特集

ボジョレー・ヌーヴォー解禁。
オトナ市場を牽引する渋谷ワイン事情

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■裾野が広がるワインマーケット

フランス・ブルゴーニュ地方最南のボジョレー地方で、今秋収穫されたばかりのブドウで作った赤ワインの新酒「ボージョレー・ヌーヴォー」。第1陣は9日(金)朝、オーストリア航空の旅客便で関西国際空港に到着した。同便で運ばれたボージョレー・ヌーヴォーは約3.6トン。関空では、同日中に約950トンが通関した。今年はアメリカ同時テロの関係上、各社とも航空便の手配に例年以上に神経を使ったという。

もともと11月15日を解禁日としていたが、年によって日曜と重なることがあり、レストランや消費者からも「解禁日にヌーヴォーが飲めない」という苦情がフランス政府に寄せられ、1957年以降、毎年11月第3木曜の午前0時が全世界で解禁されることになった。日本では時差の関係から、本家フランスより8時間早く解禁されるとあって、バブル期には解禁日が「お祭り」としてもてはやされ、“カウントダウン”イベントが全国各地で開かれた。このブームで「ボージョレー・ヌーヴォー」に対する認知が高まり、愛好者の増大に貢献した。当時は一般消費者にとって、フランスのワインはまだ高価な飲み物として受け止められていたが、商品の多様化とこなれた価格でじわじわと市場の裾野を広げ、今では「普段から」「気軽に」楽しめる商品として定着した。

今年9月、シブヤ西武A館地下2階に誕生したデリ&レストランフロア「セタンジュ」、この中に約600アイテムを誇るワイン専門店「ヴィノスやまざき WINE+ist (ワインイスト)渋谷店」(本社・静岡)が同時にオープンした。約500アイテムは、70以上の蔵元から直接仕入れた定番。かつて高級品といったイメージが強かったワインだが、同社は直接買い付けにより流通コストを削減し、求めやすい価格に設定にしている。ワイン人口の裾野が広がっている要因について、ソムリエで同店店長の井関さんは、

  1. 低価格でおいしいワインが輸入されるようになった
  2. メジャーな女性誌の記事に低価格のワインが取り上げられたことで、価格とおいしいものに敏感な女性と若者が反応した
  3. 40~50代の健康志向により「ポリフェノール」を含むワインに注目が集まった
  4. 食生活の欧米化で食事に合うワインが求められるようになった
  5. 居酒屋が料理に合わせたワインを置くようになり、ワインバーが普及したことで習慣として食事とワインが定着しはじめた

と分析する。

井関さんによると、同店を訪れる客は「味と値段」を指定する人が多いという。フリー客は少なく、ほとんどが目的買い。年代は20代から年配の方まで幅広いが、中心となるのは20~30代の女性。日本人は長い間、食事は食事、酒は酒というように分離して楽しみを味わってきたが、食べ物をおいしくし、かつ会話を広げる話題にあふれたワインは、雰囲気を重視する女性と若者に好感を持たれたのである。また、景気の低迷もあり、お金を使わないで食事を楽しむ成熟した消費者が増えてきたのもワインが選ばれる布石となっている。

同店の特徴のひとつにショップ内に設けた「ワインバー」がある。おすすめのグラスワインやチーズ、パンがその場で味わえるカウンターは、試飲することで好みに合ったワインを選べることもあって人気が高い。料金はグラスで500円。テイスティングしてから、お気に入りの1本を選択するのが今時の購入の仕方。さらにWINE+ist(ワインイスト)=ワインの専門家や、ワインに最適のチーズやパンのist(専門家)が、客の購入をサポートしている。

「昼間は(ワインバーで)奥様が軽くワインを飲む光景を見るにつけ、日本でも新たな文化が生まれつつあると感じる」と、井関さんは感想を語る。ワイン文化の普及という点では「バーコーナーは文化を育てていくための方法。ワインは嗜好品なので、販売店が努力しないと飲んでもらえない商品」とも。ちなみに今年のボジョレーについて「良好。期待してください」。

ヴィノスやまざき シブヤ西武(セタンジュ)

「恵比寿ガーデンプレイス」にあるワインマーケット「PARTY」は、セルフサービス方式でワインとワインに合ったチーズなど食料品を販売している。ワインアドバイザーで店長の西川さんは、ワイン愛好者が増えた要因のひとつに「安価で親しみやすいワインが増え、選択肢が広がった」ことを挙げる。

同店では「来店者はワインにつけたコメント(解説)を読んで、自分が求めているワインを探す」スタイルが定着。かつて高価なイメージがあったワインも、情報が氾濫する今日では、すでに客が自分の眼で選ぶ時代になってきたと言える。ワイン愛好者が増えた要因としては、西川さんは「田崎信也のさん(1995年度世界最優秀ソムリエ)のようなスターソムリエが登場したり、ワイン好きのタレントさんがワインアドバイザーの資格を取ったりしたことも、ワインが一般に普及し、業界の後押しにもなった」と話す。同店では「ボジョレー・ヌーヴォー」は23アイテムを用意。今年はプリントボトルやオーガニックタイプのものが売れ筋とのこと。

ワインマーケット「PARTY」
ワインバー

■味に変化を生み出すグラスへのこだわり-ワイングラス専門店登場

7月に南青山にオープンしたワイングラス専門店「RIEDEL(リーデル)ワインブティック」。オーストリアのワイングラスメーカー「RIEDEL(リーデル)」日本法人「リーデル・ジャパン」が新設した専門店。同社の吉田さんは「グラスは装飾品でなく、飲むための機能にあふれ、ワインの味わいに大きな影響を与えるもの。グラスを変えるだけでワインがおいしくなる」と話す。ワインの風味は、ブドウ品種の果実味、酸味、タンニン、アルコールの力関係によって決まる。味が変わるのは、舌が感じる甘味や酸味を、グラスでコントロールするためである。ワインが舌のどこに触れるかは、グラスの形状、大きさ、グラスの縁の直径、厚み、その仕上げによりコントロールされる。つまりワインの個性を最大に引き出すには、グラスが重要となるのである。

同店では、選ぶグラスによってワインの味が異なることを広く知ってもらうため、店内で試飲を実施している。「ワインのテイスティングでなく、グラスのテイスティングです。同じワインを異なるグラスで飲み比べてもらい、グラスの形がいかにワインの味わいを左右するのかを体感してもらいたいたいと思い実施している」とのこと。また、同店では毎月「今月のグラス」をピックアップし、ベストマッチのワインと合わせて低料金(500円)で提供しているほか、グラスとワインの関係を体験できるミニ・セミナー形式の「スタンダード・セットコース」(約30分、要予約。料金3,000円)も開催している。

ワイングラスにまで注意を払う“ワイン愛好家”が増えてきた背景について、吉田さんは「90年代のワインブームを経て、ワインのベーシックが浸透した。またワインのレベルが上がるとともに、低価格のワインが日本にも入るようになり、日本人のワインを見る目が肥えてきた」と分析する。加えて「景気の低迷が続いているので、自分の時間を大切にする人、肩書きを外した時間を大切にする人々が増え、食事を摂りながらワインに向き合う人が増えたのでは」と話す。同店に訪れる客である程度の知識を持った人は、自身の知識を開陳したり、店でワイン談義にふけることもあるという。グラスの料金は1,200円~。

リーデル・ワインブティック TEL:03-3404-4456
RIEDEL(リーデル)ワインブティック RIEDEL(リーデル)ワインブティック

■お気に入りの「ワイン選び」がデートコースに?

全国に12店舗を展開するワインショップ「エノテカ」(本店・広尾)は、1988年創業のワイン専門店。都内では広尾本店をはじめ、代官山店、銀座店など5店舗を構える。“酒屋”でなく、“ワイン・ギャラリー”風の店構えが高感度なイメージをかもしだしている。代官山店店長の秋山さんは、最近、カップルで来店し、楽しげにワインを選ぶ光景をよく見かけるという。「頻繁に外食する余裕はなくなったが、低料金でも十分味わえるワインが普及したので、自宅でワインを楽しんでいるようだ。特に女性客が多く、流行で購入する方もいるが、最終的には楽しみは食に行き着くと思う」と説明する。また、知人のホームパーティに出かけるのに、手土産としてワインを購入する客も増えてきたとのこと。

同店では、ワインの普及と商品購入のきっかけにしてもらうため、不定期にワインのティスティングを行っている。たとえば11月17日(土)には「格付けランキング“どっちがドンペリ?”」と題して、2種類のシャンパンの中からドンペリを当てるテイスティング(1,500円)や、翌18日(日)には「5カ国テイスティング」(5グラス・セット1,000円)などを予定。解禁した今年のボジョレーについて秋山さんは「前評判も良く、ジュース感覚で飲めるものが人気。ボジョレーは若いワインだから、料金的にも気分的にも気軽に飲めるのがメリット」と話す。

エノテカ

フランスではワインは手軽な飲み物で、フランス人の多くは、昼食時にもワインをたしなんでいる。料金も安く、スーパーに並ぶボトルは日本円で100円から2,500円程度。流行や健康志向とは無関係にワインが文化となっている。日本人はもともと味覚に関して、体質的に「渋み」と「酸味」を苦手とする民族であった。日本での歴史が浅いワインだが、日本人の食生活が欧米化するに従い、ワインに対する“免疫”もでき、バブル期の「お祭り」や流行先行のヴィンテージワインブーム、昨年の“ミレニアム”需要を経て、ワインはもはや日本人の食生活にすっかり溶け込んでいる。以前は、フランスのスーパーで100円の価格をつけて販売しているボトルが、日本に到着した時点で数千円に跳ね上がっていたことこともあったが、今では円高や流通カットの恩恵を受けて、手ごろな価格のワインがどこでも手に入るようになった。

総需要量が増えない国内のアルコール市場においては、業界関係者はワインの成長性を見込んでいる。それだけに、大手ビール会社も、このところワイン市場に本格的に取り組んでおり、今年のヌーヴォーは各社とも販売目標を高めに設定し、完売を目指す。ワイン市場は1998年の空前のブームの反動で、ここ数年在庫がダブつき気味だっただけに、今年の商戦に賭ける意気込みは荒い。

ワインは歴史、個性的なシャトー、多彩な味わいなど、奥が深く、知識を欲すれば欲するほど、その楽しみにはまっていく。ワイン愛好者が自身のウンチクを開陳したがるのは、それだけ文化としての深みがあるということでもあり、ある意味で“道”があるジャンルとして日本人の気質にも合っているとも言える。成熟した消費社会の中で期待がかかる“オトナ・マーケット”の牽引役として「ワイン」の消費動向に注目が集まる。

エノテカ
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