特集

静かに進む真夜中の“構造改革”
渋谷発、26時のスローライフ

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■オトナの深夜奪回を目指すパルコの新ビル、スペイン坂に登場

4月27日(土)、渋谷・スペイン坂下にパルコの新しいビル「ZERO GATE」が誕生する。地上4階、地下1階。店舗は物販と飲食で構成され、物販は11~21時の営業だが、飲食店は曜日によって翌5時までの営業。同社宣伝局によると「ひとつのビルに物販と飲食が入り、さらに飲食店も昼対応と夜対応の店が入るので、昼と夜の二つの顔を持つビルになる」とのこと。テナントには、昼はデリ&カフェ、夜はエスニック風レストランと、昼と夜で業態が異なる「B.o.a.c」や、パリに本店を置くレストラン「ラ ファブリック」1号店が登場するほか、都内にアミューズメント施設や居酒屋チェーンを経営するビービーエーインターナショナルが新業態のワイン居酒屋「ZARU」(4階)を出店。ティーンに占領されてきた感の強いスペイン坂に誕生するオトナの夜遊び空間は、センター街にオトナを呼び戻す起爆剤となるのだろうか?

パルコ ZARU

■「骨董通り」は隠れ家的、ミッドナイト・スポットの先進エリア

ミッドナイト26時は、すでに終電が終わっているため、ターミナル近くにある店の優位性は関係なくなる。むしろ、駅から少し離れたエリア、しかも1本裏通りといったロケーションに、真夜中の人気店が点在する。中でも、「骨董通り」には、翌朝まで営業する大人向けの「隠れ家」的な店が集積する場所。今でも個性的な空間が続々と誕生しており、常に新鮮な雰囲気を醸し出している。

「深夜、ベーカリーの横の扉を開けて近未来的な廊下を進むと、そこにスタイリッシュなバーが広がる」・・・「デュヌ ラルテ」は骨董通りから少し入った、ちょっとわかりにくい場所に位置する。「デュヌ ラルテ」は、シェフでブーランジェの井手さんと、フランス料理店「カム シャン グリッペ」の淺野シェフとのコラボレートによる、スタイリッシュなパン屋さん。この奥に、夕方5時半まではギャラリー、19時から“夜更け”まではバーとなる空間が存在する。もちろん、つまみはおいしいパンを使った独自のメニュー。ちなみにベーカリーも22時まで営業。バーの大岩さんは「客の都合で25時や26時まで営業するため、決まった営業時間はない」と話す。さらに「一見の客は皆無に等しい」と付け加える。わかりにくい場所だからこそ、馴染みの客にとってはかけがえのない「隠れ家」となる。

デュヌラルテ

青山学院大学に隣接した裏通りに2001年12月にオープンしたのが、ダイニング&スタンドバー「NOS」。「東京ローカルスタイル」をショップコンセプトに掲げる、自分仕様で利用できる複合飲食空間。店舗は飲食店のプランニングと直営店を経営するミューズプランニング(本社/南青山)が運営。ガラスとワイヤーフレームで作られたコンテンポラリーな一戸建てのビルは、夜になれば路面から店内がくっきり映し出される。1階は吹き抜けのスタンディングバー。2階にラウンジ、屋上にテラスが設けられ、さらに奥にはダイニング(3階)が控えており、ビルの構造を活かした空間が広がる。その日の気分、目的によって場所を選べるのが特徴。営業時間は月~土曜が17時~翌5時。平日の深夜でもスペースを使い分ける大人の姿が見られる。

NOS ミュープランニング

骨董通りに面した「HUGO BOSS」の地下には、「忍亭」や「萬葉亭」など仕切り系ブームをリードするブルーム・ダイニングが4月11日(木)、新たな業態に挑戦する。「川のほとりで」という店名通り、店内中央に25メートルの川が流れ、川面には2人用の個室やカウンターのカップルシートが用意された、まさに“口説き”の空間。骨董通りでは珍しい100席の大型空間に25の個室が設えられた。金曜日は28時までの営業。西麻布付近には、滝をイメージした人気店「水色」もあり、新しい仕掛け好きなミッドナイト族には要チェックの店となりそうだ。

川のほとりで

■日赤通り方面は真夜中のウォンツに寛大なオトナのエリア

青山・骨董通りから続く「日赤通り」沿いには、深夜でもきちんとした食事ができる本格的なレストランが点在している。

2001年11月、日赤通りにオープンした「イル バンビナッチョ」は、深夜でも上質のサービスが受けられる本格派イタリアン・レストラン。「バンビナッチョ」とはイタリア語で「悪ガキ」の意。同店の経営者でソムリエの前場さんは「駅から離れた立地なので、深夜は当店を目的に訪れる方ばかり。客層に共通しているのは、みんな自分の時間を大事にしていること」と説明する。オーダーストップは23時だが、その後はゲストにゆっくり寛いでもらうため、あえて閉店時間を提示していない。「深夜にゆっくり食事を味わいに来てくれた方を『閉店時間だから』と言って追い出すようなことはしたくない」(前場さん)。客層は20代後半~。中心となるのは30~40代。「この年代はおいしいものを食べてきた層。本物でないと通用しない」と付け加える。「料金の高い安いでなく、心地よいサービス、店全体のセンスが求められている。みんな自覚していることだが、都会人はストレスがたまっている。それを癒すために、自分へのご褒美として料理をチョイスする人が多いので、もてなす側もそれを理解した上で上質の時間を提供したい」と、前場さんは深夜に行動する大人の志向を分析する。

イル バンビナッチョ/TEL:03-3499-0046
イル バンビナッチョ イメージ イル バンビナッチョ イメージ

広尾5丁目の交差点そば、渋谷川リバーサイドに店を構える「アロマフレスカ」は、深夜まで開いている人気のイタリアン・レストラン。マネージャーの植野さんは「19時からのゴールデンタイプは3ヶ月先まで予約でいっぱいなので、予約できない方のために深夜まで営業している」と説明する。中には同店で食事をするために上京した客が、深夜に訪れるケースもあるという。また、客層は深夜まで仕事をしている会社員や飲食関係者が多く、また子供のいない若い夫婦も目立つという。ラストオーダーを25時としている理由は「22時頃にラストオーダーを取ると、せっかく訪ねてくれたゲストをせかすようになるので、ゆっくり食事を楽しんでもらうため」(植野さん)。食事、空間、時間をトータルに満喫してもらうための、繊細な配慮に。

アロマフレスカ/TEL:03-5449-4797

明治通りの広尾1丁目交差点近くには、カリフォルニア・キュイジーヌをベースにした人気店「カーディナス」(広尾)がある。ラストオーダーは26時。平日の深夜でも若い女性がワイングラスを傾ける光景が見られる。この界隈には、同系列のカリフォルニア料理「フミーズグリル」もあり、こちらもラストオーダーは26時。同店は外国人比率が高いのが特徴。

カーディナス フミーズグリル
アロマフレスカ イメージ

日赤通りをさらに進むと、恵比寿には28時30分まで営業している蕎麦屋がある。板そばの店「香り家」で、「デートに使ってもらえるそば屋があってもいい」(原田店長)という試みで始めた同店は、気鋭のインテリアデザイナーによるシンプルで暖かい空間にジャズが流れている。「深夜に食事をするといえばファミレスかラーメン店だった。そばはヘルシーで胃にもたれない食べ物。古くからそばと日本酒は相性がよいので、日本酒を揃え、深夜でもゆっくりと日本酒を飲み、シメにそばを食べてもらえるよう提案している」と、原田さんが話すように日本酒とおつまみが充実。中心となる客層は25~40代。深夜の客層は、デートで利用するカップルが多いが、意外にも女性同士のグループや女性の一人客の姿も見られるそうだ。「板そば」とは山形の名産の田舎そばの名称。女性に人気があるメニューは「胡麻だれ蕎麦切り」(980円)。男性には「鴨汁蕎麦切り」(1,050円)が人気。

香り家/TEL:03-3449-8498
香り家 イメージ

■ミッドナイトの選択肢を広げる「よるカフェ」人気

個性化が進む東京ミッドナイトでは、深夜でもお茶やきちんとした食事ができる「よるカフェ」ニーズも高い。カフェの増殖は「夜=バー・酒場」というイメージを塗り替え、自由な時間を解放した。

2001年12月、六本木通り沿い・都バス「青山学院中等部前」そばに誕生した「FIGO CD & Cafe」はカフェ、CDショップ、茶室、ブティックなどが複合した空間。営業時間は26時まで。店名が示すように、1階はDJブースを備えたカフェとCDショップ、60年代のロックスターをテーマにしたメンズブランド「Retro Girl」がドッキングし、2階にはギャラリーと「Lounge茶室」が設けられ、日本庭園のテラスが広がる。1階のカフェの壁面にははジャズ、フュージョン、ボサノバなどオトナ系セレクトのCDがずらりと並び、その場で購入もできる。カウンターには、お茶を飲みながらCDの試聴ができる最新の音響システムも備えてあり、じっくりと音楽を楽しむことができる。マネージャーの木村さんは「いい音と心地よい空間の中に、カフェ、ブティック、CDショップがあり、たまにライブも開かれるので、ジャズ喫茶とライブハウスが合体したような側面もある」と語る。客層は30代前半~50代が中心。男女比率は半々。

「深夜でもコーヒーを飲むことができ、またひとりでCDを試聴することもできるし、ブティックで洋服を見る時間があってもいい。トータルなライフスタイルを提案したい」(木村さん)というように、店内には思いのままに自由に時間を“編集”できる雰囲気で溢れている。「ここにはモデルや俳優、ミュージシャンのタマゴが集まり、情報交換し、何かを生み出そうとしている。都会で暮らす人が『もっと何かないか』と、楽しみを貪欲に求めているのがよくわかる。そんな都会人の遊び場になればいい」と、木村さんは現代人の傾向を分析し、店の抱負を語る。ちなみに深夜でもCDはよく売れるそうだ。店内でジャズやフュージョンを体験した若者が購入していくケースも多い。また、芸能人やアーティストがふらっと店を訪れることも多く、彼らがさりげなく店にいるだけでスタイリッシュな空間に磨きがかかる。

FIGO CD & Cafe
FIGO CD & Cafe イメージ FIGO CD & Cafe イメージ FIGO CD & Cafe イメージ

明治通り沿いの「BLUE GARDEN」(広尾)は、女性客が7割を占めるライトなアジアン・カフェ。平日は26時まで、金・土曜は28時まで開いている。マネージャーの矢崎さんは「深夜に来店し、『お茶できますか?』と尋ねる女性が多い。深夜にファミレス代わりに利用する女性の需要は多く、料理はレギュラーサイズとスモールサイズを用意しているので、スモールサイズのものがよく出る。また、深夜でもお茶とデザートを注文し、女性同士でおしゃべりを楽しむ方が多い」と、深夜のニーズを説明する。常時20種類揃ったケーキが人気で、テイクアウトも行っているので、帰宅途中の女性がケーキを持ち帰ることも多いという。「ケーキは昼だけのデザートでなく、女性にとっては24時間いつでも食べたいもの。カフェもデザートも、深夜のニーズは高い」(矢崎さん)。

BLUE GARDEN/TEL:03-3447-1011
BLUE GARDEN イメージ

70年代のパーラーを現代に蘇らせた「神泉パーラー」(神泉)では深夜、「ごはん派」と「アルコール派」と「スイーツ派」が同居するそうだ。17時から28時までの営業だが、出足は遅く、混み合うのはやはり深夜。代表の高橋さんが「近くに食事のできる店がなかったので開店したが、東京の人でなければ来られない場所」というように、アクセスは決してよくないが、深夜でもパフェを食べる客が少なくない。“深夜=アルコール”という先入観を見事に打ち消したコンセプトは今でも異彩を放つ。

神泉パーラー/TEL:03-5428-3580
神泉パーラー イメージ

■深夜のクオリティ・ライフをサポートする生活サービス

深夜のクオリティ・ライフが充実する一方で、各種インフラサービスに対する深夜需要も高まってくる。恵比寿にミッドナイト対応のクリーニング店「恵比寿センター」がある。店内は、4畳半ほどのスペースで店主が一人のミニマムなスタイル。当地で26年間営業を続け、界隈の変遷を見守ってきた。普段は24時まで、遅い日には25時まで店を開けている理由を、店主の城本さんは「若い人が持ち込んでくるから閉められないだけ」と話す。界隈に大バコの「ZEST」や29時まで営業の「鳥安」、イタリアンレストランがあるため、夜でも人通りは少なくない。たまに26時まで開けていることもあるが、それは「片付けのために電灯をつけていたら客が洋服を持ってくる。開いている時間は受け付けてあげる。それで26時まで開いている時がある」ということになるらしい。ただし深夜まで開いているため営業開始は午前10時。深夜に駆け込んでくる客はほとんどが男性だそうだ。

恵比寿センター/TEL:03-3446-6447

渋谷周辺は、既成概念に囚われずに“自分仕様”の時間を楽しむことのできる空間の選択肢が広がっている。ここでは、深夜=アルコールという図式はひとつの選択肢と化し、多様なミッドナイト・メニューが用意されている。深夜でも「お茶を飲みながら話がしたい」「きちんとした食事がしたい」「ケーキが食べたい」など、本来は少数派ながら確実に存在したこうしたニーズを確実に嗅ぎ分け、新たな飲食スタイルでこれに対応し、マーケットを顕在化させている。ライフスタイルの多様化に合わせて、真深夜の過ごし方も細分化が進み、よりスタイリッシュに深化を遂げている。もはや、ミッドナイト=酔っ払いというイメージは当てはまらない。

時間をかけて丁寧に育てられた食材を、時間をかけて味わう「スローフード」は、ある意味で「食べることに関しては妥協を許さない」スタイル。同様に、「スローライフ」も、どんな時間帯(たとえ真夜中)であっても物事に「妥協しない」ライフスタイルとも言えそうだ。「真夜中だからどうせ開いてない」という先入観や固定概念に囚われず、たとえ深夜であっても、自分の素直な欲求を満たしてくれる居場所を見つけてみようようとする、ちょっとした探究心・冒険心があれば、極めて居心地のいい空間に出会えるのが東京ミッドナイトの魅力。「スローライフ」な過ごし方が広がる渋谷では、真夜中の“構造改革”が進む。

恵比寿センター イメージ
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