特集

間近に迫る同潤会アパート取り壊し
高い地元意識が支える「表参道」の未来形

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■表参道の恒例イベント「セントパトリックデー・パレード」

アイルランドで毎年3月17日、盛大に行われる「セントパトリック・デー」は、5世紀にキリスト教をアイルランドに広めた宣教者「聖パトリック」を讃える祝祭日。彼の熱心な布教活動によって、アイルランドは敬虔なカトリックの国となり、「聖パトリック」はアイルランドの守護聖人として1,500年経った現在もアイルランド人に親しまれている。その「聖パトリック」の命日が3月17日。この日、アイルランドでは最大の祝祭日として国を挙げて祝う。また、「セントパトリック・デー」はアイルランド8世紀以来、海を渡った多くのアイルランド移民とともに世界各地に広められた。今日では世界中に住んでいるアイルランド人が同日、この祭りを祝い、特にニューヨークでは、数百万人もの参加者を数える一大パレードが行われる。パレード当日は「セントパトリック・デー」のシンボルである「三つ葉のシャムロック(クローバー)」を胸に緑色のコスチュームに身を包み、緑の国の聖なる祭りを祝うのが特徴。

「アイルランド・フェスティバル」メインイベントである「セントパトリックデー・パレード」は、日本では1992年、「アイリッシュ・ネットワーク・ジャパン」(INJ)の主催で、当時のジェームス・シャーキー駐日アイルランド大使の協力によって開催されるようになった。INJとは現在日本に在住し、日本で働いている、あるいは留学しているアイルランド人及びその日本の友人達やアイルランドに親しみを持つ日本人で構成される、日本とアイルランドの友好を目的とした非営利団体。「セントパトリックデー・パレード」には、1998年からアイルランド系住民の多いアメリカ合衆国のトム・フォーリー駐日大使も参加し、パレード参加者は700人、観客は5,000人を超えるようになった。2001年のパレードではアイルランドのメアリー・ハーニー副首相をはじめ、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、ロシアの大使も参列。同年のパレード参加者は2,000人、観客は6,000人。毎年規模が大きくなり、原宿の春を告げる恒例行事となった。昨年は約1,000人がパレードに参加し、約10,000人がパレードを見るために沿道に集まった。

今年で第12回を迎える同パレードは、例年通り原宿表参道を舞台に開催される。 3月16日午後2時、原宿表参道(神宮前交差点)をスタート、午後4時前に終了の予定。同フェスティバル広報担当の川崎さんによれば、今年は7月にダブリンで開催される「スペシャル・オリンピック」の日本代表チームのメンバーのパレード参加が一つのテーマになるという。その他、アイルランド大使、本国から来日される副大臣、また、昨年のアジア・ゲーリック・チャンピオンシップで優勝した、日本のゲーリック・フットボール女子チームなども参加予定とのこと。参加人数は団体、個人を合わせて約1,000名、当日参加者は先着200名を予定している。後援はアイルランド大使館、協力はアイルランド政府官公庁、原宿表参道欅会、渋谷区役所原宿警察署、赤坂警察署、明治神宮、神宮前小学校。

遠方からの参加者も多彩。川崎さんによれば、昨年に引き続き、横浜の川島囃子(はやし)と、千葉のワールドカップアイルランド代表を応援する会 (ISC千葉)、そして今年は新たに日立市のアイリッシュ・ダンス同好会が参加。横浜川島囃子は、昨年の「FIFAワールドカップ2002」のアイルランド対サウジアラビア戦が横浜で開催されたことや、INJの前チェアマンが横浜アイルランド歓迎委員会の発起人であり、お囃子のメンバーでもあるということに端を発するもの。ISC千葉も同様、ワールドカップの際に、アイルランド代表団のキャンプ地であった関係で、昨年から参加。なお、同じ3月16日、京都でも「セントパトリックスデー・パレード」が開催される。

アイリッシュ・ネットワーク・ジャパン
セントパトリック・デー セントパトリック・デー セントパトリック・デー

■美観保護に取り組む地元の取り組みとNPOの誕生

表参道が美しい景観を保ち続けているのは、商店街振興組合原宿表参道欅会の活動によるところが大きい。同会は約300店のショップが参加している。同組合は自主的に表参道で早朝の清掃を続けている。毎週月・木曜は「欅会青年部」、火・金曜は「欅会クリーンバスターズ」、水曜は「美容部会」、土曜は「ラフォーレ・グリーンバスターズ」が担当している。

商店街振興組合原宿表参道欅会公式サイト

欅会青年部に所属し、清掃の中心メンバーとして活動する長谷部さんと嶋瀬さんが2003年1月に設立した「green bird」は「きれいな街は、人の心もきれいにする」をコンセプトに誕生した、NPO法人申請中のプロジェクト。同潤会青山アパートに事務所を借り、現在、自ら早朝の清掃を続ける一方、「ゴミのポイ捨てはしません運動」や企業とのコラボレーションなど活動を続けている。代表の長谷部さんは「ポイ捨てはカッコ悪いよ、ということを知らせるスイッチがあればと考えて活動を始めた。僕は原宿生まれ、原宿育ちなので、ここが故郷。自分が生まれた街を素直にきれいにしたいと思っている。メッセージを表参道から発信すればファッショナブルなアプローチが可能になる。NPO法人を申請したのは、企業とのコラボレーションを進めるためには法人化したほうが良いと考えたから」と説明する。

「green bird」のメンバーになるのは簡単。「“ゴミのポイ捨てをしません”と宣言をした人は、誰でもメンバーになれる」(長谷部さん)という。「掃除をしていると、その横でゴミを捨てていく人がいる。いくら掃除をする人がいてもこれではイタチゴッコで終わってしまう。公共の場ではゴミを捨てないことは当たり前のことだが、現代は当たり前のことが忘れられている時代。モラルを条例や法律で縛っていくのでなく、ポイ捨てしてはいけない、という空気を作っていくことが大切」と長谷部さんは活動の趣旨を語る。「green bird」では鳥をモチーフとしたグラフィックをあしらったフラッグやポスター、バッチ(1個100円)を制作し、わかりやすい形で活動を進めている。他に毎月ポストカードを制作するなど、若者に訴求するプロモーションを心がけているのが特徴。

長谷部さんと嶋瀬さんは大手広告代理店博報堂の出身。「代理店時代に会得したことをフル活用している」(長谷部さん)というように、親しみやすいキャラクターを編み出し、グラフィックを展開していく様は、NPO法人らしからぬ手法。原宿エリアではすでにカフェや美容院のスタッフが「green bird」のバッチを付けて仕事をする姿が見られるなどじわり浸透しつつある。「バッチは1億2千個売りたい。『green bird』のマークを流行らせたい」と長谷部さん。欅会青年部が行う早朝の掃除では、「green bird」のトレーナーを着用して普及に努めている。長谷部さんは「パフォーマンスは必要だと考えている。表参道で活動を行っているから取材されるということもあるだろう。パフォーマンスは自分たちの活動を知ってもらえるきっかけにつながる」と話す。前出した「セントパトリックスデー・パレード」では「しんがり」として参加するほか、パレード終了時にはふだん清掃することが困難な中央分離帯を中心にゴミを拾いながらパレードに臨む。

green bird
green bird green bird

■いよいよ取り壊しが始まる同潤会アパートの動向

前出した「green bird」ほかインテリアショップやオプティカルショップが入居する同潤会青山アパートの解体工事は、現在のところ4月末から5月にかけて始まる予定。築70年を超える同潤会青山アパートは老朽化が著しく、保存と再開発の間で長年揺れ動いてきた。同アパートを中心とした再開発事業、正式名称「神宮前四丁目地区第一種市街地再開発事業」では土地利用の方針として「容積率100%程度の低い水準の利用にとどまり、地区内の10棟の共同住宅と1棟の公衆トイレは、いずれも築70年を超え、老朽化が著しく進んでいる状況であり、土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新の実現が望まれている地区である」と謳われている。森ビルが核となって2002年10月に設立された「神宮前四丁目地区市街地再開発組合」では「老朽化が著しく、ここでの生活の継続が困難であると判断して、同潤会青山アパートの建替えを決定した。同潤会青山アパートがなくなることは寂しい、という思いはよくわかるが、ネガティブに捉えるのでなく、建築家・安藤忠雄氏デザインによる、ケヤキ並木と調和した近代ビルに期待してほしい」と説明する。

同潤会青山アパート 同潤会青山アパート

安藤氏は設計者の言葉として次のようなデザインコンセプトを語っている。「人々の記憶に刻まれた景観を可能な範囲で遺すために、既存建物の外壁を一部再生し、可能な限り地下空間を効果的に活用することにした。地上の建築のボリュームを抑え、ケヤキ並木と一体となった景観を都市の記憶として残したい」(「神宮前四丁目地区市街地再開発組合」ガイドより抜粋)。同組合の計画概要では、住宅は西棟(地上3~4階)、東棟(地上4~6階)、計画住戸は38戸。店舗は地下3階~地上3階。駐車場は住宅用20台、店舗用196台。駐輪場は住宅用38台、店舗用51台。完成は2005年。

<施設の特徴>
  1. 住居環境の特徴は、喧騒からの距離と日照を確保できる施設上層部に住宅を配置すること。
  2. 商業空間は店舗階の半分が地下に埋設されているが、中央の吹き抜けによって地下3階まで自然光を取り入れることができる。この吹き抜けに面して、表参道の坂道と同じ勾配のスパイラル状のスロープを取り入れ、変化と発見にあふれたにぎわいを演出する。
  3. 景観・街並みとの調和を重視し、地上の高さを5階建て(住宅の一部6階)に設定。ケヤキ並木のスケールと調和した、落ち着きのある街並みをつくりだす。
  4. 外構と屋上を緑化し、明治神宮から表参道へと続くケヤキ並木と一体となる緑あふれる環境をつくりだす。
神宮前4丁目地区市街地再開発組合/TEL:03-5410-3623

同潤会青山アパートには現在、数店のショップが店を開いているが、ヨーロッパのアパレルやバックを販売する「カリーノ」が南青山に移転するなど、現在続々と移転が進んでいる。同アパートに全部で3店舗展開している、アジアの家具と雑貨を扱う「アールショップ表参道店」は3月末に移転を予定しており、移転先は近くの南青山に決定している。世界の眼鏡とサングラスを扱うセレクトショップ「リュネット・ジュラ」は解体直前まで現地で営業を行い、再開発工事中は近隣に移転、2005年に完成する新ビルでリニューアルオープンする。他にもアートの発信地として知られた同潤会青山アパート内のギャラリー「Galerie412」「GALLERY80」「ギャラリー夢どうりSPACED」など、当分は営業を続ける。

再開発パース図 再開発パース図

パース提供:神宮前4丁目地区市街地再開発組合

■まだまだ続くスーパーブランドのオープンラッシュ

南青山5丁目の「プラダ南青山店」(仮称)は今年6月前半のオープン予定。3月初旬には工事の囲いを取り外し、蜂の巣のような菱形フレームで構成される全面ガラス張りの、未来的な建物が登場して注目を集めたが、「プラダジャパン」広報担当者によると、「建設上どうしても囲いを外さなければならなかったので外したが、しばらくすると、また囲いは戻す。建物が露出しただけで、思わぬ反響が届き、その反響の多さに驚いている。オープンの際にビッグサプライズにしたいという想いがあるので、囲いを外したのは本意ではなく、早く囲いをもとに戻して、何事もなかったようにしたい」と話す。設計はヘルツォーク&ド・ムーロン。

2003年9月1日には、青山通りとクロスする交差点そば、交番の隣に「理想表参道ビル」(仮称)が開業を予定している。同ビルの建築主は「プリントゴッコ」で名高い「理想科学工業」(本社:板橋区)。地上7階、地下2階。高さ36m。設計は隈研吾。物販店舗、事務所、住宅から成り、店舗には「LVMHモエ ヘネシー ルイ・ヴィトン」が入居する。続いて11月20日には「エスキス表参道」の並びに「表参道ディオールビルディング」(仮称)がオープン予定。当初2002年秋にオープン予定であったが、1年遅れの開業になりそうだ。地上4階、地下1階。高さ30m。設計は妹島和世。2004年2月末には「ルイ・ヴィトン表参道」の並びにイタリア高級靴屋「トッズ表参道」(仮称)が開業する。地上7階。高さ28.5m。設計は伊東豊雄。続いて3月末には「社団法人日本看護協会原宿会館」(仮称)が誕生する。現在、現地は「ソニー」のVAIOの広告ボードが囲いとなっていおり、通行人の目をひきつけている。同会館は地上8階、地下2階。高さ33m。設計は黒川紀章。

表参道は都内でも最も美しい景観を保つエリア。海外のスーパーブランドが表参道に相次いで進出しているが、出店理由のひとつに表参道が持つ歴史と景観の美しさを挙げるケースが多い。その表参道も今、大きな変貌を遂げつつある。昨年秋の「ルイ・ヴィトン表参道」の開店以降、表参道は一気に大人化が加速した。「グッチ」「エンポリオ・アルマーニ」「シャネル」など世界のスーパーブランドが軒を並べる国内でも稀有なストリートであったが、「ルイ・ヴィトン表参道」登場のインパクトは大きかった。一見メジャー感の漂う表参道だが、パチンコ店や風俗店を営業させない規制条例や毎日行われる清掃など、地元意識の高い住民や商店街による地道な努力が背景にあることが欠かせない。

「プラダ南青山店」(仮称) 「理想表参道ビル」(仮称) 「表参道ディオールビルディング」(仮称) 「トッズ表参道」(仮称)
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