特集

大人の知らない使い方が新文化を生む
渋谷発!「ケータイ」カルチャー事情

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■渋谷発ケータイ小説の映画化が決定

10月28日、100万部を突破した小説「Deep Love」シリーズの第1部「Deep Love~アユの物語~」の映画製作発表が行われた。原作は同名の携帯小説で、映画化は読者からの強い要望を受けて、原作者yoshi氏自身が手掛ける。出演者は主役の「アユ」役にはファッション雑誌「Cawaii!」「Ray」などで活躍する渋谷系モデルで、1,600名の一般オーディションから選ばれた重泉充香、ヒップホップユニット「Lead」の古屋敬多、黒田アーサーのほか、竹中直人が友情出演する。また、音楽プロデューサーは「渋谷」の路上ライブをきっかけに活躍する川嶋あいが担当する。公開は配給会社に委ねず読者からの100万人の「応援メール」を募集し、その声を背景に全国の劇場に公開を求めていくという。現時点での上映予定は2004年2月。

ザブン(100万人応援メールプロジェクト)

原作のyoshi氏は2000年春、資金10万円を元手に携帯サイト「ザブン」を立ち上げた。「ザブン」は波の音に由来し、「自ら波を起こしていく場所」の意が込められているという。携帯サイト「ザブン」のスタートは2000年5月。yoshi氏は、渋谷の街頭で約2,000名の女子高生に名刺を配り、事前のPRを徹底したこともあり、開設当初より多数のアクセスを集めたという。当時はいくつかのコンテンツのひとつとして「アユの物語」の連載が週刊でスタートした。ストーリーは、17歳の女子高生で援助交際を繰り返すアユが、ひとつの出会いをきっかけに、傷つきながらも少しずつ心を取り戻し、愛を見つけ出していく…物語だ。ティーンエージャーの間にクチコミで広がり、3年後となる今夏には累計2,000万アクセスを記録している。

「ケータイ小説」の先駆けとなったこの作品には、10代に共感を生むストーリーもさることながら、多くの読者を惹きつける様々な工夫もあった。2000年当時の携帯では、1回で表示できる文字数が最大1,600字だったことを踏まえて、yoshi氏は、リズム感のある文章でスピード感を出し、1,600文字以内で1話をまとめていった。最新作がサイトに掲載されると、あっという間に読者からの感想がメールで送られてくる。yoshi氏は、こうしたメールの内容を踏まえて、度々内容を書き換えたり、筋書きに変更を加えていったり、最新作へのアクセス状況が悪い場合も、遠慮無く文章を訂正していった。こうして見ると「Deep Love」は、作者と読者の双方向作業の積み重なりによって誕生した作品であるが、視点を変えると、携帯という最新のコミュニケーショーンツールを使って、読者ニーズを探りながら完成させた作品でもある。

ケータイ小説から始まったこの作品は、「パケット代が高くつくから」という読者の希望もあり、その後、自費出版でも刊行される。第1章だけ携帯サイトに掲載し、先が読みたい人だけにこの自費出版物を販売することでビジネスを成立させた。第1部「アユの物語」に続き、第2部「ホスト」、第3部「レイナの運命」を合わせた発行数は10万部を超え、自費出版としては異例の数字を記録する。その後、スターツ出版と契約し、昨年12月、全国の書店店頭でハードカバーの書籍として発売された。渋谷センター街入り口横にある「大盛堂書店TOKYO文庫タワー」の川上さんによると、この店では同書発売以来、常に20位以内にランキングされているという。事実、この3部作で100万部の大台を超えた。さらに第4部「パオの物語」と新作「ディアフレンズ」も発売され、配本大手の東販の小説・エッセイ部門の最新ランキングでも、この5冊が上位10位内にチャートインするなど、今でもその人気ぶりは衰えを見せない。

スターツ出版の担当者、須藤さんは「10万部という自費出版では異様な販売数は最初信じられなかったが、この事実や感想メールなどから、この作品には人を変える潜在力がある本だと思った。そこで、『横書き』の『左開き』という、書籍としてのタブーを犯すだけの価値があると思い出版に踏み切った」と話す。部数の伸びと共に読者層も広がりを見せており、一部の高校では「総合」の教材としても使われるなど、教育現場での支持も集め、今夏以降は10代の子供を持つ母親層の購入も目立っているという。渋谷のマーケティング調査会社「アイ・エヌ・ジー」の調査でも、「大人にこそ読んで欲しい本は?」という問いかけに対して100人中(1)Deep Love~アユの物語~」55人、(2)「世界の中心で愛をさけぶ」(片山恭一)10人、(3)「聖まる子伝」(さくらももこ)8人と、他を圧倒している。

スターツ出版(OZmall)

こうした携帯小説を気軽に発行する人も増えている。メールマガジン発行スタンド最王手の「まぐまぐ」でも、携帯向けメールマガジンの発行スタンド「ミニまぐ」を無料で提供しており、これを利用すれば誰でも「携帯小説家」になる事ができる。同サービスでは現在、「小説」が149誌、「詩・俳句」が225誌、「コラム・エッセイ」が265誌が発行され、それぞれの読者に向けて活発な創作活動が行われている。さらに、携帯小説の登竜門となる作品コンペも行われている。路線検索ソフトを手掛けるジョルダン(新宿区)は今年2回目となる「あさよむ携帯文学賞」の作品募集を10月から始めた。募集作品は同サイトで掲載する「朝の連載メール小説」。携帯フォーマットに合わせて1回分496字以内で、全25回~35回連載分が応募の条件。今回のテーマは 「鏡」「人形」「森」の中から選ぶ。同社新規事業部の中川さんは、「携帯小説は、やはり携帯独自の表現形態を考えた作品への反響が高い」という。

ミニまぐ asayomu
Deep Love Deep Love 「Deep Love~アユの物語~」映画製作発表 「Deep Love~アユの物語~」映画製作発表 「Deep Love~アユの物語~」映画製作発表

■有名人の交換日記も携帯コンテンツ化

携帯では、様々な「テキスト文化」がカルチャーの領域を形成している。日記も携帯になじみやすいコンテンツのひとつだ。2002年6月、渋谷のランドマーク、QFRONTが開設した渋谷系情報の携帯サイト「シブヤマニア」では、「親指交換日記」というコンテンツの人気が高い。ここのコンテンツでは、「普段はあまり交友のなさそうな」キャストの組み合わせや、「意外な関係性を持つ」キャスト同士が、携帯を使って「写真付き」で交換日記してもらう内容で、ユーザーは、このやりとりを楽しむものだ。

現在のキャストは、11月14日までが、モー娘。のなっちの妹で歌手の安倍麻美と、番組企画「ハモネプ」からメジャーデビューした、アカペラ・ボーカルバンド「チン☆パラ」のシモが日記を交わしている。その後、11月14日からはヒップホップ・プロデューサーとしての知られるDJマスターキーが、11月21日からはパンクラス(格闘技)の鈴木みのる氏などが予定されており、毎回、幅広いキャスティングで、その意外な関係を明らかにしてくれる。

シブヤマニア

■ギャル文字が生む秘密のコミュニケーション感覚

携帯カルチャーでは、その表現にも工夫が加わる。ティーンエージャーのメールが飛び交う渋谷では、一昨年あたりから「ギャル文字」が使われている。「ギャル文字」とは、半角、全角、記号、「ギリシア文字」「ロシア文字」などの特殊文字などを組み合わせたり、漢字と漢字を組み合わせてひとつの漢字を作りながら、メール文を作成する一見「文字化け」めいたオリジナル文字のこと。

この「ギャル文字」を使って表現すると、例えば以下のようになる。

  1. 「今カゝら、マ儿‡ューレゝこ宀∋♪♪♪」
  2. 「〒ス├└⊂゛→ナニ゛っナニ(^o^;)?」
  3. 「何日寺(こ〒寺ち合わ也すゐ?)」
  1. 「今からマルキューいこうよ♪♪♪」
  2. 「テストどーだった(^o^;)?」
  3. 「何時に待ち合わせする?」

ここでは、例えば「か」を「カ」と「ゝ」に、「時」を「日」と「寺」などの2文字に分解して表現することが多い。もちろん、ギャル文字は文章だけでなく、人名にも使える。例えば「木公シ甫亜弓尓」は「松浦亜弥」、「口十女市女末」は「叶姉妹」といった具合だ。同書では携帯3キャリアで表現可能な文字の範囲で掲載している。

今年9月には、こうしたギャル文字の使用例をまとめた「渋谷発!!へた文字BOOK」が実業之日本社より刊行され、話題を集めている。この本をまとめた作家の藤井さんに話を聞いた。「携帯では、カメラや着メロ、待ち受けなどメーカーが(ユーザーに)用意した使い方ばかりだったが、ギャル文字はメーカーが予期せぬ使い方をユーザーにされてしまった点が面白い」と話し、さらに「携帯から携帯へと、メールの中で広がる文化であったため、当事者でない世代にはなかなか伝わってこなかった」点にも注目しているという。藤井さんによると「渋谷では約8割の女子中高生がこのギャル文字を知っているか、使ったことがあるという程、根付いているにもかかわらず、大人の世代は全く気付いていなかった点も面白い」(藤井さん)と付け加える。

同書では、英会話ハンドブックのように、シチュエーション別にギャル文字の文例と「対訳」が掲載されているほか、五十音順一覧表などを掲載している。ただし、あくまでも同書は「初級編」(藤井さん)で、上級者のギャル文字は素人には「ほとんど読解不能」だという。最近では、ギャル文字がさらに進化を遂げ、2行に渡ってひとつの漢字を表す例もあるそうで、携帯カルチャーの一角を占めていることが伺える。背景には、万が一親や他人に見られても、メールの内容が一目で解読されにくいという安心感と、お互いがギャル文字を「打ち込めて」「読み解ける」というゲーム感覚でありながら仲間意識の確認といった、ふたつの側面が影響していそうだ。まさに、この世代の「差別化」カルチャーとも解釈できる。ただし渋谷の女子高生に聞くと、今もギャル文字を使っているのは約半々という状況だ。「読めるのは読めるけど・・・」と答えながらも、もはや流行ではなくなっている側面も持ち始めている。

ただ、同書が引き金となって今は他の世代に伝搬し始めているのも確か。「日本はもとも漢字文化。表意文字を読み解く力は持ち合わせているため、大人の世代でもギャル文字をじっくり見ながら読み解けた時の喜びは彼女たちと変わらないはず。逆に、頭の柔軟さが試される」(藤井さん)と言う。編集を手掛けたオフィスDEMでは、サイトを通じてオリジナルの「へた文字」を募集している。

実業之日本社 オフィスDEM
渋谷発!!へた文字BOOK へた文字イメージ

渋谷のマーケティング調査会社「アイ・エヌ・ジー」が、渋谷の女子高生200人を対象に「1日に受け取る携帯メールの数」を調査した結果、(1)50通(50人)、(2)30通(35人)、(3)20通(26人)、(4)100通(25人)という結果で、平均は48通だった。彼女たちのコミュニケーションでは今や、メールが欠かせないツールとなっていることがわかる。彼女たちにとって、携帯は肌身離さず持ち歩くコミュニケーション・ツールであるため、そこからメーカーが想像しなかった使い方が次々と生まれているようだ。大人の知らないケータイの使い方が、新しいカルチャーを生み出しているのだろうか。

アイ・エヌ・ジー
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