特集

都内初の若者専用ハローワーク誕生。
渋谷・若者雇用事情

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■痛みをともなう「失業・リストラ時代」の若者のワークスタイル

総務省が11月30日に発表した10月の完全失業率(季節調整値)は5.4%と前月より0.1ポイント上昇し、2カ月連続で過去最悪の記録を更新した。特に男性の完全失業率は運輸・通信業や製造業、建設業などのリストラ加速を受け、前月より0.4ポイント上昇し、過去最悪の5.8%となっている。完全失業者数は352万人と、前年同月比で7カ月連続の増加。このうち企業の倒産・解雇などによる非自発的失業者は114万人となり、45~54歳の男性を中心に増えた。今日の痛みをともなう「失業・リストラ時代」は、雇用を取り巻く状況が大きく変化する時代でもある。

就業者数は前年同月を103万人下回る6、405万人と、7カ月連続で減っている。100万人を上回る規模の就業者数の減少は、第一次石油危機の影響を被った1974年10月以来27 年ぶり。 大企業中心だった雇用調整の動きは中小・零細企業にも波及してきた。従業員29人以下の企業の雇用労働者数が5カ月ぶりに減少。従業員500人以上の企業では減少幅が拡大し続けている。

厚労省が同日発表した10月の求職者1人あたりの求人数を示す有効求人倍率(季節調整値)は0.55倍と前月比0.02ポイント低下した。有効求職者数(季節調整値)は前月比で4.4%増えたものの、有効求人(同)は前月比で0.6%減った。新規求職者1人あたりの新規求人数を示す新規求人倍率(同)は0.87倍と前月より0.13ポイント低下し、1年6カ月ぶりに1倍を割り込んだ。

それでは、若者の雇用事情はどのようになっているのだろうか。現在、特徴的な傾向のひとつに、正社員として就職せず、アルバイトやパートの仕事を繰り返す「フリーター」の急増が挙げられる。1997年時点で151万人もの「フリーター」が存在し、これは1982年の3倍。2001年現在では、さらに増加し200万人を超えると言われている。

今年、経済産業省経済産業政策局とリクルートワークス研究所が共同で行った「アルバイターの就労等に関する調査」によると、フリーターは過去に、正社員として定職に就いたことがある人(離職型)が4割強もいて、フリーターの平均経験年数は2.74年とのこと。フリーターの就労状況は、現在「アルバイト長期」の者が7割。「コンビニエンス・スーパー店員」「ホールスタッフ」「事務経理」が多く、平均収入は12.54万円(過去1ヶ月)。フリーターへのプロセスとしては、高校卒業者・中退者の3分の1が、卒業時点で「フリーター」になるという。正社員としてすぐに就職しなかった人(64.6%)の理由のトップは、「正社員としての仕事に就く気がなかった」。フリーターになった動機は「働く時間を自由に決められる」「自分に合う仕事を見つけるまで」「仕事以外にしたいことと(「趣味」6割、「資格取得」3割)がある」が上位3項目を占めている。

興味深いのは、フリーターの意識。フリーター生活の満足度をみると、満足している者が41.9%で、不満を感じている者(25.9%)を上回っている。しかし、今後の職業生活には不安があるようで、「将来はフリーターをやめて定職につきたい」者が67.5%と大半、「具体的な取り組みあり」の者が全体の23.4%を占めている。今後の就職時の職種や仕事内容についての具体的なイメージの有無をみると、具体的なイメージをもっている者が51.0%で、もっていない者(26.4%)を大きく上回り、フリーターの生活の今後の継続予定をみると、「できるだけ早めにやめたい」という者が半数、「2~3年位続けたい」という者が3割という結果となっている。

リクルートワークス研究所

一方、日本労働研究機構が昨年発表した「フリーターの意識と実態」では、フリーターを3つのタイプに分類し、さらに7つの類型を挙げている。

モラトリアム型
  1. 離学モラトリアム型(職業や将来に対する見通しを持たずに教育機関を中退・修了し、フリーターとなったタイプ)
  2. 離職モラトリアム型(離職時に当初の見通しがはっきりしないままフリーターとなったタイプ)
夢追求型
  1. 芸能志向型(バンドや演劇、俳優など芸能関係を志向してフリーターとなったタイプ)
  2. 職人・フリーランス志向型(ケーキ職人、バーテンダーなど自分の技能・技術で身を立てる職業を志向してフリーターとなったタイプ)
やむを得ず型
  1. 正規雇用志向型(正規雇用を志向しつつフリーターとなったタイプ、特定の職業に参入機会を待っていたタイプ、及び派遣を選 んだタイプ)
  2. 期間限定型(学費稼ぎのため、または次の入学時期や就職時期までといった期間限定の見通しを持ってフリーターとなったタイプ)
  3. プライベート・トラブル型(本人や家族の病気、事業の倒産、異性関係などのトラブルが契機となってフリーターとなったタイプ)

フリーターの多くは将来のキャリア形成を意識しているが、スキルアップのための具体的な取り組みは先送りとなっているケースが多い。企業が正社員をパート・アルバイトに代える要因は、賃金コストが安いことに尽きる。企業は固定しないアルバイトの能力開発に投資しないので、フリーターにとってスキルアップの機会は少ない。

日本労働研究機構
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■“そこそこ食べていける”時代が許容するフリーター生活

雇用は求人と求職により成立する。今年、経済産業省と リクルート ワークス研究所がまとめた「雇用のミスマッチの実態調査」によると、職種毎に求人・求職の「質」「量」的なミスマッチが存在していることがわかる。この調査では、求人が求職を上回っている人手不足の職種が60職種のうち27を占めている。特に技術・設計関連、IT関連をはじめとする高度な専門職・技術職や営業職では、量的にも質的にも人材が不足しているとされる。一方、企画職・管理職をはじめとするホワイトカラー系職種では、人材が過剰気味であるにもかかわらず、企業が必要とする実務経験や資格を個人が十分に持っていないことなどから、企業の採用が進まず、結果として「人材不足」の状態になっていると判断される。

アルバイト求人誌の最大手「リクルート フロム・エー」広報担当の斎藤さんによると、リストラを進める企業が中途採用や新卒採用を抑え、コスト削減のためアルバイトを採用する企業側のニーズを反映して「アルバイト求人件数は3年前と比べると、増えている」という。さらにアルバイトの賃金が下落していることについて斎藤さんは「企業としてコストを上げることはないが、仕事のできるアルバイターは店舗のマネジメントを任されるなどして、時給は上がっている。企業の求人ニーズは確実にあるし、正社員のようにモーレツに競争することなく、そこそこは食べていける今日、特定のフリーターにとって悪いことではない」としながらも、自己基準のないフリーターの増加には不安を覚えるという。「自分に軸がないフリーターは、スキルアップの努力をしないまま、その日暮らしとなる。正社員との給与の格差はさらに開いていくのでは」と分析する。

学生の就職難と定職に就かないフリーターの増加で、アルバイト市場の厚みが増していることも採用側に有利な要素といえる。一方で、アルバイトを正社員のように戦力化する企業も増えており、企業と求職者との上手なマッチングが行われるなら、アルバイトと言えども企業で十分活躍する場はあるといえる。

一方、昨年12月にフリーターやアルバイターが集まって結成された労働組合「首都圏青年ユニオン」委員長の名取さんは「パート、アルバイトの労働条件はすこぶる悪く、フリーターで歳を重ねることの不安も多い。フリーターのセイフティーネットとしてネットワークを築き、劣悪な雇用条件の改善や仕事に関する悩み相談の窓口として機能していきたい」と、結成の動機を語る。

名取さんはフリーターの抱えている問題を“若年失業問題”と捉え、「社会に出る前の学校教育でこういった問題があることをアナウンスする必要がある」と分析する。かつて社員が担っていた仕事をバイトでまかなっている企業は多く、社員と同じ仕事量をこなしていても、たとえば残業代が出なかったり、突然解雇されるなど、「企業から見れば、フリーターは使い捨て同然の労働力となっている。フリーター自身も多くのことを学び、社会的な発言権を持たなくてはいけない」と意欲を見せる。「首都圏青年ユニオン」は30代までなら誰でも一人でも加入できる。現在会員は約80人。平均年齢は27.8歳。

首都圏青年ユニオン

■都内初の若者専用ハローワーク、渋谷に誕生

仕事を見つける場所や方法は、おおよそ下記に分類できる。

  1. 大手求人情報誌
  2. 大手求人情報サイト
  3. 大手人材バンク・派遣会社への登録
  4. ハローワーク(職業安定所)

そのうちのひとつ、「ハローワーク」は厚生労働省が運営する公共職業安定所(職安)の愛称。全国に600ヶ所あり、地域の総合雇用サービス機関として、職業紹介や雇用保険の適用・給付など、すべてのサービスを無料で提供している。すっかり定着したこの「ハローワーク」という愛称は1988年12月から使用されており、一般公募4,161点の中から選ばれたものである。

渋谷の公共職業安定所は、11月12日にリニューアルした「ハローワーク渋谷」(神南合同庁舎)と旧「東京レディス・ハローワーク」改め、10月30日に新装オープンした「しぶやワークプラザ」(道玄坂)が設けられているが、11月28日、新たに30歳未満の若者向けに、職業相談、職業紹介、仕事に関する情報提供、カウンセリングを行う「ヤングハローワークしぶや・しごと館」(神南)がオープンした。「ヤングハローワークしぶや・しごと館」は、国内では大阪、神戸、神奈川に次ぐ4ヶ所目の開設で、都内では初めて。渋谷公共職業安定所企画調整部門統括職業指導官の可児(かに)さんは「若者で賑わう渋谷に開設して正解だった。オープン以来、連日賑わっている」と話す。渋谷が選ばれた背景には、先に開設している「ハローワーク渋谷」と「しぶやワークプラザ」があるため職員を融通させやすいとことや都内で最も多く若者が集まる街であることなどが挙げられるが、「ハローワークを利用したことのない若い方に気軽に来てもらうには、結果として効果的だった」(可児さん)とのこと。

ハローワーク渋谷

「ヤングハローワーク」開設のきっかけは、「151万人もいるフリーターの中にも安定した雇用、就職を望んでいる人が多い。完全失業率5.4%のうち24歳以下が9.7%も占めていることは、就職のできない若者にとっても、日本の社会にとっても決していいことではない。両方を解消するために、若者の就職をサポートする施設が必要だと考えた」(可児さん)。

「ヤングハローワークしぶや・しごと館」の特徴は、

  1. ゆったりしたブース(職業相談コーナー)で専任の担当者が相談、紹介を行う
  2. PCレッスン・インターネットコーナーでパソコンの実践演習やインターネットが使用できる
  3. 知りたい職業をわかりやすく紹介したビデオを閲覧できる
  4. ワークショップ・セミナールームの常設

などが挙げられる。可児さんは「就職に必要なスキルとしてパソコンが挙げられる。PCレッスンではビジネスソフトの実習ができるようになっている」と説明する。

また、若者の雇用について、可児さんは「選り好みしなければ若い層には職はあるし、企業の人材の需要もある。ただ、就職を希望する人のできることと、やりたいことの接点を見い出してあげたり、自分が何をしたいのかわからない人に考えるチャンスと時間を与えてあげるのも、ヤングハローワークの仕事」と語る。

ヤングハローワークしぶや・しごと館

終身雇用、年功序列、高校・大学卒業と同時に正社員就職といった旧来システムが崩れ、仕事を取り巻く環境は激変している。かつて「目標をかなえるための生活手段として、あえて定職に就かず、アルバイトをする人」をフリーターと捉えていたが、今日では「なんとなく」「なりたいものがなくて」フリーターになる若者が増えている。

景気の低迷を背景にデフレが進行する中、物価が下がり、そこそこの稼ぎがあれば生活ができるという時代性も、フリーター増加の大きな要因。ユニクロを着て、食事はコンビニや吉野屋、マックなどで済ませれば食費も1日1,000円はかからない。生活を切り詰めると言うよりは、むしろお金のかからない生活の術を自然と身に付けており、当面は結婚の意志も持ち合わせていない「パラサイトシングル(未婚の居候生活者)」にとっては、就職しなければならない動機が今ひとつ弱いのが現状なのかもしれない。

こうした意味で、若者を対象としたエンタテイメントが多数集積する渋谷の街に、若者専用の「ハローワーク」が開設された点は意義が大きい。ハローワークには、どことなく「中高年」のイメージがあって足が向かなかった若者も、普段遊んでいる渋谷でちょっと足を運べば専用のフロアで気軽に相談にのってくれる。まずは「自分に合った仕事を探してみよう」という行動を起こすための契機づくりとして「ヤングハローワーク」が機能することを期待したい。

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