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SHIBUYA109に新たな「遊び場」
新情報発信空間に見る10代マーケティング最前線

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テレビ番組と連動、サンプリング空間に企業も注目-「等身大」店作りが鍵

 店舗を企画・運営するのは、109シリンダー(外壁)広告や同エントランス前での特設ステージイベントなど、同館関連の企画も多く手がける広告代理店、オゾンネットワーク(渋谷区恵比寿西1)。新業態となる同店では、15歳~18歳のティーン層をメーンターゲットに「情報発信」型の店舗スタイルを導入。店は主にサンプリング、物販、カフェの3区画で構成する。

 サンプリングコーナーは、TBSの情報番組「ランク王国」とのコラボレート空間。タワー状の什器には、人気コスメやハドソンの万歩計など単価も高い限定数のプレミアムアイテムをはじめ、ジュースなどの飲料やサプリメント、シャンプー類、香水など常時30品目が並び、アンケートに答えれば好きなもの3種類が無料で選べる仕組み。コーナーの壁面には、番組内で紹介されたランキング結果によるコミックベスト10などのサンプルも並び、こちらは無料閲覧や試食なども可能。「ティーンは新しいものが好き。サンプルも楽しみながら真剣に選んでいく」(オゾンネットワークSBYプロジェクトチーム宣伝・広報担当の柴垣麻衣子さん)という。

 サンプルを提供する企業にとって、同店はティーンの聖地「109」の内部で商品をアピールできる絶好の空間。柴垣さんは「渋谷駅近くなどの路上で若者向けにサンプルを配るより、あらかじめターゲットが絞られていることも企業側にとっては大きなメリット」(同前)と分析する。

 これらの商品を手に入れるために来店者が書くアンケートシートは、好きな動物やタレント、よく遊びに行く場所などSBY独自の簡単な質問と、「ランク王国」の質問事項が書かれたシンプルなもの。今後オプションなどで詳細アンケートをとる計画もあるが、基本的に商品に関する質問はゼロ。ここでは、タダで商品をもらえる代わりに膨大な質問に答える必要もない。企業には週単位でどの商品がどれだけなくなったかを報告する。

 「アンケートも楽しく書いてもらいたい」と柴垣さん。来店者の8割が進んでアンケートに答える背景には、店側のこうした「配慮」も影響している。ティーンにとって「等身大」の店作りを目指す姿勢にも余念がない。

話題の「ヴィクトリア・シークレット」も投入-高感度セレクト前面に

 物販ゾーンとなるオリジナルショップ「SBY-COMPI」にも、「等身大」のヒントは詰まっている。店に並ぶのは、カラフルな雑貨やラインストーンなどのデコレーションをあしらったグリッターアイテム、インポートコスメなど。おもちゃ箱をひっくり返したようなポップな空間に、約300種類の商品がぎっしり並ぶ。

 目玉は、ネットなどでの販売はあるものの、国内ではまだ購入できる場所も少ない米人気ブランド「Victoria's Secret(ヴィクトリア・シークレット)」の商品。専用コーナーを設け、髪やボディーにも使えるフレグランスや春夏新作バッグなどの目新しいアイテム、姉妹店「Bath&Body Works」の商品なども扱う。オープン後、同ブランドの商品目当てに訪れる客も多いという。

 オリジナルは、ロゴモチーフにもなっている星型のミラーや特注カラーのストーン付きキラキラペン、ポップなデザインが目を引くアクセサリーなど。どの商品もティーンの視点に立ち「質のいいもの」(柴垣さん)をそろえている。店内を見渡すと、ニコちゃんマークや星モチーフ、スイーツ風デコレーションなど、ティーンの「ツボ」をおさえた流行アイテムがずらりと並ぶのが、この店の特徴。

 「変なものが並べてあったらダサくなってしまう。1品1品選び抜いたものしか置かない」(同)。価格帯も、1,000円以内のものがほとんどと驚くほど安い。1,000円を超えるものでも、コスメや香水が3,000円、バッグなどが1万円以内と、ここでも「等身大」の価格設定が基本となっている。店の個性が出る独自ショップで「企業色」を一切排すことが、ブランディングにもつながっている。

独自プロフや「友だち感覚」の接客が生み出す「多面体」コミュニティー

 SBYに訪れるティーンの中でも、リピーターとして通う女子高生たちの多くが店の好きな点として挙げるのが、店員やスタッフの「親しみやすさ」。男性スタッフも多い同店では、テーブル席やメークアップカウンターなどの自由スペースでくつろぐ女子高生たちに話しかけるスタッフの姿が頻繁に見られる。

 同店に通う前、リピーターの多くが「たまり場」として使っていたのが、ファストフード店やチェーン店系のカフェ。こうした店にないスタッフからの積極的なアプローチが、人気の引き金にもなっている。渋谷区内の高校に通う高校1年生の市川さんも、スタッフのこうした接客のファンになり同店に通うリピーターの1人。遊びに来ると「メークを直したり、スタッフの人としゃべることが多い」という市川さん。店の魅力を尋ねると「(スタッフなどの)『人』が好き」と即答、店内で生まれるリアルなコミュニケーションを楽しんでいるようだ。

 店では公式サイト「SBY ぷろふぃ~る」を開設、SNS機能でユーザー間のコミュニケーションを促進する狙いだが、実際に店内でサイトへの入会(無料)を勧める「勧誘」行為も、ここではスタッフとの「コミュニケーションツール」として、快く受け入れられている。サイト登録者は当初の予想を上回るペースで増加。会員になるとポイント加算でドリンクなどが無料になるポイントカードも利用できるため「お得感もあり、抵抗なく入会してくれる」(柴垣さん)という。

 柴垣さんは同店を「今までにない『多面体』な場所」と定義する。サンプリング、物販スペースに加え店を構成するのは、タピオカドリンクやスイーツを提供する独自カフェ(有料)をはじめ、ヘアアイロン、コスメなどが並ぶメークアップカウンター、常時20冊もの雑誌をそろえるマガジンラックなど、利用目的も異なる「多様」な空間。ここに、スタッフやSNSなどを通じたコミュニティーが生まれることで、店はさらに「多面性」を帯び、ティーンを引きつけて離さない。

最上階からの「シャワー効果」でフロア活性化-館全体の情報発信力強化へ

 同店が出店する8階は従来、寿司店などの飲食店やサロンが集積し「ファッション色」のなかったフロア。109では、このフロアにティーンや女子高生の「遊び場」空間を設けることで、最上階からの「シャワー効果」を狙う。

 茨城から都内の大学に通う女子大生で、テレビの番組を見て同店を訪れたという須田さんは「渋谷に遊びに来るときは109には結構来る」と話すが、「8階には1度も来たこともなかった」と振り返る。ほかの来店客も一様に、「8階のことはこれまであまり知らなかった」と口をそろえる。

 オゾンネットワークが昨年12月に行った調査によると、冬休みの集客効果も影響したせいか、同月の来店客数は1日平均でおよそ500人。うち中学から専門、大学に至るまでの「学生」が約8割を占め、1月に入ってからも、特に混み合う平日の夕方と休日を中心に、客足は途絶えない。買い物やお茶、メーク直しと、お金をかけず多様なニーズを満たせる「お得」な空間に、ティーンの口コミも広まっている。

 公演の打ち上げまでの待ち時間を同店でつぶしているという原宿のダンススクールに通う学生3人組のグループ(中学3年と高校1年)は「今日発売の雑誌がすぐに読めてうれしい。『渋谷っぽい』感じが居心地いい」と店の雰囲気を気に入った様子。「Wiiができるのもコテ(ヘアアイロン)が使えるのも超すごい。友だちに教えてあげたい」と楽しそうに話していた。

 同店では、開業前のプロジェクト段階で人気学生サークル主催者に話を聞くなど、「生」の声も取り入れ店作りに反映した。ティーンにとって等身大で「かっこいい」空間作りを徹底したことが、実際に若者たちの心をつかんだかたちだ。

 店が目指すのは、多面的な「メディア」。イベントスペースとしても稼働し、多方面で「SBY」ブランドを確立することで、109全体の情報発信力強化にもつなげる。真の「シャワー効果」は、今後同フロアで取り込んだティーン層に、下層階のフロアがどうアピールできるかにかかっている。

渋谷「109」に情報発信型複合カフェ-サンプリング、物販も(シブヤ経済新聞)SBY

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