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「恵比寿なのに新橋みたい」―連日盛況の新飲食空間
13店が相乗効果を生む「恵比寿横丁」全ガイド

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イメージは昔ながらの「喰いもの屋街」−「仲良し」経営で店同士の出前も!?

 同横丁がオープンしたのは今年5月30日。戦後間もなく開かれたバラック市場を前身とする個人共同スーパー(公設市場)「山下ショッピングセンター」跡を、飲食店コンサルティング事業などを手がけるTRNグループ(本社=渋谷区渋谷3)が一括で借り受けるかたちで開業した。入り口には大きなちょうちん、色とりどりのネオンがともる看板には出店する全13店舗の名前が並び、仕事帰りのOLやビジネスマンの興味を誘う。

 「今日で来たのは3回目。おしゃれな街のイメージがある恵比寿とのギャップも気に入っている」と話すのは、会社の同僚4人組で飲みに来た都内在住・33歳の男性会社員。すでに何度かこの場所に訪れているリピーターが口をそろえるのが、横丁を指す「気をつかわない」「親しみやすい」などの「庶民的」魅力だ。

 出店する店舗の業態は全13業態で、どれも「かぶらない」のも特徴。1店舗あたりの広さは約3~4坪と小規模な屋台風店舗が仕切りなく連なり、各店の活気が相乗効果を生む。2年前から横町の構想を温めてきたというプロデューサーの浜倉好宜さんは「横町全体を1店舗ととらえたら、一つひとつの店が個性の異なる『メニュー』のようなイメージ」と全体像を語る。

 浜倉さんは今回、グルメ雑誌の発行などを手がけるジェイオフィス東京(中央区)の飲食店支援事業部「ネオサポート」の社員として横町の企画・コンセプト立案からテナントリーシングまで、立ち上げにかかわる全般を手がけた。浜倉さん自身も13店舗のうちの1店舗、浜焼き酒場「魚○(うおまる)」を出店している。

 相次ぐ店の閉店で「シャッター通り」化していた山下ショッピングセンターに目を付けた浜倉さんを中心に「横町」構想が持ち上がってから約1年、組合や地権問題などが解決し、プロジェクトが本格始動したのが「ちょうど1年ぐらい前のこと」(浜倉さん)。「うわべだけの面白さじゃ恵比寿周辺の客の心はつかめない」と考えていた浜倉さんは、徹底して「思い入れ、意志のある店」のリーシングにこだわった。

 10年以上前から外食業に携わってきた人脈やネットワークを生かして声をかけ、噂を聞き付けたオーナー候補と話をするなどして出店が決まった店舗は、独立開業1号店となる新業態がほとんど。店同士の仲も良く、要望があれば別の店への「出前」も受け付けるなど、出店店舗が一体となって横町を活気付けている。

キーワードは「やる気」−個性派店主ぞろい、「恵比寿横丁」おすすめガイド

【京風おでん「でんらく」】 京食材がウリ、料理長経験者が開く新業態

 和食店などの外食事業を手がける円らく(武蔵野市)が開いた新業態店、京風おでん「でんらく」は、大通り側のエントランス付近に店を構えることもあり、連日客足が途絶えない人気店の一つ。これまで一軒家の古民家を改装した店舗で炭火焼きをメーンに提供する「円らく」を基幹業態に展開してきた同社が新規オープンした同店で店主を務めるのは、全店舗の総料理長でもある三浦元裕さん。プロデューサーの浜倉さんから出店の誘いを受け、出店を決めた。

 出店に際し三浦さんは、フカヒレ料理専門店や和の食材を使ったイタリアンなど5つほどの飲食店をプレゼンテーション。その中の一つが「京風おでん」だった。15歳から料理の道を歩む三浦さんは、これまでにフランス料理や中華料理などさまざまな分野で経験を積み、幅広い料理を学んできた。京風おでんは、以前務めていた西麻布の老舗おでん店での経験を生かした店だという。約4坪の店内にはカウンター15席が並ぶ。

 だしは京都のかつお節を使い、さまざまな濃淡を試した結果、最終的に「幅広い年齢層に受け入れられる」(三浦さん)薄味に決めた。京水菜、京都のトマト、京芋など京都の食材を中心に、「大根」(126円)、「おもち巾着」(262円)、「牛すじ串」(105円)などスタンダードなメニューを約20種類そろえる。日替わりで「今夜のおばんざい(総菜)」メニューも。アルコールは、ビール(367円~)、チューハイ(315円~)、焼酎(グラス・504円~)など約30種類で、日本酒は商品名からセレクトしたという「開運」(472円~)のみを扱う。客単価は2,000円。

 オープン後、店を訪れる客層は20代後半~50代の男女と幅広く、「『ちょっと一杯』という客が多い。自社のほかの店に比べて客の回転が早いのも特徴」(三浦さん)という。三浦さんは「飲みに来るだけではなく、床や天井を上手く再生した横丁を見に来るだけでも楽しいのでは」と話す。

【お好み焼き「うめ月」】 オリジナルはちりめん山椒入りお好み焼き

 5坪ほどの店内に設けられた鉄板焼きカウンター。お好み焼き「うめ月」の店長を務める梅月智さんは、10代のころから飲食店で働き始め、14年間飲食事業に携わってきた若手店主。5年前に上京後、中目黒や恵比寿周辺の街の雰囲気が気に入り、自身の店を出すため物件を探していた。そうした中、「今年に入り知人から恵比寿横町の話を聞き、プロデューサーの浜倉さんと会った。横町に鉄板焼きの業態がないということで話を持ちかけられた」(梅月さん)。

 「横丁に出店してほしい業態であれば、こちら側から業態案を持ちかけることもあった」(浜倉さん)というように、「メニュー選び」の要領で個性の異なる主力メニューを提供するテナントを探していたプロデューサーの目に止まり、独立開業への出店を勝ち取った。店では過去に鉄板焼き店で働いていた時の経験を生かす。「コンセプトは昭和レトロな感じ。関西のノリで値ごろ感のある料金設定で、活気ある店にしたい」と話す。

 京都、大阪、和歌山各地から仕入れた食材をメーンに、主力のお好み焼きは3種類を用意。看板メニューの「うめつき焼き・京都」(950円)は京都の「ちりめん山椒」を具材に加えたオリジナル。焼き上がった生地をごま油につけて食べる。「かしみん焼・大阪」(500円)は、生地に関西地方などで「かしわ」と呼ばれる鶏肉とキャベツ、牛の脂のミンチを乗せて焼いたお好み焼き。焼きそば入りの「せち焼き・和歌山」(750円)は、お好み焼き風に仕上げる大阪・岸和田の郷土料理。

 「豚玉」(650円)、「イカ玉」(650円)のほか、「焼きそば」(700円)、「焼き野菜」(300円~)などの鉄板焼きも提供する。アルコールは、生ビール(350円)、チューハイ(350円)、日本酒450円、焼酎(400円~、麦・芋・米ほか)など。客単価は1,800円。

梅月さんは「恵比寿横町には九州料理もあれば、沖縄料理も中華料理もある。さまざまな店の人たちと一緒に『人情味』のある横町にしていきたい」と話す。

【紹興酒家「浜椿」】 「料理の鉄人」出演経験者の料理人が初出店

 「浜椿(はまつばき)」は、テレビ番組「料理の鉄人」にも出演経験のある中華料理人、石川敏行さんが手がける初の店舗。「昔から飲んで食べられるような店が好きで、将来はカウンターのある店をやりたいと思っていた。そうした中、浜倉さんから話が来た。タイミングも良かった」(石川さん)と振り返る。

 品質の高い食材を調達するため入念に業者も選定、日によっては築地などに石川さん自ら食材を仕入れに行くこともあるという。メニューは大きく「冷菜」と「温菜」に分け、30品程度に絞った。「一品料理」的な中華料理を全品600円均一で提供する。「お薦め」(石川さん)は、「日鴨砂肝の炒め」「〆もつ焼きそば」などのモツ料理をはじめ、「国産鴨舌の唐揚」「骨付ハーブ豚揚げ」「大えび辛子炒め」など。アルコールは、中国の紹興酒をメーンにそろえる。客単価は3,500円~4,000円。

 約6坪の店内に並ぶのは、20~23席ほどのカウンター席。「カウンターだとレストランとは違い『気持ち』で接することができるので、なるべく厨房から出て行くようにしている」(石川さん)と、客とのコミュニケーションを大切にしている。「皿の上で料理を表現するだけではだめ。気持ちも料理に含まれる」とも。

 横町について、石川さんは「これだけたくさんの店が集まれば、魚や肉を焼く香りや揚げ物のにおいなどでも雰囲気が楽しめる」と「集合体」の強みを実感している。同店を機に、今後は多店舗化も視野に入れるという。

リピーター急増、横丁の人気は集まる人の「元気」が秘訣!?


個人オーナーによる独立系店舗の出店ラッシュや地元企業の相次ぐドミナント出店などで物件の入れ替わりも激しい恵比寿周辺エリアで、今後生き残りをかける「恵比寿横丁」。オープンから1カ月、人気は口コミで広がり、仕事帰りの若いOLやビジネスマン、地元住民らの「息抜き」空間となっている。

 恵比寿に住むアパレル企業会社員の30代女性は「初めて来たが『新橋』的な感じ。都会の中にあえて庶民的な雰囲気の横町を作ろうと思ったコンセプトがすごい」と驚きを隠さない。共に来ていた同じアパレル会社の40代男性も「夜遅くまでにぎやかなので、どんなにところか初めてのぞきに来た。おしゃれな飲食店に飽きた人が来るようなところ」と、周辺の既存飲食店との違いを挙げる。

 深夜営業の店も多いせいか、恵比寿在住のリピーターも多い。「今日で来るのは3回目」という29歳、フードアナリストの女性は「店の人との距離が近く気軽に話せる。飲食店が並んでいて店を選ぶ楽しさもある。女性だけで気軽に立ち寄れる雰囲気もありがたい」。

 常連客には年配の姿もある。恵比寿在住・81歳の女性は、青山で小料理店を営むおかみ。「この場所は山下ショッピングセンターの時代からずっと見ている。昔は寂れてつまらないところだったけど見るからに良くなった。毎晩飲みに来ています(笑)」と活気を取り戻した市場の再生を喜ぶ。この女性のように、横丁には周辺で飲食店の営業を終えた「業界人」の利用客も多いようだ。

 店の集合体という「選べる楽しさ」に加え、集まる客の熱気がさらに集客に結び付く効果もある。恵比寿のIT企業に務める30歳の男性は「学園祭のようなノリとにぎやかさに驚いた。普通の店では味わえない雰囲気」と感想を漏らす。「横町というので古くさいイメージを持っていた。実際に来てみるとテーマパークのような雰囲気すら漂うところ」と、小金井市在住の20代のOL2人組も横丁独特の雰囲気を楽しんでいる。

 プロデューサーの浜倉さんが横丁のキーワードにしてきたのが、店や人の持つ「元気」さ。独立をかなえた若いオーナーや横丁のコンセプトに共感し自ら名乗りを上げた料理人などのスタッフと、アミューズメント感覚で店を楽しむ客が一丸となり「元気な空間」を作り上げている。「いる人が元気になれる空間で、出店者側にとっても独立の一歩を踏み出すいいきっかけになる場所。今後もやる気持のある若い力をどんどん発掘してきたい」(浜倉さん)と、今後若手独立の環境づくりを整えていきたい考えだ。

「恵比寿横丁」13店舗全ガイド

京風おでん「でんらく」
(TEL)03-3473-8969
(営業時間)17時~翌4時(日曜・祝日は23時まで)

紹興酒家「浜椿」
(TEL)03-3447-5923
(営業時間)17時30分~翌4時

お好み焼き「うめ月」
(TEL)03-3441-6572
(営業時間)17時~翌3時(日曜・祝日は23時まで)

博多の人情屋台「純ちゃん」
福岡から出店した九州屋台。焼ラーメン、牛スジ、鉄板料理、チャンポン、ホルモンなど九州全域の料理を提供、アルコールもさまざまな地酒をそろえる。メニューは、九州から直送した「馬刺し」など。
(TEL)03-5789-0202
(営業時間)17時~23時
(客席数)約20席

元祖関西風串かつ「旬」
大阪名物の「くしカツ」をメーンに提供。肉や魚、野菜のほか、果物のくしカツメニューも。店舗の入口はビニールシートで覆い、大阪のくしカツ店の雰囲気を出した。
(TEL)03-3280-4195
(営業時間)17時~24時(日曜定休)
(客席数)10席

浜焼酒場「魚○」
恵比寿横町プロデューサー浜倉さんが経営する店。くしに魚介類を刺して焼く浜焼をメーンに、アワビの躍り食い、箱盛りのウニやイクラ、かにみその甲羅焼きなどさまざまな海鮮料理をそろえた。
(TEL)03-3447-6677
(営業時間)18時~翌5時(日曜は24時まで)
(客席数)約10席

沖縄料理「うえずや」
沖縄料理専門店。ゴーヤチャンプル、スーチカー (豚の塩漬け)、沖縄そば、ミミガーなど沖縄本島の料理が数多くそろう。琉球泡盛などのアルコールも用意。店長は沖縄県出身で、京料理店「菊乃伊」の料理長経験もある。
(TEL)なし
(営業時間)11時30分~14時30分、17時~23時
(客席数)約10席

京の漬けもの処「葵」
京都の九条ネギを盛った「鴨しゃぶ」や、京都の老舗店の生湯葉、京漬け物、京おばんざいなどの京都料理を提供。食後には「しめ」の茶漬けも用意する。
(TEL)03-3447-6677
(営業時間)18時~翌3時
(客席数)10席

牛たん居酒屋「ベコヒラ」
牛タン料理をメーンに展開する店舗。塩タン、和牛レバ刺し、ユッケなどの肉料理をはじめ、牛モツ味噌ポン酢、牛タン葱間焼きなど一風変わった牛タンメニューなども。飲食事業のほか内装業なども手がける会社が運営する。
(TEL)03-3445-4118
(営業時間)17時~翌5時
(客席数)14席

壷漬けホルモン「銀次郎」
つぼ漬けホルモン専門店。つぼに入った約20種類のつぼ漬けホルモンメニューが並ぶ。牛ホルモン、タン皮、厚切りタン、レバーの焼肉メニューのほか、つぼキムチ、秘伝のもつ煮、鶏かわ焼きなどの一品メニューも。
(TEL)03-3444-5938
(営業時間)11時~14時、17時~24時(日曜定休)
(客席数)10席

焼鳥「かっぱちゃん」
中野で営業していた店が同横町に移転オープン。新たに開発した「辛味噌だれ」を焼き鳥につけて食べるのが同店流スタイル。看板メニューは「薩摩地鶏もも炭火焼き」。くし焼きは100円~と値ごろ感のある価格設定。
(TEL)03-3280-4199
(営業時間)11時~24時(金曜・土曜は翌3時まで、日曜定休)
(客席数)約20席

ワイン&野菜「高橋さん」
ワインと野菜のみを扱う店舗。野菜は店主の高橋さんがその日に築地で仕入れた旬の食材。野菜は、網で焼くか、せいろ蒸しにして提供する。ワインは約10種類。客席はすべてカウンター。
(TEL)080-5527-1117
(営業時間)18時~翌1時
(客席数)7席

ビーフ&バー「Amigos」
南米の肉料理「シュラスコ」とアルコールを提供するバー。アルコールは、バーボン、ウイスキー、カクテル、ワイン、ビール、ブランデー各種を取りそろえる。店内は照明を抑えムードのある空間を演出。
(TEL)03-5420-4339
(営業時間)20時~翌3時(日曜・祝日は17時~24時30分)
(客席数)10席

恵比寿東口のレトロ市場跡に「恵比寿横丁」-居酒屋など13店舗恵比寿東口に新たな潮流−出店が続く注目エリア−「恵比寿イースト」最新飲食店事情(シブヤ経済新聞特集)恵比寿横町

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