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人々が祈り続ける姿を摩文仁の丘で15年取材した実録映画 渋谷で上映開始

主人公の大屋初子さん。集団自決から生き残り、戦後は農業を続けながら半世紀以上も花を売っている

主人公の大屋初子さん。集団自決から生き残り、戦後は農業を続けながら半世紀以上も花を売っている

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 ジャーナリストで映画監督の新田義貴さんが製作したドキュメンタリー映画「摩文仁~mabuni~」の上映が6月21日、「シアター・イメージフォーラム」(渋谷区渋谷2)で始まった。

監督・撮影・編集を手がけた新田義貴さん

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 同作品は、第二次世界大戦の沖縄戦で激戦地となり、戦後に多くの慰霊塔が立ち並んだ摩文仁(まぶに)の丘にスポットを当て、訪れた人たちに、半世紀以上も花を売り続ける女性を主人公に描いたドキュメンタリー。2010(平成22)年から新田さんが撮影してきた映像を自らまとめた。

 新田さんは「若い頃から訪れる度に戦争の悲しい歴史を思い起こす一方で、膨大な数の人々が亡くなった場所なのに、なぜか清らかな気持ちになるのが不思議だった」と話し、「そこでは戦後ずっと人々が死者の魂に祈りを捧げ、その『慰霊』という見えない力が摩文仁を清らかな空気に変えてきたのではと考え、ここを訪れる人の慰霊の姿を記録し始めた」と続ける。

 沖縄の住民のほか各地の遺族、朝鮮半島出身者遺族、元日本兵、自衛隊員、米軍関係者など多くの人たちの祈りの姿を撮影し、話を聞いた。「同じ『慰霊』であっても立場が異なるため、分断を描いているように見えるかもしれない。ただ、死を悼み、二度と戦争をしてはいけないという思いが彼らに共通していたことが分かり、これを描きたいと考えた。そして、この映画が立場を超えて対話のきっかけになれば」と、新田さんはカメラを回し続けた。いつもそこで花を売っていた大屋初子さんを主人公に据えたという。

 新田さんは1992(平成4)年にNHK入局後、報道局、沖縄放送局などに勤務し、2002(平成14)年に独立。テレビや映画、インターネットなど媒体を超えてドキュメンタリー作品を中心に制作。中東やウクライナなど国際紛争地域への取材も行う一方、沖縄取材歴は30年を超えている。

 新田さんは「戦争の歴史の継承は将来に向けて大切だが、戦後も80年になり、戦争経験者の証言はほとんど取れなくなってきている。『摩文仁』は、15年前から撮影してきた映像に登場した人たちへの恩返しだとも思っている」と話す。

 編集作業は全て、5年前から住む鎌倉で行った。近所には、鎌倉時代に新田義貞が本陣を構え、その後、北条方の戦死者の慰霊のために建立したといわれる九品寺がある。新田さんも、その新田家の子孫と聞かされてきたことから、「縁のある慰霊の場がある鎌倉に、導かれるようにやってきたのも不思議」と振り返る。

  同作品は、6月7日に沖縄「桜坂劇場」で先行上映し、21日の上映初日には鎌倉から多くの知人も足を運んだという。新田さんは「今後、横浜、名古屋、京都、大阪などで公開が決まっているが、鎌倉には映画館がない。ゆくゆくは会場を借りて上映会を開きたい」と話す。

 上映時間は97分。同館での上映終了日は未定。

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