
浮世絵師・葛飾北斎の「冨嶽三十六景」に焦点を当てた企画展「葛飾北斎 冨嶽三十六景」が現在、原宿の浮世絵専門美術館「太田記念美術館」(渋谷区神宮前1、TEL 03-3403-0880)で開催されている。
世界的に知名度が高い葛飾北斎の「冨嶽三十六景」。現在NHKで放映されている大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」では、江戸時代を舞台に、蔦屋重三郎が出版人として世に送り出した葛飾北斎や喜多川歌麿なども描かれている。今回、同館では2017(平成29)年以来となるシリーズ全46図を展示する。
さまざまな場所・視点から富士山を描いた同シリーズは、36図出版後「人気」だったことから、10図が追加で出版されたことで、46図のシリーズとなった。同展では、描かれた風景と実際の地理・地形の関係に注目し、担当学芸員の渡邉晃さんが撮影した現地の写真や地形図を用いながら、場所を探る。
冒頭では、同シリーズの中でも特に知名度が高く「浪裏」「赤富士」「黒富士」という俗称でも知られる、荒れ狂う波と押し送り船(漁船)と共に富士山を描いた「神奈川沖浪裏」、赤く染まった富士山を正面から描いた「凱風快晴」、青空の山頂と雲に覆われ雷雨に見舞われている麓を描いた「山下白雨」を紹介。
葛飾は、特に崖際から富士を眺める視点を「好んで採用していた」ことから、「高低差と富士」では坂道や渓谷など地形の高低差に着目。「東海道品川御殿山ノ不二」は高台「御殿山」で花見をする人たちの奥に富士山を描いている。図の視点は南東方向ではあるが、富士山は西方向のため、実際には見えない構図だという。渡邉さんは「演出としてあえて富士山を描いた。買った人も一緒に楽しめるユーモアに近いものなのかも」と解説する。
「青山円座松」に描かれている円座松は、龍巌寺(神宮前2)の庭にあった松で、その奥に富士山が描かれている。同寺の境内は現在一般非公開のため図のように富士山が見えたかは不明だが、富士山の方向に向かって崖になっていることから、境内から富士山が見えた可能性はあるという。
「水辺と富士」では、水路や海・湖などさまざまな水辺と対比して描かれた富士山を紹介。渡邉さんは「相州箱根湖水」を元に芦ノ湖に足を運び、作画点を探したという。「(実際に)行っていてもおかしくないと想像できるような」図に描かれている富士山や稜線(りょうせん)の写真が撮れたと言う。
「都市と街道の富士」では、江戸などの都市、街道の風景と共に富士山が描かれた作品が並ぶ。同エリアでは、同館とゆかりの深い隠田川や水車などが描かれている「隠田の水車」も展示。隠田は原宿エリアの地名で、かつての隠田川は現在暗渠(あんきょ)化されキャットストリートになっている。地形図では、隠田川は谷底に位置するはずが、同図には隠田川に向かって袋を担いで登ってくる男たちが描かれていることから、「やや実景と異なるかもしれない」と考察できるという。
渡邉さんは「まずは冨嶽三十六景の作品の素晴らしさを見ていただきたい。どういう場所をどういう視点で描いたのかというのは分からない部分もあるが、想像の余地がすごく残されていて、それが面白くロマンでもある。一点一点詰めて考えていくことで作品もどんどん印象に残ると思うので、そういった視点でも楽しんでいただけたら」と話す。
7月31日・8月8日・同19日(各日10時50分~30分程度)には、渡邉さんによるスライドトークを予定する。定員は50人。
開館時間は10時30分~17時30分。月曜・8月12日休館(8月11日は開館)。入館料は、一般=1,200円、大高生=800円、中学生以下無料。8月24日まで。