特集

リーディングが進化した新たな表現スタイル
「スポークン・ワード」にハマル理由

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■ラッセル・シモンズが仕掛けるポエトリー・レーベル

昨年、全米一のケーブルTVネットワークHBOは、ポエトリー・シーンの人気アーティストのライブ番組「Russel Simmons' DefPoetry Jam」の放送を開始した。仕掛人であるラッセル・シモンズは、RUN DMCなどを輩出した老舗のヒップホップ・レーベルDef Jamの創立者であり、現在のブラックカルチャーを代表する人物でもある。昨年11月には、ブロードウェイで「Russel Simmons' DefPoetry Jam on Broadway」も上演された。HBOの番組から選ばれた9人の詩人たちがセックス、お金、愛、政治などの世界を芝居と音楽で綴るパフォーマンスが人気を集めた。「DefPoetry Jam」は、今やポエトリー・レーベルとしても確立している。

Russel Simmons' DefPoetry Jam on Broadway

ポエトリー・リーディングは、1930年代から1940年代にかけて、アメリカで人種差別などの社会的問題に抗議する黒人の街頭演説には始まり、次第に「ポエトリー・リーディング(=詩の朗読)」のスタイルをとるようになったとされている。現在アメリカでは「ポエトリーリーディング」という言葉よりむしろ「Spoken Word」という言葉がよく使われるようになってきた。これらふたつの言葉を区別する明確な規定はないが、「Spoken Word(話された言葉)」は文学的な要素を余り含まず、「言葉を使った表現スタイル」として確立されつつある。「Spoken Word」と呼ばれる詩の内容は、社会的、政治的な内容を含むことが多く、ジャズやヒップホップなどの音楽を取り入れたパフォーマンスも少なくない。さらに、ポエトリー・リーディングには、観客が各アーティストに点数を付けて順位を決めるエンタテインメント性の「SLAM」と呼ばれるスタイルもあるなど、その表現形式にも広がりが出ている。

■渋谷・原宿の「ポエトリー・リーディング」スポット

「BOOK WORM」は1998年3月以来、原宿の会場をメインに隔月で開催されているリーデイングイベント。持ち時間は1人10分で、CD・レコードの持ち込みや、簡単な楽器演奏も可能なフリースタイルが同イベントの特徴。参加者は20代から30代前半を中心に毎回約40人が集う。サンドイッチなどを片手に、当日ノミネートされたパフォーマンスに耳を傾ける。参加者の中には初めてオープンマイクの前に立つ高校生もいて「恐る恐る何かを語りかける姿には、プロでも出せない初々しい緊張感がある」(山崎さん)と話す。「オープンマイク」とは文字通り1本のマイクを解放し、言葉で何かを表現したい人が、飛び入りで参加するもので、元来はヒップホップの音楽イベントで始まったものだが、今ではポエトリーシーンに欠かせないものとなっている。

山崎さんはポエトリー・リーディングが注目を集め始めた背景について「言葉の楽しみ方を模索し始めた人が多くなった」ことを挙げ、さらにこう付け加えた。「今は何かひとこと言いたい時代なのでは」と。BOOKWORMでは今年3月、同イベントと連動した出版企画として「BOOKWORM mag vol.0(創刊準備号)」(680円)も発売した。次回のイベントは同じく原宿で7月27日に開催される。

BOOKWORM ONLINE
BOOK WORM BOOKWORM mag vol.0(創刊準備号)

今年2月、「渋谷古書センター」(道玄坂1)2階に、古本カフェ「Flying Books」がオープンした。同店はヴィンテージ絵本、洋雑誌、絶版写真集やビートニクス、海外文学、詩、旅、音楽等のジャンルの古本を取り扱う。同店店主の山路さんは以前からポエトリー・リーディングを中心とするイベント制作に携わってきたこともあり、店内の可動式本棚を移動してポエトリー・リーディングなどのイベントを不定期に開催している。山路さんによると、ジャネット・ジャクソン主演の「ポエティック・ジャスティス」(1993年)、レオナルド・ディカプリオ主演で実在の作家ジム・キャロルを描いた「バスケットボール・ダイアリーズ」(1985年)、「SLAM」(1998年)、そして最近ではエミネム初主演の「8マイルズ」など、アメリカ映画の中に度々登場するスポークン・ワードのシーンも「少なからず影響を及ぼしているのでは」と話す。ちなみに同店では7月27日、スポークンワード・アーティスト、タカツキの2nd CD発売記念ライブ「Unplugged Groove vol. 1」を開催する。

Flying Books
Flying Books Flying Books

■表参道で国内最大規模の「Spoken Word」イベント

6月22日、表参道ハナエモリビル5階にある「TNプローブ」を会場に約350名の参加者を集めて、インターナショナル・ポエトリー・イベント「『Spoken Word!』自由・勇気・詩の力」が開催された。主催は月に一度トークイベントを交えたコミュニティカフェを開催しているNPO(特定非営利活動法人)のBeGood Cafe(目黒区青葉台)。今回のイベントは1999年1月の開催以来54回目を数える。BeGood Cafeでは、2001年11月から「オープンマイク」を始めたが、今回のイベントでは初めて海外からアーティストを招聘し、日本の詩人とのコラボレーションを実現した。BeGood Cafeでは1人5分の持ち時間で、詩の朗読、歌、ラップ、パフォーマンスなどスタイルを問わず表現でき、毎回15人程度が出演する。

パフォーマンスは2部構成で、ひとり5~10分のパフォーマンスが入れ替わり続く。20代を中心とした観客は、会場内で販売されているオーガニックフードやドリンク類を片手にパフォーマンスを聞き入っていた。海外からはデニス・キム(米)、マーク・パムシ・ジョセフ(米)、ジェイソン・マテオ(米)、ユウコック(仏)が参加した。デニス・キムはシカゴのヒップホップグループ「Typical Cats」のリードボーカルとしても人気のアーティスト。国内からは、自らもポエトリーイベントを企画する、さいとういんこ、ヒップホップグループでも活躍するATOM、ラップによるウッドベースの弾き語りという独自のスタイルを確立するタカツキなど、内外のアーティスト18人が顔を揃えた。

彼らの招聘やキャスティングを務めたのは同イベントのディレクター、朴慶奈(パク・キョンナ)さん。朴さんは約2年前、アメリカを何度か訪れた際、自身が「個人的に好きだったアートや音楽と、社会的な意識を自分の中でひとつにできる『Spoken Word』に触発され」、日本でのイベント実現の機会を探ってきた。今回のイベント企画が決定したのは昨年末のこと。以来6ヶ月間、朴さんは準備のために走り回り、当日は司会役も務めた。朴さんは、日米のイベントを通して感じたことのひとつに、日本人アーティストは「言いたいことがあるから」マイクの前に立つが、アメリカ人アーティストは「言いたいことに加えて、言うべきことがある」というスタンスが加わる点に、その差を感じると言う。さらに「メッセージを直球で伝える」(朴さん)「Spoken Word」のイベントに、ヒップホップ感が漂う背景には、「彼らがヒップホップを聴いて育った世代だからでは」と加える。

当日のイベントの模様はビデオ収録され、映画監督の中野裕之氏の監修で、今年8月に70分のビデオムービー化が予定されている。製作費は賛同者の寄付金で賄われるが、代わりに地域通過が進呈される他、ビデオ作品やホームページに氏名がクレジット掲載される。

BeGood Cafe BeGood Cafe / Spoken Word!
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ポエトリー・リーディングを情報面でサポートする動きもある。「ポエトリー・カレンダートウキョウ」は2000年9月に創刊されたフリーペーパー。発行は隔月刊で、発行部数は1万部。紙面では、主なポエトリー・リーディング関連イベント情報が紹介されている。創刊当時、街に氾濫する映画の情報に対して、詩に関する情報はあまりにも少なかったことから「インフラ整備」を思い立ったのが同紙発行の契機。同紙を発行する斉木博司さんは、ここ数年の傾向について「ジャズやヒップホップなどの音楽との融合が進み、リーディングの表現方法が多様化してきた」と話す。さらに「ポエトリー・リーディングは、着実に表現方法の選択肢のひとつとなりつつある」と加えた。

ポエトリー・カレンダートウキョウ

BeGood Cafe「スポークン・ワード」のイベント会場は、従来のポエトリー・リーディングの「朗読」という言葉の響きから連想される世界観とは、かなり距離感を感じさせるものだった。内外のアーティストが初めて表参道に集結し、それぞれに個性豊かな表現方法で観客を魅了した。普段、ポエトリー・リーディングとは接点のないヒップホップ系のアーティストたちも観客として参加するなど、音楽シーンとの接点も見逃せない。一方、日本再発見というマクロトレンドの中で、日本語を見直す気運はますます高まっており、さらにイラク戦争などの不安定な国際情勢を背景に、平和へのメッセージをテーマにしたパフォーマンスも少なくないのも特徴だ。「思ったこと」「言いたいこと」を素直な言葉で表現する、極めてシンプルでありながら「骨太」のパフォーマンス・スタイルが今、若者の心を捉え始めている。

ポエトリー・カレンダートウキョウ
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