特集

知恵とネットワークで低コスト化を実現
渋谷で開店、ハウマッチ?

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■「有言実行」タイプの創業者は女性に多い?

中小企業庁の「中小企業白書2002年度版」によると、「創業希望者」は1977年以降、常に100万人を上回っており、1997年には124万人が存在しているが、「創業実現率」は40%(1982年)→36.2%(1987年)→31.9%(1992年)→31.5%(1997年)と漸減を続けている。

同白書で注目されるのは創業に関する男女差。男性の創業希望者は82.1%と高いが実際の創業者は55.9%。これに対して女性の創業希望者は17.9%と低いにも関わらず44.1%が実際に創業しており、「有言実行」においては女性に軍配が上がっている。さらに同白書では「創業時の困難」として「自己資本不足」(49.4%)を筆頭に、「販売先の開拓」(34.2%)、「創業資金の調達」(33.4%)などが続き、資金面での不安と、創業後の営業不安が交錯している姿が浮かび上がる。

それでは創業時の保有資産はいくらだったのか?29歳以上では63.3%が500万円未満の創業だが、30歳代になると500万円未満は44.8%で、1,000~2,000万円未満が16.5%と、これに続く。さらに40歳代では500万円未満が23.0%、1,000~2,000万円未満が22.7%と、開業に際して顕著に余裕が生まれてくる。ただし、景気低迷の煽りを受けて、40歳と言えどもリストラ対象になる会社員も多く、中には早期退職に応じた見返りとして上乗せされた退職金を資本にして創業や開店に臨むケースも少なくない。

中小企業庁「中小企業白書」

国民生活金融公庫がまとめた「新規開業白書2002年度版」では、開業に踏み切った直接のきっかけを以下のように挙げている。

  1. 勤務先に対する不安があった(19.8%)
  2. 以前から進めていた開業準備が整った(15.8%)
  3. 勤務先の倒産や人員整理があった(13.3%)
  4. 事業のアイデア、ビジネスチャンスが見つかった(9.4%)
  5. 経営上のパートナーが現れた(7.9%)
  6. 開業に必要な免許や資格などを取得した(7.2%)

これを見ると、(1)や(2)の外部要因による創業は33.1%で、残りの2/3は何らかの準備や資格武装をした上で、比較的慎重に創業に臨んでいることがわかる。

国民生活金融公庫

■500万円で5坪のアクセサリー工房を開店

シルバーを中心にした「想作」彫金を手掛ける「くりから工房」が、宇田川町の東急ハンズ向かいの通称「万国旗通り」の一角の木造ビルの2階にオープンしたのは1999年8月。オーナーの三橋英範さん(34)は、高級ジュエリーを取り扱うメーカー兼卸の会社に5年間勤務した後の29歳の時だった。開業を決意したのは、さらに2年前の会社員時代に遡る。以前、務めていた会社では「ボーナスがあり、残業も年に2~3日と、何の苦もなかった」が、この中で着々と技術を取得し、開業資金として500万円を貯え、退職後開業準備に取りかかった。

三橋さんの物件探しが始まる。当初の希望は「5~10坪で15~20万円」の物件。不動産屋からは「2~3年待つのは当たり前」と言われた。裏原を中心に物件を探し歩き、不動産屋を27~8件回るが、希望の物件には1件も巡り会えなかった。その後、外注を受けたり、知人の店を手伝いながら長期戦を覚悟していたある日、店頭に掲げられた「閲覧自由」の看板に誘われてたまたま覗いた原宿の小さな不動産屋で物件に遭遇した。ただし、場所は裏原から離れた宇田川町。場所的な不安を抱えながらも物件を契約した。広さは5坪弱、家賃は15万円以下、保証金は家賃の10ヵ月分で150万円以下という、条件的には理想の物件だった。内装デザインは自らで手掛け、家具の製作・据え付け等で約100万円を出費、さらに材料や工具類に200万円を要し、用意した500万円を全部使い果たして、8月のプレオープンにこぎつけた。

オープン当初は集客等を全く行っていなかったが、夏休みということもり、個性的な店が軒を連ねるこの一角を訪れる人が「ちょくちょく」覗いていったという。しかし、夏休みが終わると客足が途絶え、同じビルの1階にある美容室や近隣のショップオーナーたちとの交流の中から口コミで、客足を取り戻したという。三橋さんは当時を振り返る。「とにかく回りの人に支えられて、ここまで店をやってくることができた」。オープン当時の1999年はガングロの全盛期だったが、一度も同店を訪れることはなかったという。宇田川町でもこの場所は「ちょっと個性的なエリア」で、立地に対する不安も払拭された。

サラリーマン時代は「夜寝る前、布団に入ってもバンドで歌う歌のこととか、仕事に関係ないことを考えることが多かった」が、開業後は「寝る前も、あれをしなきゃ、これをしなきゃ・・・と、店のことばかり頭をよぎるようになった」と言う。「店をやっていくうちに、必ずどこかで『勘違いしたんじゃないか』と思うことがあるが、この『勘違い』を続けていくことができることも大事」と、自らのスタンスを話す。ただし「お客様に迷惑をかけないことを前提に」という言葉を付け加えた。

同店は、店内にディスプレイされた商品の他に、オーダーメイドによる注文が多いのが特徴。顧客とじっくり話し合い、雑誌の切り抜きや写真などを見ながらイメージを固めていく。イメージ通りの凝ったデザインながらも体に違和感なくフィットするオリジナル作品を求めて通いつめるリピーターも少なくない。工房と一体化したショップ内は居心地がよく、こうしたフレンドリーな空間もリピーターが多い背景のひとつかもしれない。

くりから工房
くりから工房 くりから工房 くりから工房 くりから工房

■麻雀店を改装し1,000万円以下でカフェを実現

恵比寿1丁目で5月1日のオープンを目指して開業準備を進めるカフェがある。名前はまだ最終的に決まっておらず、現状では「カフェ@恵比寿」プロジェクトと呼ばれている。この物件は、使われなくった様々な物件の再生を手掛けるリノベーションプランニング(銀座)が手掛ける。リノベーション・プランナーの辻聡さんとIDEE・R-project武藤さんのプランニングのもと、恵比寿1丁目の元・雀荘だった90平米の空間をカフェへと「変身」させるもの。

日頃からネットワークを通じて情報収集を行っている同社が、同所の「物件が空いた」という情報をキャッチしたの今年1月。すぐにエントリーしたものの、すでに先約があったが、その後キャンセルになり、一転して3月に契約にこぎつけた。その後プランニングを経て、4月12日より施工に取り掛かり、約2週間半の施工期間で開店にこぎつけるスピードぶり。同物件も、同社が進める「リノベーション物件」の一例として、工事状況や施工状況はすべて同社のサイトで公開されており、「工事の遅れ」に関しても、「素直に」公表されている。

30坪弱の同空間の家賃は坪当たり約2万円のため、保証金はその10ヵ月で約600万円。驚くのはその内装・家具関連費で、すべて合わせて300万円、合わせて約1,000万円以下で開業に臨むローコストが異色だ。これを実現するのは「手作り」感。芸大生や美大生の若い感覚も採り入れながらプランニングを行い、その後、職人の指導を受けながら、同社や同店スタッフが壁にペンキを塗ったり、床材を貼ったりする。配管や電気工事関係は専門の業者が手掛けるが、原則としてそれ以外は「自分たちでやる」のが基本。だから、いわゆる「工賃」が発生しない。内装工事で大きなウエイトを占める「工賃」をゼロにすることで予算を抑えることに成功している。

同社取締役の辻聡さんは「お金をかけることは悪いとは思わない。ただ、(お金を)かけているところが無駄に思える部分が多く感じられる。それなら、内装などのハードな出費は極力抑えて、その分、人材の育成などに回した方が有効」と話す。ただ「安かろう、悪かろう」ではなく、「かけるところにはかける、かけないところには一切かけない」という同社のポリシーが貫かれている。また、同店スタッフが店作りに参加することで、店に愛着が芽生えるという副産物も生まれるそうだ。さらに辻さんは続ける。「今は、お金じゃなくてアイデア。仲間や人と人とのつながりを大事にした空間であれば、今どきは過剰な内装をしなくても、お客さんの居心地のいい空間を提供できる」と、低コスト・カフェに自信を覗かせる。

同店は40席、営業時間はランチから深夜12時まで。年中無休でスタートする。

リノベーションプランニング
カフェ@恵比寿 カフェ@恵比寿 カフェ@恵比寿 カフェ@恵比寿

■割烹を改装して1,500万円でカフェ風居酒屋開業

人気カフェ多くが集積する渋谷に今年3月25日、カフェ風居酒屋「ノルブリンカ(the NORBULINGKA)」がオープンした。場所は円山町のホテル街の一角ながら、花街だった頃の風情を残す小料理屋などが点在するエリアにある。店名の「ノルブリンカ」とは、チベット語で「夏の離宮」を表す言葉から生まれた単語で、現在では「宝石の庭園」を意味する。店名の示す通り、店内のインテリアで最も目に付くのはシャンデリア。サイズは小さめながら、カラフルで形の凝ったシャンデリアが数個配され、さりげないゴージャス感を演出する。

店長でオーナーのひとり、岩渕優子さん(30)は「以前、恵比寿のカフェで働いていた時に原さん(現在は同店でキッチンを担当)と出会い、『お店をやろう』と意気投合」したのが2年前の2001年3月。その日から2人の「研究期間」が始まった。「独立開業に関する本を読んだり、おいしいと評判のものを食べ歩いたり、いろいろなカフェを手伝ったり…。当時はお互い別々の仕事をしながら情報収集に奔走し、週1回ミーティングしていた」。開業で最も苦労したのが物件探し。なかなか理想の物件に巡り合えなかった頃「クリーニング屋さんに行く時、近道でこの通りを抜けようとしたら、たまたま店の前の貼り紙を見つけた」。以前は割烹だったこの場所は「1階で大きな窓があって、風通しがいい」という条件にはぴったりだった。「家賃は想定より高かったが、とりあえず見せてもらって…あとはもう、見切り発車(笑)」と振り返る。

物件は裏部屋と地下室を併設する24坪の空間。家賃は坪当たり2 万円以下で保証金は10ヶ月分で、保証金は500万円以内で収まった。内装は、知人で「以前から頼みたかったデザイナー」に全面的に委託。親しい間柄であったこともあり、工事費は「気持ち価格」で、地代と同程度で了承してくれたという。さらにスタート時点では「割烹」時代の食器をほとんど再利用した。さらに、キッチンの什器類や食材の仕入れなどに約500万円を充て、総額1,500万円で開店にこぎつけた。

岩淵さんが学生の頃から住み慣れた渋谷は、「自分が働いているところに友達が来てほしいし、そこから口コミでお店が知れ渡れば」という思惑も叶う街でもある。一方、昨年30歳を迎えたこともあってアクションを起こす気持ちになったと打ち明ける。「一般的に、店は年月を経るごとにイメージは固まっていくものだが、この店はそうではなく「崩して固めて」を繰り返して、ここであと20年はやっていきたい」と話す。開店を実現する秘訣についても「諦めないこと」と、間髪を入れずに答える。「たまたま」で得てきた幾多の好機は、決して運によるものだけでなく、彼女自身の意思の強さが必然的に引き寄せたように映る。

同店では、一般的なカフェでは見かけない「ホタルイカの唐揚げ」(650)や「真鯛のカルパッチョ」(880)なども提供する。ランチタイムは12~15時、ディナータイム は17~24時(金・土曜は~25時)。席数は40席で、うち椅子席=24席、座敷=16席。

ノルブリンカ(the NORBULINGKA) TEL 03-3770-1058
ノルブリンカ(the NORBULINGKA) ノルブリンカ(the NORBULINGKA) ノルブリンカ(the NORBULINGKA):岩渕優子さん ノルブリンカ(the NORBULINGKA) ノルブリンカ(the NORBULINGKA)

中目黒で、2000年4月にオープンしたユーズドファニチャーやインテリア関連グッズを販売する「グラフィオ」と、昨秋オープンした「buro-stil(ビューロスタイル)」の2店舗を経営する村井祐朗さんに経験者として開業について聞いた。「店を持つことが最終到達点じゃない。最終目標を店の開業に置くと、その先が見えにくくなる。開業希望者の中には『格好いい空間を所有したい』と思う人も少なくないが、店を持った結果、その先がどうなるかを考えることが大切」と付け加える。「店を持つこと=商売をスタートさせることでもあり、継続する力を蓄えておかないと長続きしなくなる」と、先達者は開業についての心構えに触れる。

高低差があり、土地の入り組んだ広域渋谷圏には地形的な「スキ」も多く、その分、多くの路面店や個性的なショップが建ち並び、こうした小資本の路面店の集積こそが渋谷の魅力ともなっている。視点を変えると、店の数だけ「知恵」があるとも言える。各店に共通しているのは、内装に過剰な予算をかけずに、様々な知恵や人的ネットワークで、心地よい空間を生み出している点。巨大資本による再開発が続く中、こうした「小資本」による開業が渋谷の魅力にますます磨きをかけているようにも映る。

buro-stil(ビューロスタイル)
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