
渋谷で創業し、75年以上にわたり営業を続ける老舗カフェ「珈琲(コーヒー)店トップ」の「道玄坂店」(渋谷区道玄坂2、TEL 03-3461-1624)が5月20日で閉店する。経営は渋谷食品(代々木5)。
箱型の電飾看板や、木目を基調にした店内、銅製のシュガーポットなど、「昭和レトロ」な趣を残す老舗コーヒーショップ。店の始まりは1949(昭和24)年。戦後、闇市から発展した渋谷駅前の現・道玄坂一丁目周辺の「大和田マーケット」に輸入食品店「シブヤ食品」を開いた室谷宗一さん・有枝江さん夫妻が、翌1950(昭和25)年に同市場内にサイホン式コーヒー専門店として「珈琲店トップ」1号店を開店した。
以降、昭和後期には新宿などにも進出。1993(平成5)年には代々木に、自社のコーヒー工房を備える5階建ての本社ビルを建設。店を代表する「トップミックス」をはじめとしたコーヒー豆を製造し、店内でもオリジナルのコーヒー豆を販売する。
道玄坂店は1971(昭和46)年9月、道玄坂沿いの商業ビル「道玄坂センタービル」地下1階にオープン。渋谷エリアでは、1号店として開業後「渋谷駅前ビル」内に場所を変えた渋谷駅前店(2020年に渋谷マークシティ東館1階に移転)、旧「宮益坂ビルディング」1階の宮益坂店(2016年に同ビル取り壊しのため閉店)に続く3店舗目だった。
室谷博子社長によると、道玄坂店の閉店は店内設備の老朽化などに伴うもの。「新宿にあった2店舗も、宮益坂店、東急百貨店本店内の店も、全て再開発による建物の取り壊しで、店を閉じることになった」と振り返る。「お客さまへのサービスと、『本物志向』にこだわってきた店の味を守ること。職人の世界のようなもので、店の全てを管理できる店長候補を育てることも難しかった」と、後継者問題も大きかったという。
渋谷を訪れる若者たちの待ち合わせスポットにもなっていたという道玄坂店は、当時、店内に黒電話があり、店内の利用客宛にも電話が鳴り、従業員が「〇〇さまへ、〇〇さまからお電話です」と客を呼び出すやり取りもあった。「コーヒーフェア」と称し、軒先のスペースでセールイベントなども開催。同ビル1階にJALの営業所があり、海外渡航の自由化が始まった影響もあり、国際色を売りにした企画も展開。コーヒーフェアは現在も、「トップデー」と名称を変えて実店舗と通販で続けている。
カウンターの配置を変えるなど、一度大きく改装した現在の店舗は、ビンテージのコーヒーミルを中央に飾る大型のテーブルやカウンターも含め62席を用意。勤めて50年以上になるという宮本勝店長は「コロナ禍前は店内で半日近く仕事をしていく方もいらっしゃった。昔は砂糖入りのコーヒーが基本で、『砂糖なし』の注文が入るようになったのは、ここ20、30年の話」と懐かしむ。
「コクのある伝統の味」というトップミックスは1杯630円。昭和時代の味を復刻させた「薫味(こうみ)」は880円。フードは、「提供したての頃は、まだはしりだった」と宮本店長が話すツナトースト(600円)や、カキの燻製(くんせい)油漬けをのせるオイスタートーストなどが定番。博子社長は「ブレンドの配合がとても難しい。気候変動などの影響で原料も高騰し、日本に入ってこない豆もある中で、この『トップミックス』の味を守っていけたら」と話す。
渋谷マークシティ内にある渋谷駅前店は今後も営業を続け、オンライン販売も継続する。