
渋谷の解体予定のビルを活用した実践型の消防訓練が7月3日に行われた。
高度経済成長期の「建設ラッシュ」から約50年がたち、ビルが老朽化している中、解体業者の人手不足による工事の延期など「不動産の2025年問題」も叫ばれる。東京建物(中央区)は今回、施設の管理・運営などを手がけるグループ会社の東京不動産管理(墨田区)と共同で、防災訓練を行った。同社はビルの解体前までの期間を有効活用することを「ビル終活」と位置付け、今年1月には代官山の旧「セゾン代官山」(渋谷区恵比寿西2)でアートプロジェクトも開いた。
ビル終活の第2弾となる今回は、稼働中のビルでは難しい実施型の訓練を企画。活用したのは、首都高速3号渋谷線沿いの「東建インターナショナルビル」(渋谷2、1972年完工)と、隣接する「東建長井ビル」(同、1983年完工)の2棟。それぞれ建て替えに向けて、入居者の退去は済んでいた。
この日は、渋谷消防署、消防団、東京建物自衛消防(女子隊)、東京不動産管理自衛消防隊のメンバー約50人のほか、東京建物のビルの管理に携わる部署の社員、東京不動産管理の社員約50人の計約100人が参加・見学した。
訓練は、30年以内に70%の確率で発生するとされている首都直下型地震や火災を想定。火災を想定して、無害のスモークをたいた部屋から煙を屋外に排出する設備が正常に作動するか確認したほか、ビル内からの緊急避難時に足の不自由な人やけが人を階下に運ぶため、避難車を使った操作訓練も行った。
火災・地震・停電それぞれの非常時に作動するエレベーターの制御機能についても、動作の確認訓練をしたほか、渋谷消防署・消防団・東京建物自衛消防(女子隊)・東京不動産管理自衛消防隊が合同で放水訓練も。消防隊員らがそれぞれのシチュエーションに合わせ、注意事項などを挙げながら、訓練を進めた。
東京建物ビルマネジメント第二部長の安井祟さんは「全てのステークホルダーに『安心・安全』を提供することは、重要な責務で事業活動の根幹。発災時に消防隊員が現場に駆け付けるまでの初期対応や、減災の重責を担うのは、我々社員。だからこそ、訓練を通じて現場力を高めて実践力を養うことは、責任であり使命。日常業務の延長にある防災活動こそが安心・安全につながると信じている」と話す。
この日の訓練については、「社員が自助・共助訓練を体験し、実践的な気づきと備えを得る貴重な機会」とし、消防署や消防団と連携できたことで「地域防災力の向上という観点からも、非常に価値がある」と続けた。
東京不動産管理執行役員首都圏第3支社長の篠原昌城さんは、災害がいつ起きるか分からない中で、施設管理会社として「備えが重要」とし、「見学者が体験・経験を各部署・ビルに持ち帰り、社内やテナントに伝えて防災意識の大きな輪が広がれば、訓練の意義が大きくなる」と期待を込めた。