
渋谷区は7月1日、条例の一部を改正し、公道を走る小型カート(公道カート)事業者に対して届け出の提出を義務化する。
渋谷駅前スクランブル交差点などの観光地をカートで回る公道カートは、渋谷区のほかにも沖縄や浅草、横浜などのエリアで営業。区内では10年ほど前から、キャラクターのコスチュームを着てカートを運行する様子が見られるようになった。区内の利用者は外国人観光客が「圧倒的に」多く、訪日外国人客数が特に増えているコロナ禍以降、「カートの運行も増えている」と言う。
条例の改正は2023年に笹塚エリアに事業所が開設されたことが契機となった。それまで事業所は大通り沿いや商業エリアにあり、走行中の危険性などに関する問い合わせはあったものの、笹塚エリアは住宅地。2023年にはエンジン音などの騒音(31件)や排気ガスなどの悪臭(22件)を中心に77件の苦情があった。事業者は警察と共に騒音レベルなどを調査し住民とも対話した結果、昨年区内の別のエリアに事業所を移転。苦情件数は減ったが、昨年は23件が寄せられたという。
区の調査によると、月に4,000万円以上売り上げている区外の事業者もあることから、今後も増えていく可能性があり、運転マナー軽視による事故発生や、騒音・臭気による生活環境への影響、周辺住民の不安や不調和なども危惧。カートは車検不要の車両で、保安基準に適合していない車両運用で事故につながる危険性も課題として挙げ、条例改正で対応を図る。
改正するのは「渋谷区安全・安心でやさしいまちづくり条例」。同日以降、区内に新たに事業所を構える事業者には、開所30日前までに、事業所名や所在地、営業時間などを記した「事業所開設届」の届け出を義務づける。走行ルート図やナンバーに加え、利用者には日本国内で有効な運転免許書・国際運転免許証の提示、車両保険加入、苦情や意見を受け付ける窓口の設置と適切な対応などを遵守する誓約書の提出を求める。開所前には、事業所の敷地境界線から半径50メートルの範囲の住民に対する説明会(個別含む)の実施と、実施報告書の提出などを義務づけ、地域との「共存」を目指す。
現在、区内では4社・計6カ所の事業所があり、既存事業者全社に対して5月末に説明会を開き、説明。7月1日以降に、新規事業者に求めるものと同様の事業内容の提出を求める。
区民らが確認できるように、各社の事業内容などは区のホームページで公開。事業者協力に応じない事業者も、ホームページで公表し、旅行会社にも報告するなどして対応していく予定。
長谷部区長は「(区民の理解が得られなくても)強引に営業しようと思えばできるが、反対の声があればしっかり聞くように指導し続ける。地域との共存ができなければやめてほしいということがこの街の願い」と、今回の条例改正について説明。「意識啓発条例に近いとはいえ、一定の効果があると思っている」と期待を込める。同時並行で、都や国にも状況を伝えていくと言う。
道路運送法に基づく許可が必要となるバスやタクシーに対し、公道カートには法的な許可が求められておらず、長谷部区長は「根本的に解決するにはどう対応するかという議論は大事だと思う。『考えてほしい』とアピールしていきたい」とも話した。