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今、セルフスタイルが新しい
渋谷で口火を切った「讃岐うどん」対決

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■うどんの多彩なバリエーション

地域性を打ち出したうどんには「名古屋うどん」「京風うどん」「讃岐うどん」など、すでにブランドが確立しているものがある。調理の仕方も「ゆでる」だけでなく、「あげる」「煮込む」「蒸す」「炒める」などこれまたバラエティーに富んでいる。温かいうどんと冷やしなど「温冷」のバリエーションがあり、さらにダシと麺の関係性に着目すれば「つけ麺」スタイル、「ぶっかけ」スタイル、「生醤油」スタイルなど多様な広がりを見せる。具に注目すれば「天ぷら」「きつね」「たぬき」「月見」など固有名詞になっているうどんの定番メニューほかにも、様々なトッピングが試みられており、以上の組み合わせを考えると、うどんのメニューは無限に広がる。これほどバリエーションが豊富な食べ物。日本人に親しまれていることの証でもある。近年では「うどん」の進化系とでもいうべき業態も登場している。うどんを "ヌードル" に見立てパスタやエスニック料理風にアレンジする一方、女性を取り込むべく野菜をふんだんに使ったヘルシーなうどんを開発するダイニングバーやカフェも登場している。

財団法人外食産業総合調査研究センター(外食総研)の統計によると、平成13年度の「うどん・そば」の市場規模はほぼ横ばい。外食産業の市場規模が4年連続前年実績を下回り、平成13年度にいたっては1.5%減少している状況を照らし合わせると、「うどん・そば」市場はいたって安定感が高いことがわかる。5年ごとに実施されている総務庁の「事業所・企業統計調査」(平成11年7月実施)によると、うどん・そば店は全国に34,526事業所数(店)。前回の調査(平成8年度)結果と比較すると470事業所数(店)の減少となっている。しかし、食堂・レストランや喫茶などと比較すると、ごく少数の減少であることがわかる。このデータは、うどん・そば店は倒産や廃業が少なく、同時に新規開店数も少なかったことを物語っている。

財団法人外食産業総合調査研究センター

■ブレイク寸前。「讃岐うどん」ブームの背景

今日、人気を集めている「うどん」を語る上で欠かせないのが「讃岐うどん」。「讃岐」はうどんマーケットのキーワードとも言われている。事実、香川県まで足を運び、何軒もの名店を食べ歩く「讃岐うどんツアー」が組まれるほど「讃岐うどん」がブームになっている。「讃岐うどん」とは香川県を代表する特産品。本場・香川県では「早い・旨い・安い」の元祖的存在として、和食ファーストフード感覚で親しまれている。県内には700軒以上のうどん店があるほか、スーパーや百貨店、土産物店などでは生うどんやゆでうどん、乾燥うどん、冷凍うどんなど様々なうどん製品が並んでいる。

それでは、最近の「讃岐うどんブーム」の引き金となったもの何か。その要因を以下の5つにまとめた。

(1)「讃岐うどん」関連本のヒット
2000年~2002年、「恐るべきさぬきうどん 麺地創造の巻」、「恐るべきさぬきうどん 麺地巡礼の巻」が大ヒット。地元の通しか知らない香川県のうどんの名店を隅から隅まで食べ歩き、「うまい讃岐うどんとは何か」を指南した同書は、「地元に住んでいても知らなかった店ばかり。ディープな情報に脱帽」(高松市の書店販売員)と言わしめた。当初、香川県でのみ売られていた本が2000年10月、「恐るべきさぬきうどん 麺地創造の巻」のタイトルで文庫本(麺通団著/新潮OH!文庫/600円)になって全国デビュー。さぬきうどんブームの火付け役となり、 "うどん巡礼者" のバイブルとなった。2001年3月に発売された続編「恐るべきさぬきうどん 麺地巡礼の巻」(麺通団著/新潮OH!文庫/790円)もヒット。この2冊を手にしたマニアが本場の讃岐うどんを求めて全国から巡礼。さらにその巡礼風景が話題を呼び、「畑の真ん中にある行列のつく店」「看板をあげない民家の前に長蛇の列」といった見出しでテレビや雑誌の取材が相次ぎ、全国ニュースとなった。

(2)外食ビジネスの新たな戦略
大手のハンバーガーチェーン、牛丼チェーンなどが低価格路線を打ち出し、熾烈な競争を繰り広げるファーストフード業界にあって、和の定番メニューである「うどん」はチェーン店化が遅れていた。「早い・旨い・安い」讃岐うどんは、まさに日本人に親しまれてきたファーストフード。新たな進出を企てる外食企業が1コイン(500円)の価格で、ある程度のボリュームと満足度が得られる「讃岐うどん」に注目したのは当然である。競合するのはデフレ対応の外食フードすべて。共通しているコンセプトは「安い・早い・旨い 和のファーストフード」。

(3)時間をかけて培ったブランド力
「讃岐うどん」には歴史がある。明治維新以降、生産に適した風土のもと農家の副業として地域に密着して広まる中、讃岐うどんの特性である麺のコシの強さが生まれ、地域ブランドとして定着していく。ブランド化のための必須条件である "独自性" を打ち出し、並行して大量生産できる製麺機の開発、うどん店、製麺メーカーが品質の確保と改良の努力を続け、優位性を高めていく。太平洋戦争時の食糧危機には「讃岐うどん」は全国へ広がっていく。さらに香川県が「讃岐うどん」の銘柄に統一し、全国へ発信。全国製麺公正取引協議会の表示に関する基準で「讃岐うどん」が定義されることになる。全国ブランドとなることでマスコミに話題を提供し、相乗効果をもたらした。

(4)「ご当地もの」のブームの定着
ラーメンに例を挙げるなら「札幌ラーメン」「博多ラーメン」「喜多方ラーメン」「和歌山ラーメン」など、地名を冠したラーメンの躍進は周知のごとくである。讃岐うどんもまた「ご当地もの」が好きな日本人にはすんなりと受け入れられた。「青森のりんご」、「鳥取の梨」「京都の京野菜」と同じ文脈で語るなら、まさに「ブランディングの確立」である。背景には地方自治体の保護・育成や「町おこしブーム」があるが、「ご当地もの=安心のブランド」という神話はいまだ健在である。

(5)食の本物志向
「クオリティーの高い美味しいものを適正価格で食したい」という消費者のニーズはもはや当たり前。本物志向を極めると、産地に出向くか、取り寄せになる。讃岐うどんは品質管理が難しいうえ、香川県~東京間の流通の整備もあり、都内ではごく数軒しか専門店がなく、必然的に讃岐うどん "飢餓状態" が蔓延していた。

恐るべきさぬきうどん

■「讃岐うどん」プチ巡礼地化?する渋谷周辺

1972年、渋谷警察署の裏手に開業した「高松」は、渋谷エリアで最も歴史のある専門店。藤村さん夫婦はともに高松市出身で「3食に1食はうどんを食べていた」環境で育ったという。藤村さんは讃岐うどんのブランド力の背景にあるのは気候条件が影響しているという。「香川県は雨が少ない土地。それで貯水用の池が多く設けられている。一方、瀬戸内海を利用した良質の塩田も多くある。小麦と塩と貯水用の貴重な水を利用して、コシのある讃岐うどんが生まれた。讃岐うどんの特性は、この塩加減とダシに尽きる」と説明する。昨今のブームについては「セルフサービスの店がブームの立役者」と分析。実は藤村さんはかつてセルフの店を企画したことがあったという。しかし、当時は流通システムが完備されてなく、大量生産した麺の品質を保つオペレーションも思うようにいかず断念したという。「セルフ形式の店が東京にオープンするということは、おそらく麺の品質管理ができる体制が整ったのだろう」と、やや距離を置いてチェーン店の進出を観察している。

高松 TEL: 03-3406-0865
高松 高松

夜は居酒屋として利用できるのが、炙り焼きと讃岐うどんの店「でですけ恵比寿」(恵比寿)。「お酒の飲めるうどん屋をコンセプトに二毛作を行っている」と、店長の玉代勢さんは説明する。麺は自家製、粉は香川県から取り寄せをしている。「現在は数年前に、讃岐うどんブームが来る、と言われてからずっとくすぶり続けている状態。いつブレイクしてもおかしくない。『恐るべきさぬきうどん』が全国発売され、マニアが好むマーケットが現れ、地元で讃岐うどんが流行っているという状態でもある。マニアの間では『では、東京ならどこへ行けばおいしい讃岐うどんが食べられるの?』という方向に向かっている」と、ここ数年の展開を俯瞰して語る。玉代勢さんによれば、5年前に東京の人の味覚に合わせた讃岐うどんが上陸。マニアの間でささやかなブームが起こったという。しかし、その後、「讃岐うどんツアー」に参加するなど本場の味を知ったマニアが増え「本場の讃岐は数段旨い。東京で食べていたものは何だったんだ」という気運が高まり、「もう本物を持ってくるしかない状況になっていた」。そして「くすぶり続けていた東京での讃岐うどん文化にやっと企業が触手を伸ばし始めた」とまとめる。

香川県では先行して讃岐うどん自体が多様性を帯び、製麺所がサービスで行ううどん店とセルフ・スタイルのうどん店が登場する。「讃岐うどんは安定した品質を保つためにレシピ化するなど、どんどん進化している」と、玉代勢さんは語り、自分の店に反映させるべく策を練る。「うどんプラスアルファ」という新たな業態を展開する「でですけ」は讃岐うどんを導入したパイオニア的存在として冷静に市場を分析し、「セルフ・スタイルの店のオープンで、マーケットが広がることはありがたい。讃岐うどんを出す店同士は競合とならず、他のファーストフードが打撃を受けるのではないか」とファーストフード業界を俯瞰して分析する。同店では生醤油うどん(500円)、なめこおろしうどん(850円)が人気。一人前はかなりのボリュームがあるので150円引きのハーフサイズを揃えている。「100円のうどんが登場する今日、うどんを850円で提供し、納得してもらうにはサービスや雰囲気を含めた付加価値をつけなくてはいけない。その戦略は整っている」と、今後の展開に自信を見せる。

でですけ
でですけ恵比寿 でですけ恵比寿 でですけ恵比寿

讃岐うどん好きのオーナー内田さんが裏原宿の絶好の場所に構えていたアパレル小売店を閉め、讃岐うどん専門店「きまい家(や)」を開店したのが2000年4月。「果たして原宿に集まる若者に讃岐うどんが受け入れられるのだろうか」という心配は開業早々、杞憂に終わった。「洋服と異なり、通行人すべてが客。安くて旨くてヘルシーなうどんを提供したことで支持を得た」と当時を振り返る。現在、裏原宿の近隣ショップや美容院で働く10~20代の若者を中心に客足は途絶えることがない。実は「きまい家」は当初、FCチェーンでスタートしたのだが、オープン直前に本部が消滅。それまで香川県から直送されていた麺に不満を感じていた内田さんは、その機会に自家製麺を使用することを決断した。「麺は湿度、温度、塩分など輸送中に味が変わる。麺の重さで麺がつぶれることもある。小麦は生き物だと実感した」と振り返る。2001年11月より無添加の自家製麺を導入。粉は香川から直送。「毎日異なる温度や湿度によって加水率を調整し、讃岐うどんの特徴であるコシを出すためにこね方や寝かせる時間など研究を重ねた」(内田さん)という。

内田さんは昨今の讃岐うどんブームを分析して「寿司店で起こった現象がうどん店にも当てはまる。寿司の場合は高級寿司店と回転寿司のどちらかに分かれたが、うどん店は(1)高級志向 (2)居酒屋・和食店への移行、あるいは居酒屋・和食店がうどんも供する店に移行 (3)セルフ形式 に明確に分かれていくだろう」とまとめる。内田さん自身は「うどんはファーストフード」と定義付け「どんなに丁寧に時間をかけて作っても、消費者にとっては "早い・安い・旨い" の3つで十分。待たずに食べられる手軽さと低料金。しかし、味は妥協しない」と、原宿で若い消費者に支持されたコンセプトに手ごたえを感じている。本場のセルフ・スタイル店の開業には「さらに讃岐うどんファンが増え、裾野が広がるので喜ばしい」と歓迎する。残暑が厳しい現在は、ごまだれうどん(410円)が人気の品。かけうどん350円、わかめうどん380円、月見うどん400円ほか。キャットストリートの「京うどん嵐山」は同店の姉妹店。

きまい家 TEL: 03-5410-0336
きまい家(や) きまい家(や) きまい家(や)

カフェで変り種のヘルシーなうどんを提供しているのが「ili.co(イリコ)」(桜ヶ丘)。スタイルは完全なカフェだが、メインメニューはうどん。店頭の自立式看板には店名のロゴのすぐ下にローマ字で「SANUKI UDON」と記してある。同店は独創的で繊細、アイデアあふれるヘルシーなうどんを提供し、女性の支持を得ている。店名は瀬戸内海特産の小魚で、独特の香りを発し、ダシに用いられることが多い「イリコ」から命名。同店は「カフェはどんどん増えているが、カフェごはんはどこでも似たようなものばかりだったので、ぜんぜん違うものを出したいと考え、うどんに目をつけた」(スタッフの滝本さん)と、メニューでの差別化を実施。もともと女性スタッフ全員がうどんの大ファンで、「メジャーなうどんといえば讃岐うどん。実際に何度か香川に出向き、食べてみたら、本当においしかった」と、ファンの目も活きている。麺は香川の製麺所から直送。「カフェで出す以上は見栄えも必要」(滝本さん)と、メニュー開発に取り組み、「プラス野菜もモリモリ、というヘルシー感を重視」した数々のヒット作が登場する。

同店の特徴は女性一人でも気軽に入れることと、リピーターが多いこと。「うどん専門店は女性一人では入りにくいが、 "カフェでうどん" なら、まったく抵抗はない。しかも、普通のうどんでなく、変り種というところがポイント。見た目はもちろんおいしそう。でも、食べると想像とは異なる新たな味の発見がある。そういったインパクトも大切」と、女性の心理を把握したメニューが揃っている。人気メニューは、ピエ辛サラダ(750円)、シソベーゼトマト添え(750円)など多数。ネーミングも凝っており、これらはすべてうどんのメニューである。「うどんの進化系」のひとつで、工夫を凝らした創作料理のひとつでもある。滝本さんは最後に「店を始めてから毎日うどんを作るようになり、さらにうどんが大好きになった」と「麺食い」ぶりを笑顔で語った。

ili.co TEL: 03-5784-3797
ili.co(イリコ) ili.co(イリコ)

8月6日(火)、広尾の明治通り沿い、恵比寿橋交差点そばにオープンしたのがユニークな店名の「マルガメ製麺所恵比寿本店」(広尾)。夕方6時に開店し、翌3時まで営業する深夜営業型の讃岐うどん専門店である。営業していない昼間通りかかると、看板を見て本当の製麺所と勘違いするかもしれないが、夕方になり提灯とのれんが出れば、木を基調とした外観のデザイン、照明を落とした店内のインテリアは和食ダイニングを彷彿とさせる造りである。社長の市野川さんは「香川には製麺所の中や、製麺所の隣に建てたプレハブ小屋などでうどんを提供する店がある。屋号がなくて、そのまま製麺所の名前を掲げている。そのスタイルが気に入り、ゆくゆくは店で製麺もスタートする予定で命名した」と話す。粉は香川から取り寄せ、麺は店で打っている。特徴は徹底した麺へのこだわり。「讃岐うどんはコシが決め手だが、硬くなり過ぎないよう細心の注意を払っている。冷うどんは氷で麺を締めるような、いたずらに麺のコシを演出するようなことはしていない。もちもちシコシコした麺を味わってほしい」(市野川)。

昨今の讃岐うどんブームを市野川さんは、やや厳しい目で見ている。「香川では低料金でポンポンとうどんを出している。それは本場だからできること。東京の店で讃岐うどんに慣れていない者がマネをしても仕事が粗くなり、クオリティーを保つのが難しい。ましてやセルフともなると、クオリティーは求められない」。本場の讃岐うどんを和のファーストフードとして捉えると、「他のどのファーストフードと比べても数段レベルが高い。それは本場には長い歴史があり、ごく当たり前のように昔からやっていることだから。東京では讃岐うどんの看板だけという店が多い」と、本場の味を知り尽くしているだけに、こちらも辛口。一方、同店のユニークさは店名や外観だけでなく、随所にあらわれている。カウンターにはネタケースを設置。ゆっくり味わってもらうために、天麩羅など一品料理、おでん、ごはんも充実。「冷」では生醤油750円、ざる750円、ぶっかけ750円ほか、「温」では釜あげ750円、ぶっかけ750円など揃っている。

マルガメ製麺所恵比寿本店 TEL: 03-5475-6021
マルガメ製麺所恵比寿本店 マルガメ製麺所恵比寿本店

■渋谷で勃発「セルフスタイル讃岐うどん」対決

話題になっている「セルフスタイル」の讃岐うどん店。東京では馴染みのない「セルフ式スタイル」を簡単に紹介すると、(1)麺の選択 (2)サイズの選択(3)「温かい・冷たい」の選択 (4)トッピングの選択 という流れになる。(1)ではうどんの種類を選択、次にサイズ(小・中・大)を選ぶ。「かけ」「しょうゆ」「釜上げ」など店におうじたネーミングの麺が種類あり、この中から好みのものを選ぶ。オーダーしたうどんを受け取ったら、無料のあげ玉、かつおぶし、ゴマ、しょうがなど、店が用意しているものを好みの量だけ入れ、次に(4)トッピング(有料)の棚へ移動する。

8月25日(日)、恵比寿駅東口改札内にオープンしたのが「さぬきうどんNRE&めりけんや」。上記のスタイルを実践する本格派である。JR東日本と同社のグループ企業である「日本レストランエンタプライズ(NRE)」(本社/港区)が、JR四国とそのグループ企業である「めりけんや」(本社/香川県)との業務提携を行い、恵比寿駅に第1号店を開店。JR東日本グループの駅構内における店舗展開ノウハウをベースに、讃岐うどんに関する商品・運営ノウハウ、麺などの食材はJR四国グループが担うことで、駅構内で本場の「讃岐うどん」の提供が実現したのである。

NRE営業本部広報担当部長の菊地さんは「JR東日本はグループ企業とともに21世紀の駅づくりを目指し、 "ステーションルネッサンス" に取り組んでいる。そこで見渡したところ、JR東日本には讃岐うどんのブランドが一つもないことに気づき、香川県のJR四国のグループ会社と提携した」と、業態開発に挑んだ背景を説明する。1号店の出店場所に恵比寿駅が選ばれたのは「若者と女性客が多い」という理由からだ。業務提携が締結されたのは今年の5月。同社はうどん専門スタンド「味彩(あじさい)」でうどん販売のノウハウはあるが、「讃岐うどんはまったく異なるもので、ゼロからのスタートだった」(菊地さん)という。8月には「めりけんや」の熟練スタッフが上京、オペレーションと製造の研修がスタートした。開店当初は「セルフ方式に慣れていない東京の利用者はシステムに戸惑うのではないか」「本当に5分以内で調理が完了するか」「セルフで5分以上待たせると悪評となる」と、作り手の熟練度と消費者のシステム順応度、双方のアングルから危惧を抱いていたが、予想以上にスムーズに流れているという。かけうどん小190円、並290、大390円、ぶっかけうどん並390円、大490円。主なトッピングにはえび(200円)、茄子(100円)、ちくわ(120円)など、讃岐うどんの定番トッピングメニューが揃っている。サイズとしては並が多く、トッピングをして平均単価は約500円で推移。NREでは月商800~1,000万円を目指している。2号店は上野駅に10月末開業の予定。

日本レストランエンタプライズ
さぬきうどんNRE&めりけんや

9月6日(金)、公園通りに本場・香川県の「讃岐うどん」チェーン店の首都圏第1号店「まんまるはなまるうどん東京渋谷公園通り店」がオープンした。同店を経営する「はなまる」は香川県高松市に本社を構える企業で、現在、日本一の "激戦区" であるお膝元の高松市内に4店舗と岡山県、兵庫県ほかで多店舗展開を行い、年内には全国40店舗を目標に掲げている。同社が目指すのは「和のファーストフード店」。基本のうどん14種類にトッピング。「かけ」が1玉100円という低価格。高松で主流の「セルフ・スタイル」を採用し、各店舗の平均売上は年商約1億円、1日の平均来客数が約600人(最大で1,200人)を築いている。各店舗の平均単価450円。

同社店舗開発担当リーダーの武重さんは「食の本物志向が追い風になっている。外食産業ではフォーマルな店は敬遠される傾向にあり、カジュアルさが必要。渋谷にも讃岐うどんの店はあるが、多くの人が物足りなさを感じていると思う。本場・香川に食べに行った方は『東京で食べる讃岐うどんとぜんぜん違う。これが本場の味か』という実感を持ったはず。しかし、当社は『旨い・早い・安い』だけでなく、プラス明るくてきれいな店づくりを目指して出店している」と、意気込みを語る。高松の事情に詳しい武重さんは、かつて讃岐うどんといえば家族経営の店が多く、店内に家族の写真やトロフィーが飾られるなど、「店内も汚れており、サービス業を営んでいるという感覚はまったくなかった」という。そういった状況にあったので、明るくて清潔感にあふれるセルフ形式の店が登場し、またたく間に席捲したのである。現在では高松市内でも6~7割がセルフ形式の店になっているという。

「子供も大人も気軽に入ることができ、既存店のように嫌いな具が入っているということがなく、しかも安価。本物志向に合致しつつ、かつカジュアルというセルフスタイルのバランスが上手に取れていたので大ヒットした」(武重さん)。「はなまるうどん」は既存のうどん店と異なり明るく清潔な店づくりを進めている。東京に進出するにあたって公園通りが選ばれた理由も「サラリーマンの多い新橋や神田でなく、若者にとっての入りやすい店づくりを意図し、若者が集まる渋谷を選んだ」とマーケティングも万全。「ファーストフード業界は値引き競争と競合店の乱立で厳しい状態。そこで、和のうどんを提案し、風穴をあけたい。逸早くセルフ形式のうどん店を定着させたい」と、意欲を見せる。トッピングは小えび入りかき揚げ(120円)やなすび(90円)、ごぼう(90円)など全部で12~17種類。オープニングでは無料券7万枚を渋谷で配布。「100円だから、『安かろう、まずかろう』と思われると逆効果。まず食べていただき、価値観を一新してもらうために無料券配布を試みた」と、武重さんは関東1号店を浸透させるためにまさに汗をかいている最中である。

はなまるうどん

ラーメン、うどん、そばと、日本人は麺類をこよなく愛する国民である。しかし、うどん店の数は10年近く、まったく増減なく、横ばいで進んできた。換言するなら、ファーストフード店やコンビニに飲み込まれることない、すこぶる安定した業界であった。その業界に今、異変が起こっている。セルフスタイルの讃岐うどん店の進出である。経営母体は麺の製造を特定工場の一括生産に委ね、クォリティの高い素材を恒久的に確保・供給し、生麺の輸送など流通機構の整備と品質管理を徹底する。レシピのマニュアル化と接客マニュアルを整え、オペレーションが完成すれば、チェーン店はさらに急増する。生産ラインや流通ラインの拡充のためにも、他店舗化は必須条件となる。外食業界はもとより、チェーン店オペーレーションのノウハウを豊富に持つ異業種のFCチェーン本部、製麺メーカーや製粉メーカー、商社など大手各社が業界に参入し、一気に「セルフスタイルうどん」のマーケットが膨張する気運さえ感じられる。

空前の讃岐うどんブームを見越し、複数の企業が開業準備を進めている。高松市に本社を置き、大証2部上場の中古本販売「フォー・ユー」も、讃岐うどん店「さぬき小町うどん」の全国チェーン展開に乗り出し、来春には東京にも進出する予定。店舗展開はFC加盟店募集や店舗開発を手がける同社の子会社「ティー・プロジェクト」を中核に置き、店舗運営子会社を活用しながら直営とFC形式の二形態で推進。一方、ファーストフード店の経営のノウハウを豊富に持つ「フレッシュネスバーガー」(本社:渋谷)は、すでにうどん専門店「きつね屋」(中目黒)を出店し、うどん店のリメイク業態を開発している。同店のコンセプトもヘルシーな「和のファーストフード」であることは間違いない。

フォー・ユー

讃岐うどん専門店やセルフ形式の店が神田や新橋でなく、渋谷、原宿、恵比寿に登場する理由は明快。新たな業態を全国に普及することを目標に、開業した店が話題性を高め、短期間に知名度を勝ち取るにはやはり渋谷という舞台が必要になる。「安い・早い・旨い」しかも「明るくて清潔な店」に敏感な若者が、次世代の「讃岐うどん」ブームを牽引するのだろうか。本場の職人が香川で供する讃岐うどんやその佇まいを完全にコピーすることはできないが、讃岐うどんは今後、渋谷でそのブランド力をさらに高め、洗練された独自のフードスタイルとして完成され、全国への浸透が図られようとしている。本物だけが持つ微妙な味わいがファンを魅了する讃岐うどんだけに、全国展開の前哨戦ともなる渋谷進出には各社とも力が入る。

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