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渋谷区内の公衆トイレ17カ所改修完了で譲渡式 「満足度」2倍に

(左から)長谷部健渋谷区長と日本財団笹川順平常務理事

(左から)長谷部健渋谷区長と日本財団笹川順平常務理事

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 著名な建築家らが渋谷区内の公衆トイレをリデザインし、全17カ所が整備された「THE TOKYO TOILET」の区への譲渡式が6月23日、渋谷区役所で行われた。

発案者で資金提供者の柳井康治さん

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 「暗い」「汚い」「怖い」などのイメージから入りづらい状況がある公衆トイレを、デザイン・クリエーティブの力を活用し「誰もが快適に使用できる」ようにすることを目的とした同プロジェクト。トイレは障がいの有無、老若男女問わず「誰もが関わること」というファーストリテイリング取締役・柳井康治さんの発想から始まった。相談を受けた日本財団が、ソーシャルイノベーションに関する包括連携協定を締結していることもあり、渋谷区を舞台に実施した。

 プロジェクトでは区内に82カ所ある公衆トイレの中から年次が古いものや状況を判断して17カ所で取り組んだ。トイレをデザインしたクリエーターは安藤忠雄さんや隈研吾さんなど16人。2018(平成30)年に始動し、2020年8月に着工。今年3月に全カ所の改修を終えた。

 事前調査では公園以外の公衆トイレでは特に女性の利用率が低かったが、完成後に一部のトイレで行った調査では女性の利用者数が増えたほか、「使用後の満足度」が約2倍に増えるなど一定の成果を得ているという。一方でゴミの放置や落書きなどの迷惑行為もありその度に対処している。日本財団の笹川順平常務理事は「きれいに保つことが挑戦。区長や皆さんに頑張ってほしい」と期待を込めた。現在は1日に2~3回清掃するなどしているが、回数などに関しても各所の状況を見ながら判断していく。柳井さんは「帰結した感じが自分の中にない。もう少しコミットメントして関わっていきたい」と、清掃などの面で金銭のサポートを続けていく考えで、期間や金額など詳細は今後決めていく。

 昨年度までは日本財団の資金で行っていた維持管理が本年度から渋谷区に移行しているが、工期が遅れた5カ所に関しては本年度まで日本財団が資金提供やサポートを続ける。

 17カ所中6カ所に女性専用トイレがなく、区にはさまざまな意見が寄せられた。「(区として)女性専用トイレを無くす方針はない」と強調した長谷部健区長は、「(男性用・女性用・誰でもトイレが)全部そろっているのが一番良いが、土地も限られていて、ベビーカーやオストメイトの方など誰でもトイレしか使えない方もいる。最大公約数的に1つ作るなら誰でもトイレ」と言い、隣接する幡ヶ谷第三公園や対面の笹塚区民施設に女性専用トイレがある幡ヶ谷公衆トイレ(渋谷区幡ヶ谷3)を例に、「その地域のいろいろな状況を勘案した」と話した。防犯対策としては、防犯カメラの設置や見回り、「きれいにし続けること」などを挙げ「できることは引き続き追求したい」と触れた。

 同プロジェクトを通して、清掃の重要性や過酷さを感じたことから「そういうところがもっと世の中に正しく伝わっていくことって何か」(柳井さん)と考えたなか「アート」に行き着き、映画の製作企画も立ち上がった。柳井さんと、柳井さんから相談を受けたクリエーティブディレクターの高崎卓馬さんが好きなヴィム・ヴェンダースさんに監督をオファー。同時に「説得力を持って伝わっていく役者」(柳井さん)と考え、俳優・役所広司さんに主役の清掃員役を依頼した。

 両者が参加し製作された映画「Perfect Days」(日本公開日未定)はカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、役所さんは同映画祭で男優賞を受賞するなどした。柳井さんは「伝えたかった(清掃やメンテナンスが)大切で尊いということが、賞というかたちでご評価いただけたことがうれしい。いろいろな方に見ていただく機会をつくって、同じように感じてもらえたら」と喜びを表現。長谷部区長は「渋谷区内中が写る映画なので、シティープライドが増えていく映画だと思う。トイレについて皆でもっと考えていこうという機運、そして公共の皆のものをきれいに使っていこうという機運を高めていきたい」とも。

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