特集

「監獄レストラン」ガチンコ対決?
渋谷・エンタテインメント系飲食店事情

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■「ハードロック・カフェ」に始まるテーマ・レストランの系譜

「エンタテイメント系飲食店」の発祥の地、アメリカには様々なテーマによるレストランが数多くある。レストランとは思えないような凝った内装で、ウエイターやウエイトレスの衣装や店内で流れるBGMもテーマに合わせてオリジナルで作られ、それらのすべてがひとつのアトラクションとして見ることができる。日本では、ハードロックをテーマとした「ハードロック・カフェ」が先駆け。日本での1号店となる六本木店は、1983年にオープンした。「ハードロック・カフェ」を経営するWDI(本社:東京)は今年3月、「ユニバーサル・シティウォーク大阪」に、「ハードロック・カフェ大阪店」と、映画「フォレスト・ガンプ」の世界を再現した「ババ・ガンプ・シュリンプ大阪店」を開業した。WDIはイタリアンカジュアルレストラン「カプリチョーザ」(国内148店舗)を経営する外食産業のパイオニア。エンタテインメント系飲食店の日本での先駆者は、米国本社とライセンス契約を結び、ライフスタイルをも含めた「テーマ・レストラン」という業態を“輸入”する形でスタートした。

その他、米国生まれのエンタテイメント系レストランでは、熱帯雨林のジャングルを体験できる「レインフォレスト・カフェ」(舞浜「イクスピアリ」)が昨年のオープンながら一気に知名度を上げているほか、最新のものでは、同じく舞浜「イクスピアリ」に12月7日(金)、ハリウッドのスターが共同経営する映画をテーマとした「プラネット・ハリウッド」がオープンする。約14億円を投じ、延べ床面積約500坪、425席で、映画撮影に使われた衣装や小道具、俳優のサイン入り手形が展示されたり、ハンバーガーなどのアメリカンフードやエスニック料理が楽しめる大型テーマ・レストラン。

一方、国内では今年6月、ドラキュラ城をモチーフとした「ヴァンパイアカフェ」(銀座)が開店し、エンタテインメント系飲食店として注目を集めている。渋谷では、「ヨーロッパから見たアジア」をテーマとして店内に巨大な仏像が鎮座している「ブッツトリップバー」「エレファント・カフェ」、「アメリカから見た50年代のヨーロッパの下町」を再現した約1000人収容のテーマ・レストラン「ボビーズ・カフェ」がすでにオープンしている。中でも「ボビーズ・カフェ」は、教会の礼拝堂を思わせる「懺悔の部屋」や、古い洋館風の「ドラキュラの館」、カップル専用席が並ぶ「オリエントルーム」、壁に天使が描かれた「エンゼルルーム」など、客席が8種類のユニークな空間に分かれている。

「ブッツトリックバー」「エレファント・カフェ」「ボビーズ・カフェ」を運営するは本社を大阪に置くユージー・グローイングアップ。同社では他にも、教会をイメージした「キリストン・カフェ」(新宿)などなど新たなコンセプトのレストランを全国で計38店舗展開している。同社の張江さんは「小さな店はインパクトがない。大きな店で、空間と演出にこだわり、同じブランドは作らず、客を飽きさせないようにしている」と話す。

ユージー・グローイングアップ

テーマ・レストランのひとつのジャンルとして確立しているのが“異国”というモチーフ。12月15日(土)、道玄坂にオープンする「サンアロハ渋谷道玄坂店」は、横浜で人気の「サンアロハ」の2号店。同店はハワイをイメージした「南国のレストラン」をテーマに据えている。エントランスの両側には、ハワイの象徴とも言える、重さ500キロ、高さ2メートルの丸太を一刀彫りした木の彫像「ティキ」が飾られ、エントランスの上部には炎のトーチがあしらわれている。客席は3つのブロックから構成され、それぞれがひとつの家となっている。家の屋根はヤシの葉で作られ、屋根と屋根の間から幻想的な星空が見えるという。店舗壁面はサンゴストーンで構成、サンゴストーンの間を滝が流れる装置も見もの。

経営するのはビッグバン(本社横浜)。企画・プロデュースを手がけるジェイエイチピーの野田さんによると、渋谷への出店は全国展開の第一歩とのこと。「渋谷は大人の街に変わりつつある。5年目に突入する横浜での実績をもとに新店舗開店の場所を考えた時、大人化しつつある渋谷、その中心である道玄坂が絶好の場所だと判断した」と、野田さんは説明する。

サンアロハ渋谷道玄坂店 TEL 03-6415-8368

■渋谷・監獄系レストラン、ガチンコ対決

9月に宇田川町にオープンした「ザ・ロックアップ」は、250席収容の“監獄レストラン”。電気椅子にかけられ、断末魔の叫びを上げる人形が迎えてくれる、おどろおどろしい装飾のエントランスを抜けて入店すると、女性看守に扮したスタッフが客に初めての来店か否か尋ねる。初めてなら「初犯」、リピーターなら「再犯」として手錠をかけられ、座席まで“連行”される。「囚人独房」と称する各部屋は、鉄格子に囲まれた完全個室。250席は絶えず満席。週末となれば40分~1時間待ちの状態にある。「懲役2時間コース」(10品2,500円~)。1日3回開かれるアトラクションが人気を集めている。

同店を経営するのは、全国に18店舗を運営するセラビィリゾート(本社:名古屋)。関西を中心に飲食店とリゾートホテルを展開する同社は1999年、京都に「ザ・ロックアップ」1号店を開店。以降、直営店を“監獄レストラン”にリニューアル。都内では新宿店、池袋店が先行して開業している。同社東日本統括部長の吉川さんは「京都でパイロット店を開いた時は、保守的な土地柄から、人気が爆発するのに半年かかった」と言う。

「エンタテイメントに慣れた東京の客に“ハリボテ”は通用しない」として、同社ではハリウッドから“仕掛け”を輸入した。吉川さんによると、「モンスターの作り物のメッカはハリウッド。幹部がニューヨークに飛び、買い付けをした。当店は、飲食店のディズニーランドをイメージしている」とのこと。“集大成”である渋谷店の総工費は、約1億5,000万円、保証金は約1億円。エンタテイメント系飲食店は早く飽きられるリスクも孕んでいるが、吉川さんは「命が短いことは分析ですでに承知済み。そこでアトラクションのテーマと料理を3ヶ月で変更し、飽きられないよう工夫している」と自信をうかがわせる。

ザ・ロックアップ渋谷店

翌月10月には元祖“監獄レストラン”が同じく渋谷に登場。「オンエア・イースト」隣にオープンした「アルカトラズE.R.」は、“刑務所”と“病院”が合体した「刑務所付属病院」をイメージした異色のレストラン。恐怖とスリルが味わえるこのエンタテイメント・レストランは、入店時に「当院は初めてですか?」と尋ねられ、いきなり手錠をかけられ、先端に「はんこ」がついた巨大な注射器で「予防接種」(手に印を捺される)を受ける。客は“患者”となり、“ナース”姿の女性スタッフ(男性スタッフは医師が着用するグリーンの手術着を着用)に導かれ、囚人部屋や霊安室などの座席に案内される。部屋につくと、手錠を外してもらい、ナースが「カルテ」に“患者”の名前や病名、血液型を記入する。部屋は病院にあるベットのような椅子を配した「集中治療室」や、壁も鉄格子も真っ白の「手術室」が用意されている。

同店店長の山本さんによると「オープン当初、“渋谷病棟”開院のお知らせとして病院に模したチラシを配ったところ、近所のご年配の方から『近所に病院ができて嬉しい』という電話が入った」というエピソードもある。山本さんによれば、「ミッドナイトエクスプレス」「ショーシャンクの空に」「ザ・ロック」など、刑務所を舞台とした映画を見た同社の安田社長が「ふと店のコンセプトを思いついた」という。「入りたくないものの筆頭が刑務所と病院」と、究極の“非日常性”を全面に出した飲食店を構想し、1997年にエイチ・ワイ・ジャパンを設立。1998年、六本木に1号店の「アルカトラズB.C.」を開店。渋谷店は4店舗目となる。

同店ではメニューのネーミングも徹底している。料理は、老衰(牛しぐれ粥か岩のり明太粥)580円、ギョウ虫検査(蒸しシャコ 豆板醤マヨネーズ味)640円、正露丸(マグロのドームのり包み)、解体(カルパッチョ)850円、盛岡の怨念(盛岡冷麺ホットバージョン)などブラックジョークに富んだものが多く、ドリンクでは、精神安定調合剤(試験管、ビーカーのカクテル)620円、日本脳炎(注射器のカクテル)620円、急性ER中毒(点滴のカクテル)620円など容器に工夫を凝らしたものが多く、各テーブルにはスポイドの醤油入れが置かれている。山本さんは「アミューズメント・レストランなので、普通のネーミングではおもしろくない。ユーモアのあるネーミングを考案した」と説明する。

1日2回開かれるショーでは、“恐怖のオペ”と呼ばれる公開緊急手術が繰り広げられるほか、クリスマスにはナースの制服を客に貸し出すなど、趣向を凝らしたアトラクションが繰り広げられている。また、病室を模した部屋にしつらえた器具は、医療機器専門店で購入している。山本さんは「徹底することに義務がある。中途半端だと客が拍子抜けする。当店のスタッフは店に来ると、いい意味で人が変わり、テンションが上がる。店は舞台で、スタッフはタレント」と説明する。渋谷店の客層は他店より若干若く、女性が6割を占める。ターゲットはOL、サラリーマン。1,000円チャージがつくのも同店の特徴で、客単価は約4,000円。「料理が不味いとリピーターにならない」として、料理でも個性を出すため「きりたんぽ鍋」(コース2、780円、単品740円)を用意している。

アルカトラズE.R.

名古屋に本社を構えるセラビィリゾートが運営する「ザ・ロックアップ」と、六本木に本社があるエイチ・ワイ・ジャパンが経営する「アルカトラズE.R.」は演出面で類似している点も多く、“渋谷・監獄レストラン対決”としても話題になっている。「ザ・ロックアップ」のアトラクションは1日3回、客単価は3,500円、席数250席。対する「アルカトラズE.R.」ではアトラクション2回、客単価4,000円、席数200席。「ザ・ロックアップ」ではトイレに立つと“仮出所”、「アルカトラズE.R.」では“検尿”と呼ばれる。ちなみに「アルカトラズE.R.」では、客(患者)が会計を済ませて店を出る際に「退院おめでとうございます。またの通院をお待ちしております」と、声をかけている。

名古屋や大阪の企業が積極的に東京に出店を図る背景には、エンタテインメントの集積地である東京で実績を積むことが全国展開の近道と考えることがある。「東京の客は目が肥えている。ハリボテは通用しない」(「ザ・ロックアップ」関東統括部長吉川さん)、「安くておいしいものに対して大阪の客は貪欲だが、東京の客はエンタテインメントに対してシビア。競争の激しい東京では、中途半端なことをやっていては生きていけない」(「ユージー・グローイングアップ」張江さん)と言うように、本陣は情報発信地である東京tの認識が高い。大阪や名古屋の企業にとって全国区に名乗りをあげるには、やはり東京での認知アップが欠かせない。エンタテイメントに長けた渋谷の消費者に受容されるコンテンツが供給できれば、全国制覇も一気に近づくだけに、各店共「渋谷店」に賭ける意気込みは高い。

アルカトラズE.R. アルカトラズE.R. アルカトラズE.R. アルカトラズE.R. アルカトラズE.R.

■「飽きさせない」ことが最大の課題。エンタテインメント系飲食店の展望

音楽、国、建物、時代、物語など、特定のカテゴリーを絞り、テーマを設けて展開するエンタテイメント系飲食店。ポイントは料理だけでなく、五感を動員して楽しむ「満足」を提供していることである。店舗が演出する“非日常性”に魅せられた客がファンとなり、友達や恋人を誘い、リピーターとなるわけだが、繰り返し利用すると「非日常」という新鮮味が薄れるのが弱点でもある。飲食メニューに加えてエンタテイメント性という集客手段を持っていることは強みだが、同時にウィークポイントにもなりかねない。そこで各店とも飽きられない工夫に智恵を絞る。スケールメリットを出すための多店舗化においても、各店のコンセプトに変化をもたせてみたり、定期的にアトラクションの見直しを図るなど、常に「飽きられない」努力が必要となる。ハード的な初期投資に加え、ソフト面の供給ノウハウが欠かせない。

ただ、本場アメリカでのテーマ・レストラン人気はすでに頭打ちの傾向で、話題性が先行しすぎて固定客づくりが進まなかったことが背景に挙げられている。これをひとつの反省材料として捉えるならば、日本のエンタテイメント系飲食店は、ハードに依存しすぎない魅力ある演出と演出の内容の変化が求められる。吉本興業に代表されるエンタテイメントの本場=大阪、バブルの後遺症が比較的小さく何かと元気な名古屋、東京エンタテイメント系の代表=六本木に本陣を構える各企業が、渋谷を舞台に火花を散らす。“癒し”ブームの対極として話題を集めるエンタテイメント系飲食店は、感度の高い渋谷の消費者を“リトマス試験紙”に、果たして全国制覇を成し遂げることができるのだろうか。

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