ」や「台北ウォーカー 東京」の他は日本版の焼き直し、「じゃらん」は台湾で翻訳)

1990年代後半から若者を中心に東京発の若者文化を追い求める傾向が定着した背景には、日本のテレビドラマや音楽が連続してヒットしたことが挙げられる。特にテレビドラマは台湾の若者に大きな影響を及ぼした。「東京愛情故事」(東京ラブストーリー)、「一零一次求婚」(101回目のプロポーズ)、「愛情白皮書」(あすなろ白書)など、台湾では今や古典として広く知られている番組である。当時の若者は日本のファッショントレンドを追うのみだったが、その世代が20代後半から30代前半に近づくにつれて事態は変わったという。彼らの所得が伸びたことと、1998年6月に解禁となった男子徴兵年齢層に対する短期海外旅行の自由化が後押し、訪日旅行にまで影響しはじめたのである。

1997年頃から台湾では「哈日族(ハーリーズー)」(日本大好き人間。「哈」は崇拝するという意味の台湾語)という言葉が使用されるようになる。「台北の原宿」と呼ばれる繁華街・西門町(シーメンディン)には日本の若者を真似たファッションを身にまとう若者が増加した。昨年9月に台北を観光した日本人によると「西門町でガングロ、厚底靴、携帯、ミニスカの女の子を目撃。まるで渋谷だった。日本語のCMが流れ、日本語の看板も多かった。アクサセリーやキャラクターグッズは日本製か、日本のコピー品ばかりだった」という。

1999年9月には、日本のテレビドラマの都内ロケ地を訪ねたガイドブック「東京麻辣(とうきょうららつ)」が量聲(りょうせい)製作出版から発刊される。タイトルは当時流行った「GTO麻辣教師」(反町隆史主演)から引用。内容は「長暇(ちょうか)」(ロングバケーション)や「戀愛世代」(ラブジェネレーション)などのドラマで実際にロケに使われた渋谷、原宿、代官山、青山、恵比寿など都内のスポットの紹介、人気ブティック、ファッション、雑貨、アイドル雑誌などの紹介である。特にドラマの中で誰と誰が出会ったオープンカフェであるとか、主人公がデートした遊園地などが写真入りで紹介。

近年では台湾で放送される日本のテレビドラマは、本国・日本との時間差がなくなっている。2000年4月に台湾のケーブルテレビ「JET-TV」で放映された「美麗人生」は日本語のまま放映(字幕)し、大ヒット作となった。日本では同年3月に終了した木村拓哉・常盤貴子主演の「ビューティフルライフ」である。放送後、ロケ地のひとつであった原宿のオープンカフェ「カフェ・ド・フロール」が台湾の若い女性の「行きたい店」となったことは言うまでもない。台湾の日本政府観光局には「釣りが大好きなキムタクがよく行く島(石垣島)に行きたい」という問い合わせが寄せられたという。日本ではあまり知られていないが、台湾はケーブルテレビの普及率が80%を超え、約90チャンネルがしのぎを削っている。日本の番組だけを24時間オンエアする局が3つある。

こうしたことも背景に、台北に本社を構える「尖端出版(とっぱんしゅっぱん)」は日本のタレント芸能情報誌「MONTHLY UP偶像藝能情報誌」を発行してきた。同誌では「早安少女組。」(モーニング娘。)や濱崎歩(浜崎あゆみ)らがグラビアを飾り、読者の人気投票ではジャニーズ系のアイドルがランクインするなど、日本の状況と変わりない内容であった。同誌はその後、台湾でも凄まじい人気を誇るジャニーズのアイドルに絞った月刊誌「傑尼斯偶像情報誌Wink up」へとリニューアルする。また、単行本として「日本高中女生 流行教主 濱崎歩」と銘打ち浜崎あゆみを取り上げた「濱崎歩大百科」を発行した。

尖端出版

上村さんは、渋谷や原宿が台湾の若者にとっても人気スポットとなっている背景に「日本の若者が集まるトレンドスポットであることが重要。日本の情報誌や女性誌で紹介されていることが勲章になる。渋谷や原宿は、日本の若者に人気があることで権威付けされている」と言う。さらに「台湾の女性にとって日本では顔だけでは国籍まで知られることがないので、外国人として目立つことなくショッピングをすることができるという安心感、外国人扱いされないという安堵感がある。これも人気の要因」と分析する。日本でのショッピングで人気が高いものは、高級食材、飲料、電気製品などがあり、若い女性には種類が多くて安いという理由からヘアアクサセリ-が人気とのこと。また、資生堂の化粧水(台湾で販売していないシリーズや旅行用パック品)も人気アイテムとのこと。

TOGO(トゥ・ゴウ <%image(taipeiwailer.jpg|145|198|TaipeiWalder%>

■日本のファッション誌がバイブル化する中国

急速な経済成長を背景に「世界の消費大国」へ移行しつつある中国。外資系流通業の参入に経済的な防波堤を築いてきた中国が門戸を開放したことで、米国・ヨーロッパ・日本から大型スーパーやショッピングセンターの出店が相次いでいる。今後は中国の世界貿易機関(WTO)加盟で、さらに輸出入の規制緩和が進む。すでに世界の大都市・上海の南京西路(ナンジンシールー)にはエルメス、ルイ・ヴィトン、シャネル、グッチなどスーパーブランドのショップが進出し、スーパーブランドストリートを形成し、南京西路は高層ビルに入居する外資系企業のOLが足繁く通う街になっている。ほかにも「上海の渋谷」と呼ばれる徐家匯(ジュ-ジャーホイ)や、伊勢丹やプランタンなど外資系百貨店とアパレルショップが集まる「准海路」(ホワイハイルー)、数百もの小さな商店が軒を並べ、アメ横的賑わいを見せる「襄陽路(シャンヤンルー)市場」など、商業のエリア化が進んでいる。

では、上海の若者の目に「渋谷」はどのように映っているのだろうか。上海で発行する、日本のファッション情報を掲載した雑誌「HOW(ハウ)」(発行/上海文化出版社)などで活躍するスタイリストで、上海在住のヒキタミワさんに現地の若者に聞き取り調査をしてもらった結果、以下のようなコメントが集まった。

  • アジアで一番オシャレな街は「渋谷」だと思う。
  • 若くておしゃれな人達がいっぱいいるから機会がったらぜひ遊びに行ってショッピングをしたい。
  • 109に行ってみたい。(上海でもかなり有名)
  • 渋谷にはいろいろな小物が売っているので、個性的(独創的)なファッションをクリエイトすることができる。
  • 上海でも日本のドラマははやっているけれど、特に誰の真似をするわけでもない。ただ、ドラマの中で、日本人のライフスタイルを参考にしたりはしている。
  • ここ1~2年の間、街にいくつのおしゃれな(渋谷系?)ショップがオ-プンした。おしゃれに敏感な子たちはそういったお店に通ったり、もしくは「古着」風に見せかけるために自分で服を加工したり、と工夫をしている(おしゃれ上級者)。
HOW(ハウ)

彼女たちの情報源は日系のファッション誌。所得が伸び、ファッションへの関心が高まっている中国の女性にとって「HOW」をはじめ、1995年に中国で販売を開始し、現在北京・上海を中心に40万部の発行部数を誇る「Ray」(主婦の友社が現地出版社との提携により中国で発刊)などは、すでに“ファッション・バイブル”となっている。

中国で展開している代表的な日本のファッション誌
(発行社は中国の出版社)

「Ray(端麗服飾美容)」
月刊/発行部数約40万部(定価18.80元)

「ef(端麗伊人風尚)」
月刊/発行部数30万部(定価18.80元)

「Cawaii!(端麗可愛先鋒)」
月刊 隔月刊/発行部数20万部(定価16.00元)

※1元=約15円

2000年には講談社発行「ViVi」の中国版(18.5元)、昨年11月には小学館発行の「Oggi」の中国語版(18元)が創刊。さらに講談社は今春、上海の出版社と組んで「with」の中国版の創刊を予定している。一方、台湾でも台湾版「Cawaii!」、台湾版「ef(東京/衣芙)」がファッション誌として浸透しており、日本のファッション誌のアジア進出は加速度を増しているようだ。「Ray」「ef」「Cawaii!」など年齢に応じたファッション誌の中国版を展開する主婦の友社国際部部長の神谷さんによると「中国ではいま“中流”意識が高まっている。食・住がある程度満ち足りた若い女性が、次にファッションに目を向けるのは当然のこと。ファッション誌にとって中国は大きなマーケットとなる」と話す。

<%image(cawaii_taiwan_hyoushi.jpg|145|113|%> ef(端麗伊人風尚) Cawaii!

「HOW」は1994年に、初めての日中合作ファッション誌として創刊。現在、15万部の発行部数を誇る同誌は、上海・北京・四川など中国の主要エリアで発売。同誌では、東京在住のスタッフが原宿や渋谷の街角で撮影した日本の若者のスナップ写真を数多く掲載している。日本で同誌の編集に携わっている二宮久美子さんは「いわゆるファッションウォッチングが最も人気のあるページ」と語る。原宿や渋谷を普通に街を歩いている普通の若者のファッションが上海の女性のテキストとなっている。上海の女性は、前述した雑誌を参考に「上海で売っているものの範囲内で日本のファッションを真似する、もしくは各雑誌が日本の紹介をしている際には必ず渋谷について触れているので、そこから情報収集している」と、前出のヒキタさんは語る。同じ現象が台湾でも起っている。台湾版「Cawaii!」の表紙には、誌名の上に「澁谷發!」の文字が入っており、本文ページにはいわゆる渋谷で見かける「読者モデル」たちが個性的なコーディネートを披露している。

上海や北京など中国の大都市に住む若い女性にとって『Ray』や『Oggi』、『HOW』などのファッション誌は、登場するモデルの肌の色やルックスもよく似たアジア人であることから、自分が着たらどんな風になるのかが想像しやすい。雑誌のモデルも自分からそんなにかけ離れていないような気がするので、親近感を覚え、自身のコーディネータトに取り入れやすいのである。さらにヒキタさんは「新しいもの好きな上海人は、情報量が増えるに従ってすべての新しいものにトライしたくなるので、流行の移り変わりの速い日本のファッションは彼らにもちょうど合っているのでは。雑誌を参考にはしているけれど、まだまだ選択肢が少なすぎる。いま上海で買える雑誌と、本当に渋谷で歩いている人のファッションにはまだまだ差がある。特に男性雑誌がないので男の子のファッションは女の子のそれに比べると、まだまだ未開発」と加える。

現在、台湾では日本ブームがやや下火になり、韓国のドラマや映画、ポップスなどが注目を浴びる現象「韓流」(韓国ブームの意味)が起きている。日本のドラマの買い付け価格が高価で、番組不足に陥ったケーブルテレビ局が低価格の韓国ドラマを放映し、それが大ヒットとなったことが引き金になっている。シンガポールでも同じ現象が起っている。日本のテレビドラマに続いて韓国ドラマが上陸し、中国語吹替え版と英語字幕で放映し、人気を集めている。このように情報化の促進で、アジア大陸の文化交流が一気に加速している。日韓の交流、韓台の交流は、アジア各国が近隣諸国への“日常”文化への関心の高まりを示している。

若者はテレビドラマや音楽、ファッション、キャラクターなど、わかりやすいものでアジアの文化を体感してきた。従来、情報は情報量の多い場所から少ない場所に流れていった。日本での情報発信地である「渋谷」が今日アジアの各都市から注目されているのは、ごく自然な成り行きである。渋谷は、アジアの若者にとって、わかりやすくて魅力的なアイテムを送り出す集積地として、アジアの中で大きな注目を集めている。アジアからの視点で「渋谷」を再度捉え直すことで、「渋谷」の強みが見えてくるのかもしれない。

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