特集

豊かな創造力で小資本の枠を超える
渋谷スモールビジネス事情

  •  

■リノベーション+発想力で、原宿にシネマカフェ出現

スモールビジネスには、既成概念を超える発想力が不可欠だ。2003年10月1日、神宮前6丁目のキャットストリート沿いの民家をリノベーションした期間限定のカフェ「コンシール・カフェ原宿」(TEL 03-3406-3243)がオープンした。同店は、すでに取り壊しが決まっている木造2階建ての一軒家2棟を使ったもので、延床面積は約165平米、席数は60席。さらに11月8日、同店2階にシネマカフェという新しい業態に挑む「シネマ・ピエス」(TEL 03-3407-3643)がオープンした。店名の「シネマ・ピエス」はフランス語で「映画館・部屋」を表す。店内にはソファーを中心とした客席30席と150インチのスクリーンを備え、軽食ドリンクの提供と共に映画の上映を行う。上映作品は、同店が選んだ単館系・過去作品や自主制作作品、日本未公開作品などで、平日は16時から3回、土・日・祝日は13:30からの4回上映を行っている。料金は1ドリンク付き税込み1,000円。

同店のリノベーションに際して施工・デザインを担当したのは、桜丘の「コンシール・カフェ」や恵比寿の「ロジェ・カフェ」など多くのリノベーション物件を手掛けるリノベーションプランニング。同社の杉山さんは「同店は約半年と限られた営業期間のため多くの資金は使えない。だからこそ思い切ったことができた」と振り返る。1階のカフェオープン後も徐々に家具類を買い揃え、まさに手作り感覚で店づくりを行ってきた。杉山さんがターゲットにしたのは原宿に来街する若い人ではなく、近所のアパレルショップや美容室などで働く、いわば地域の人。「こうした人に夜、家にいるような感じで過ごしてもらう空間を目指した」と話す。キャットストリートで異彩を放つ同店の営業は、当初の予定では今年3月で幕を閉じる。

コンシール・カフェ原宿

広域渋谷圏でのスモールショップのトレンドのひとつがリノベーション。民家などの駆体を活かしながら短期間で内装デザインを行い、初期投資を抑えるのが狙い。消費者にとっても、程良く馴染んだ木の感触と中古家具の空間のコラボレーションが新鮮に映り、結果として差別化に貢献するなど、店舗デザインの幅が広がっている証でもある。

コンシール・カフェ原宿 コンシール・カフェ原宿 コンシール・カフェ原宿

■レンタルボックスを定着させるまでの試行錯誤の日々

2002年11月、代官山・猿楽町のビルの地下1階にレンタルボックス「代官山ARK」(TEL 03-5728-4474)がオープンした。レンタルボックス業は広域渋谷圏に集積する業態のひとつで、利用者は箱を借りて売りたいものをディスプレイし、売れた代金の一部を店側に支払う委託販売の一形態。約12坪の店内には計110個のボックスが並び、手作りのアクセサリーやアート作品、Tシャツなどが個性豊かにディスプレイされている。ボックス1箱の大きさは幅35cm×奥行き35cm×高さ33cmで、上下に5段重ねられ、目線などの位置により月額8,000~10,500円の利用料金がかかる。同店の販売手数料は15%で、商品が売れた場合は表示価格の85%が収益になる仕組み。

オーナーの小出さんは、西麻布にあるレストランの「雇われ」店長からの転身組だ。「代官山で何か初めてみたかった」と考えていた小出さんは、ビルの地下1階に小さな物件が空くという情報を聞きつけ、この空間に合わせていろいろと業態を考えた結果「代官山の夜は少し寂しいので、昼間でも開ける業態を」と、辿り着いたのがレンタルボックス業だったと話す。小出さん自身は開業当時、他のレンタルボックス業の存在は全く知らなかった。不動産の保証金や内装費を合わせた当初の開業費用は約800万円。自身の預金と親元からの借り入れで賄った。

いざ開業したものの小出さんは「最初は苦しかった」と打ち明ける。ただ、来店客から「面白いねー」と言われた言葉を励みに続けるうちに、少しずつボックスが埋まり始めた。開業当初は近所でチラシなどをまきながらも反応が少なく試行錯誤していた」が、翌年2月、一部のメディアなどで取材されると、この月だけで23個のボックスが埋まった。これを機に、徐々にボックスの利用率が高まり、「もしかしたらこれはいけるかも・・・」と確信できたのは、オープンから半年経った翌年の4月頃だったと話す。店のホームページを立ち上げたのも2月頃で、「ホームページが無ければここまで伸びていなかった」とも話し、インターネットの存在が同店の知名度向上に大きく貢献していたことを物語っている。

一方、同店に出店する利用者もいわば「ボックス」という「マイクロショップ」のオーナー。自ら家賃を払い、それ以上の利益を出せるかどうかはディスプレイする商品(作品)にかかっている。当然、その「売れ行き」もボックスによって明暗が分かれる。売れ筋について小出さんは「土地柄、若い人が多いためアクセサリーの売れ行きはいいが、中でも『他の人と違う』もので『目に付くもの』が売れる。来店客は他の店では買えないものを探している」と話す。さらに、「売れる」ボックスのオーナーは、2週間に一度程度の頻度で同店を訪れ、商品の入れ替えやディスプレイなどに気を配るという。「マイクロショップ」と言えども、マーケティングと地道な努力が必要とされる点は変わらない。

代官山ARK
代官山ARK 代官山ARK 代官山ARK

■移動販売で挑戦!自ら考案のオリジナル商品を試す

広域渋谷圏で目立つスモールビジネスのひとつが、ワゴンなどの移動販売車を使った路上ビジネス。代官山駅前で人気の「モトヤエクスプレス」をはじめ、代官山界隈でも多くの移動販売ビジネスを見かける。

そんな代官山に、今年1月下旬から参入するのがスバルの軽ワゴン車を使った「ヴァジアーナ・セブン」(TEL 090-5559-2861)。オーナーの岩井さんは、スーパーに11年務めた後、3年前に脱サラ、その後、調理師専門学校や喫茶学院などで飲食業の勉強を重ね、実験的な意味も含めて2003年7月、車を使った移動販売に乗り出した。岩井さんは、初期投資を抑えるため、店舗となるワゴンを、専門業者からレンタルで調達した。このため初期投資は60万円で抑えられ、月額6万円のレンタル料を支払っている。

同店の主力商品は平井さんオリジナルの「ケチョッパン」(300円)。野菜を特製のケチャップソースで炒め、パンでサンドしたもので、平井さん自身が子供の頃に食べていた「懐かしい家庭の味」がヒントになったと話す。「どうせ始めるなら人と違うこと」にこだわる平井さん考案の「ケチョッパン」は、そのユニークなネーミングも好評で、出店先でも「前から名前が気になっていた」と言いながら、商品を買い求めるケースが少なくない。狭いキッチンスペースの制約もあり、「ホットベジタブルサンド」というカテゴリーで特徴付けを図るのが平井さんの狙いで、他にも、その場で作ったオムレツをはさんだ「オムッチョ」(300円)、7種類の野菜をはさんだ「チリサンド」」(320円)がある。ドリンクはおいしい紅茶にこだわり、「ダージリン」「アッサム」「アールグレイ」(各200円)を揃える。

開業後、亀戸や幕張などで営業を行ってきたが、今年は若者の多いエリアでも、その味を試してみるという。「人と違ったものにトライすると、定着するまでに時間がかかる」というのが、平井さんの実感。実際、他の場所で隣り合ったクレープ系の移動販売オーナーからも「定着するまで3年かかった」と言われた。ただ、徐々にではありながらもリピーターも獲得しており、「地道に取り組むことが重要」だと、基本姿勢を崩さない。最低3年を目標に移動販売を続け、その先は路面店開業を目標に掲げる。

平井さんの車を含め約40台の移動販売車をレンタルする「あいあんクック」(小平市)は、移動販売のビジネス教育や開業コンサルなども手掛ける会社。同社代表の武内さんは「以前、移動販売を始めるのは40代、50代が中心だったが、最近は年齢層が下がり20代、代、30代が増えてきた。また、業種も『小洒落た』ものが増えてきた」と、最近の傾向を明かす。ただ、一見簡単そうに見える移動販売も当然「向き」「不向き」があるため、早々に撤退するオーナーも少なくない。武内さんはさらに「移動販売は大きなビジネスへの訓練。移動販売で自分が独立してやっていけるか、やっていけないかを、早い段階で見極めることができるのはメリット」とも話す。

あいあんクック
ヴァジアーナ・セブン ヴァジアーナ・セブン ヴァジアーナ・セブン

■SHIBUYA109が好条件でテナント公募、人材発掘へ

資金力の乏しいアーリーステージのスモールビジネスにとって、様々なチャンスへの挑戦は欠かせない。今年開店25周年を迎えるSHIBUYA109は、新たな才能発掘に乗り出す。同店の管理・運営を手掛けるティー・エム・ディーは1月19日から、今春オープンする新しい物販スペース「109テイスティングスペース(仮称)」の出店者の公募を始めた。同スペースは7階に設けられ、1店舗当たり約4~10坪のスペースで5店舗分が用意される。募集業種は同店のターゲットイメージに合ったファッションウェア、雑貨で、原則として新規参入のみを対象とするもの。契約は1年で、敷金は1店舗あたり100万円、賃料は売り上げの20%、内装も同社側が負担するなど、通常出店の場合と比較して破格の好条件を用意し、「才能とやる気がある」次世代のファッションリーダーに門戸を開く。

同店テナント企画部の堤さんは「やる気のある人に自分から名乗り出る機会を提供し、新しい人材を発掘するのが最大の狙い」だと話す。応募締め切りは2月9日で、書類審査と面談により出店者を決定する。オープンは5月上旬を予定。また、同スペースで優秀な実績を残した出店者は同社と協議の上、契約期間満了後、同店へ正式出店することが可能になる。

ティー・エム・ディー(募集要項)

広域渋谷圏ではスモールビジネスが元気だ。代官山や原宿などに無数に存在する路面店の数々。視点を変えれば、こうした小さな「頑張り」が渋谷を支えているとも言える。「どうせ始めるなら人と違ったこと」へのこだわりを見せる、妥協無きスモールビジネスの世界は今、個性化を求める消費者ニーズと合致して、さらに進化を遂げようとしている。

109テイスティングスペース(仮称)