特集

ピークを迎えた来年度の新卒採用
早期化する渋谷・就職活動事情

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■渋谷区に本社を構える企業の採用動向

2003年度新卒写真の入社式を終えたばかりの今年4月、2004年度の就職戦線は早くも佳境を迎えている。渋谷区に本社を構える公開企業は各市場合わせて131社。これは東京都に本社を構える全企業1,708社のうち7.7パーセントに相当する。渋谷区の公開企業には、老舗企業から新興ベンチャーまで幅広いのが特徴となっている。主な企業の採用動向を探ってみた。

●養命酒酒造(南平台町) 若干名。採用年の実績は5~6名。

●白洋舎(神山町) 採用予定は38名。営業職、工場職を問わずコミュニケーション能力を重視。

●伊藤園(本町) 同社では300名の採用を予定。広報部の川村さんによると、「以前は食品業界に絞って受けていた。今は経営やシステムなど、自分なりの観点から企業研究を行い、テーマをもって業界に関係なく応募している学生が多いようだ」と話す。

●セコム(神宮前) 109名を予定、エントリー受付け中。

●日本ケンタッキーフライドチキン(恵比寿南) 来年度の採用枠は未定だが昨年度は89名の実績。来年度に採用に関してはゴールデン・ウィーク前後に内定を出す予定。内定後、入社までに最低80時間、ショップでの「体験アルバイト」を行う。人事部関東採用担当の尾川さんによると「今はセミナー参加の応募は100%メール。会社の業務内容も事前にウエブサイトで確認できるため、セミナー会場に来る学生はある程度の予習ができるなど、コミュニケーションを図る上でも有効」と話す。

●スターバックス・ジャパン(神宮前) ストアマネージャー候補として50名程度を採用予定だがエントリーはすでに終了。接客業に関心の高い学生の応募が多く、内定者には事前のアルバイトも可能。担当者によると「ブランドだけで受けている学生は、やはり最後まで残れない」とのこと。5月中下旬には内定を出す予定。

●トレンドマイクロ(代々木) 採用予定は文系4~5名。4月中には内定を出す予定。最近の学生の傾向について総務人事部の成田さんは「就職活動を行っている学生間のインターネットを使った情報交換が盛んになっており、面接の様子などが詳しく掲示板に書かれている。ただし、こうした情報はあくまでも傾向と対策の一部であり、実際の面接では個人そのものの資質が問われるため、あまり影響を受けないと思う」と話す。

●グローバルメディアオンライン(桜丘町) 20名程度を採用予定、内定は4月より順次。入社前のアルバイトは「可能な限り」ということで必須とはなっていない。人事本部の米山さんによると「応募者には、『まぐまぐ』など同社の手掛けるメールメディアサービスのユーザーが多く、当社に馴染みを持つ学生が多い。ベンチャー企業に入社して若くして活躍・成長したいと願う『熱い』タイプの学生も目立つ」という。

●まぐクリック(桜丘町) グローバルメディアオンライングループの同社では、来年度採用分から初めて新卒の採用を開始する。採用予定は5~6名。人事担当の取締役・薛(せつ)さんによると「1999年設立の当社はこれまで即戦力として中途採用を行ってきたが、今後『会社の文化』を形成していく上でも新卒の採用が必要と考え、実施に踏み切った」とのこと。「グループワーク」という独自の選考プロセスでプレゼンテーション力などを問い、5月上旬には内定を出す予定。

グローバルメディアオンライン

●サイバーエージェント(道玄坂) 採用は50名を予定。人事担当者によると「起業家意識と成長意識の高い学生が多いようだ」と話す。同社は社名からもIT関連企業色が高そうだが、ネット広告の取り扱いを主体とする同社には「広告業界」での活躍を目指し、広告代理店との併願者が少なくない。内定は4月中に出す予定。

●カルチュア・コンビニエンス・クラブ(恵比寿) 4月4日(金)から10日(木)までセミナーのエントリーを受付ける。人事担当者によると「エンタテインメント系に興味の高い学生の応募が多い」とのこと。ゴールデンウィークから夏にかけて内定予定。

●アミューズ(桜丘町) 採用は10名前後を予定。応募者が多いためWEBを最大限に活用しているのが同社採用の特徴。同社へのエントリーはすでに2月13日に終了しており、3月上旬 には「WEB会社説明会」がインターネット動画配信を使って行われ、続いてWEBを使った適正試験とWEB版エントリーシートの配信が行われた。このWEBエントリーシート合格者のみに今度は「紙版」のエントリーシートが配布され、4月上旬から書類選考、1次選考、2次選考(含筆記試験)、3次選考と続き、5月上旬に予定されている役員面接を経て5月中旬に内定者が決定する。

就職活動を行う学生たちの服装については「紺無地・グレー無地が定番」と話すのは「ザ・スーツカンパニー渋谷109-2店」サブマネージャーの田路(とうじ)さん。こうした定番製品は、やはり早期化する就職活動と連動して、この2~3月に多く売れた。同店では「2プライス」を掲げておりスーツは28,000円・19,000円で、スーツを初めて買い求める学生はショップスタッフにトータルなアドバイスを受けながら、シャツ、ネクタイ、靴、ベルトなどをまとめて買い求めるケースも少なくないそうだ。ちなみに同店では、スーツから靴までの一式を36,000円から揃えることができる。

ザ・スーツカンパニー
サイバーエージェント

■コミュニティサイトを通じた情報交換も活発に

インターネットは今や学生にとっても必須ツール。当然のことながら、希望の会社とのマッチングに臨む学生たちはインターネットをフルに活用して事前の情報収集を行い、就職戦線に参戦している。中でも日本最大の就職コミュニティサイト「みんなの就職活動日記」は、就職活動を行う学生の情報交換の場としては今や欠かせない存在となっている。

運営を手掛けるのは上目黒にオフィスを置く「みんなの就職株式会社」。代表取締役の伊藤将雄さんは早稲田大学在学中の1996年、同サイトを開設し、就職活動を機に学生が「共に考え、集う場」の提供を始めた。当初は業界を6ジャンルに分けた運営だったが、利用者の増加と共に30ジャンルへ細分化し、さらに2000年からは「内定者日記サービス」を開始し、2002年には内定者同士の交流の場づくりを目指した「メーリングリストサービス」を開始した。これにより、入社式以前にすでにこのメーリングリストを通じて「同期」のネットワークを作ることが可能になり、内定後、入社までの不安の解消にも一役買っていたり、「飲み会」が行われたりしている。

同サイトの掲示板はさらに細分化を遂げ、昨年からは会社ごとに閲覧できるため、同時多発的に行われている就職・採用活動の動向がリアルに把握できるため、掲示板をチェックする採用担当者も少なくないようだ。企業別の内定プロファイルも5,000件以上を数え、面接のポイントや面接の官の様子などが、内定を「ゲット」するまでの過程が公開されているのも同サイトの特徴。こうした細分化により、同サイトはその後もアクセス数は増加傾向で、現在は1日130万ページビュー、9万ユニークユーザーを誇る規模に成長した。

同サイト代表の伊藤さんは、掲示板の最近の傾向として「IT関連業種の投稿数が下がっていて、飲食などのサービス業の比率が高まっている」と話す。「IT人気が一段落し、何となく受けていた学生が減り、今はITに意識の高い学生だけが受けているようだ」。さらに「今はITそのものより、ITを使って企業が目指そうとするものを見ようとしている」と続ける。まさにITを道具として使いこなす世代の視線でもある。渋谷周辺企業の採用動向については、ITやフード関連企業における「インターンプログラムの増加」を挙げる。企業側は春休みや夏休みを利用してインターンプログラムを用意して、仕事を通じて「じっくり」観察しながら、適正に合致した人材がいれば採用へのステップへと駒を進めていく。

  1. インターネットを含め就職・採用に関する情報が氾濫している
  2. ネットの「エントリーシート」採用で見た目の倍率が高くなっている
  3. 新卒採用にかけられる企業側のコストが抑えられ採用方法がシビアになっている

上記を背景に、企業側は「枠が小さくなっている」採用人数に集う多数の希望者を「低コスト」で選別するため、メールやWEBを合理的に活用している。企業側も学生側もツールとしてメールやネットを「当たり前」に使いこなしながら選考を進めていくことはもはや「合意」事項となっているようだ。就職活動とネットは今や切り離せない関係となり、学生に提供される就職情報が氾濫する中、「みんなの就職日記」のようなナレッジを活用して、いかに自分なりの視点で情報を見分けていくか=「情報リテラシー」がすでに就職活動の時点で試されているようにも感じられる。

同社では今後、就職を希望する学生に向けた「指南書」の出版化も予定しており、第一弾として「コンサルティング業界」に特化した内容で、間もなく東洋経済新報社から発売される。

みんなの就職活動日記
みんなの就職活動日記 みんなの就職活動日記

■「新卒」にこだわらない新たな動きも

一方で、パルコ(宇田川町)は今年から「新卒のみに限定した採用」を取り止めた。同社サイトには「U-29パルコトライアル」と題して、「学生の皆さんには、誠に申し訳ございませんが、『新卒採用』をやめてみようと思います。これまで私たちは、採用に際して学歴や性別を問わず人物重視で選考してきました。ならば、もう一歩踏み込んで、新卒という規制も取っ払って、新卒・既卒を問わず2004年4月1日に入社いただける若い方を募集いたします」とある。応募資格は「2004年4月1日現在で29才以下」で、大学生、大学院生、既卒の未就職者、他企業への既就職者など、すべての希望者にチャンスが与えられる。新卒者にとっては一層厳しさを増す動きだが、採用における新しい試みとして注目される。

パルコ
パルコ

■キャリア支援へと軸足を移す大学の就職課

こうした動向を、学生を送り出す大学側はどのように見守っているのだろうか。渋谷に程近い國學院大學就職課課長補佐の城所(きどころ)さんは、最近の就職活動について「早期化・長期化」を挙げる。4月3日、同大学では早くも新3年生向けの「就職ガイダンス」が開催された。近年は、早い企業では3年生の11~12月頃からエントリーを受付け、翌年の1~3月にはセミナーを開催し、4~5月にはすでに内定を出す企業が多くなった。1997年に就職協定が廃止されて以来、内定時期はますます早期化が進んでいる。

城所さんによると「早期化により、卒業後、何をしたいかという意識が固まらないまま就職活動に突入する学生が多くなっている。こうした状況は、3年生の段階ですでに方向性が定まっている意識の高い学生には有利に働き、結果として内定が出やすくなるが、逆に方向性が定まらず形だけで就職活動を行っている学生には、受けても受けても結果が出ない事態に陥るケースが少なくない。不況下の企業側の『厳選採用』で、就職期間の早期化は結果として学生の『二極化』を生んでいる」と分析する。

こうした動きに対応して、大学の就職課の役割も、従来の「就職支援」から「キャリア支援」への軸足を移し、「低学年から進路を考えてもらう」働きかけを行うケースが増えてきた。ただ一方で、学生側の危機意識が今ひとつ高くならないのもまた事実。「問題は『もし就職先が決まらなかったら、フリーターでも構わない』という空気が流れている点」と、城所さんは指摘する。中には従来通り、秋に内定を出す企業も混在するため、内定が出ない学生は3年秋からほぼ1年に渡って就職活動を続けなければならず、「長期化」する就職戦線を、いかに息切れせずに戦えるかという側面も加わり、大学生活の約半分が就職活動に費やされていることがわかる。

國學院大學

多岐の分野に渡る企業が集積する渋谷では、間もなく2004年度の「内定」が出るシーズンを迎える。一方で、企業を取り巻く環境の厳しさを背景に、「能力の高い人材」だけを、「必要最低限」確保しようとする「厳選採用」傾向はますます加速し、ネットを通じて採用試験の一部が実施されるのも今や珍しくなくなった。学生たちも「みんなの就職活動日記」のようなナレッジを巧みに利用しながら、情報武装を試みる。面接に残るための選考過程では、こうした情報武装も欠かせないが、面接以降は、今度は個人の意識や考え方、あるいは内面性が極めて高いレベルで試される。多くの企業の人事担当者は口を揃えて言う。「例え運良く面接に残っても、中身が伴わなければメッキが剥がれる」。ITがツールと化した現代では、小手先の知識ではなく、応用力のある「マインド」が問われているように映る。

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