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「どんだけ?」「俄然」「マジだー」!?
語感で操る今時のギャル業界用語

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■意味を知らないまま、語感で操るギャル達の言語感覚

ティーンズ・マーケットの市場調査やプロモーションを手掛けるアイ・エヌ・ジー(宇田川町)は2004年11月、渋谷の女子高生200人を対象に「友達の間で流行っている言葉」をテーマにアンケート調査を行った。結果は以下の通り。

1位=「どんだけ」 (6人)
2位=「俄然」「ありえんてぃー」「思うよ」「G」(各4人)

これらの言葉の意味や使い方を、同社スタッフの中山さんに聞いた。「1位の『どんだけ』というのは、『どれだけ~なの?』という非難の感情を表わす言葉。例えば『あの子は自分のことをどれだけかわいいと思ってるの?』と言いたい時に『どんだけ』の4文字で表現する」と中山さんは言う。ギャル達は「どんだけ」と言っている対象のことなどは一切説明しないため、前後の話やその話の状況がわかっていない人には、さっぱり意味が通じないそうだ。「2位の『俄然』は昨年夏の終わりぐらいから流行り出したと思われる言葉で、間違った使い方が浸透しているのが特徴的」(中山さん)だという。辞書で「俄然」を調べると「急に今までと全く違った状態になる形容」とあるが、ギャル達は「全然」「絶対」などと同じような使い方で「俄然大丈夫」などと、ただ強調する時に使うそうだ。中山さんは「本来の意味を知らない子がほとんどで、語感のイメージだけで自分たちなりの使い方をしているようだ」と見ている。

しかし、本当の意味を知らずに間違って使っている言葉とは反対に、わかっていながらわざと意味不明な使い方をする流行語も少なくない。中山さんは「昨年は語尾に『~だし』と付ける話し方が流行ったが、これは『あいつ誰だし』『こいつ何だし』など、疑問形にする時に使う言葉」と説明する。カッコイイ人やかわいい物を指して「超ヤバイ」と言うのは、数年前にギャル達の間で発生した表現だが、現在はOLやサラリーマン世代までが普通に使うようになった。「言いやすく、簡単な言葉のほうが一般的に広まる傾向にあるようで、反対に面白すぎる言葉や長めの言葉は内輪だけで留まることが多い」という。

「元々、ギャル達の流行語は一部の友達間で発生するため、「○○高校の何年何組でだけ流行っている」というような内輪だけの言葉も多いのだそうだ。上記の調査も、200人を対象にしていながら1位の言葉を挙げたのはたったの6人で、流行語としての認識にはかなりバラツキがあることがわかる。少数派意見の中に「ちゃけば」(2人)という言葉があった。これはティーン誌「egg」などで頻繁に使われている言葉で、3、4年前に流行った「ぶっちゃけ」から進化した「ぶっちゃければ」あるいは「ぶっちゃけ話」が略されて「ちゃけば」になったと言われている。同じような省略系では「とっけんな」というものもあり、これは自分につっこみを入れる時に語尾に付ける「とか言って、ふざけんな」が略されたものだそうだが、これも一部のギャルの間でしか使われていないようだ。上記の調査でランキングされた「G」は、「学校」の省略であるという説があるが、中山さんにも正しい意味はよくわからないという。「ギャルの子達が目上の人と話す時は、きちんと敬語が使えるわけではないが、それなりに気を遣って話す。そのため、たとえギャルの子達と接していても、仲間内で使っているような言葉を耳にする機会は意外と少ない」(中山さん)そうだ。

アイ・エヌ・ジー

■アキバ系文化を知っているギャルはカッコイイ?!

多くの読者モデルが誌面を飾ることでも人気の高いティーン誌「Cawaii!(主婦の友社)」編集部の後藤さんに話を聞いた。「現在のギャル用語は『2ちゃんねる用語』を取り入れることが流行っている傾向があるようだ」という。「2ちゃんねる用語」とは、巨大掲示板の2ちゃんねるに書き込む際によく使われている独特な言葉で、主に秋葉系の男性が使っていると言われている。例えば「逝ってよし」は「死ね」という意味で、「(笑)」は「w」、「電波系」は「変な人のこと」などといったものがある。秋葉系の男性を毛嫌いするギャルでも、「全く系統の違う人達が好んで使う文化をわかっていることはカッコイイ、とされている風潮があるのでは」(後藤さん)とも付け加える。

後藤さんがギャル達と接する中で、頻繁に耳にするギャル用語について教えてもらったところ、「返事をする時は「あっはーい」と言うのは定番用語としてよく使われている。彼氏のことは『だんな』、彼女のことを『嫁』と言うのも特徴的。また、ギャルサーなどのサー人がかわいいギャルを街頭でキャッチして、サークルに勧誘することを『ギャル狩り』と言う。『ギラつく』もよく使われている言葉だが、これは男子に気に入られた場合などに『昨日○○にギラつかれてさぁー』などと使う場合もあれば、買い物をしていてかわいい物を見つけた時に『このサンダル、超ギラつかねぇー?』などと物に対して使うこともある」という。

後藤さんは、誌面作りにも、こうしたギャル用語を積極的に採り入れるように心掛けている。「漢字やひらがな、アルファベットの使い分けには特に気を遣っている。例えば、ギャルの間で「~だよ」と書く際の表記の仕方は『~だyOッ』であるなど、グループによって違う場合もあるが、大体の決まりがある」と後藤さん。yは小文字でOは大文字、最後のッは小文字のカタカナがギャル用語の決まりなのだそうだ。また、編集部発のギャル用語で、いくつか世間に浸透した言葉もあるという。「ナチュラルだけど目がパッチリしたメイクのことを『ナチュパチメイク』と表現したり、何年か前に「しぶ地下」が流行った時は、「しぶ地下」にある店に売られているような、おばさんっぽいアイテムを取り入れたかわいいファッションのことを『おばカワ』と称して、反響を得たこともあった」と振り返る。しかし、編集部の人間が考え出すギャル用語には限界があり、一般のギャルが生み出す言葉には負けるとも言う。後藤さんは「雑誌に載っていた言葉を使うのは、ギャル達の間では『さむい』とされる風潮もあるので、前面に押し出さないように配慮している」とも付け加える。言葉使いには絶妙なさじ加減が求められる。

■ギャル用語に対する大人の態度が軟化している?

椙山女学園大学教授で言語学者の加藤主税(ちから)さんは近年、若者言葉を研究対象にしている。10年前に著書「若者言葉辞典」(海越出版)を出版し、今年5月には新たに「最新若者言葉辞典」(中部日本教育文化会)を出版する予定だ。加藤教授に、若者言葉の今と昔の違いについて話を聞いた。「『最新若者言葉辞典』をまとめるため、昨年調査したところ、10年前と比べて若者言葉が減少している傾向が見られた」と話す。そもそも10年前は現在のように携帯電話やメールが普及していなかったため、10代も友達に連絡するときは自宅の電話を使うことが多かった。その際、親に話を聞かれたくないため、自分たちにしかわからない言葉で話す必要が生じ、ある種、隠語としての若者言葉が生まれたというのが加藤教授の見解だ。「現在は、携帯やメールが普及しているため、若者も「若者言葉」としての自覚がなく使っている場合が多い」という。

また、現代は若者言葉に対する大人の態度も変化していると加藤教授は付け加える。「昔の大人は『そんな言葉は使ってはいけない』と、若者言葉を使用する10代を叱る傾向にあったため、若者自身も罪悪感を持ちながら使っていた感がある。しかし現代の大人は若者言葉に対する態度が軟化し、『おもしろい』『自分でも使ってみたい』『それはどういう意味か』などと、言葉に興味を示す人が多い」(加藤教授)そうだ。そうした環境の変化に伴い、10代も優越感を持って若者言葉を使用する傾向にあるという。「背景には、ハイテク社会の現代では、若者に分があるという現実が影響しているのではないか」と推察する。ハイテクに関する知識は若者の方が進んでおり、そうした若者に対し、大人が自信を無くしつつあるのだろうか。次々に新語を生み出しては死語にしていく主導権は、感性豊かなギャル達に握られていると言っても過言ではなさそうだ。

■「あげあげ」はもう古い?今は「俄然ぶち上げ!」

渋谷センター街にいた女子高生に話を聞いた。高校1年生のハルナちゃん(15歳)とユリエちゃん(16歳)は、「みんなが使っている流行言葉は『どんだけ』かな」と口を揃える。2人の話によると、昨年の春、高校に入学した頃から使い出したという。「友達同士では今『チキン、ビッツ、ビーンズ』が流行っている」とユリエちゃん。「クラスメートにすごい小心者の男子がいて、彼がソラマメに似ていたことから、すごく小心者の男子をビーンズって呼ぶようになった。チキンは臆病者って意味で一般的に使われているけど、じゃあチキンとビーンズの中間レベルを指すときはどうしようかって話になって、ビッツはポークビッツのビッツなんですよ」と説明してくれた。これは友達同士の間で男子を評価する時だけに使い、女子には使わないそうだ。「びくびくしている男子とかがいると、『チキってんじゃねーよ』とかって使う」と、ユリエちゃんは言う。男子を評価する辛辣な10代ギャルの素顔が垣間見える。

現在高校2年生のユカちゃん(17歳)とカズハちゃん(17歳)は、「俄然は、もう使わない」と言う。「最近流行っているのは『マジだー』」と言うのはカズハちゃん。数年前から「マジでぇー」と言う若者が頻繁に出現し始めたが、カズハちゃん曰く「『マジでぇー』って語尾を上げて言うと、話を盛り上げちゃって会話している相手の答えが返ってきちゃうでしょ。話に興味ない時とか、話を終わらせたい時に、『マジだー』って語尾を下げて言うと「そこで終了」って感じになるから・・・」。「うざい」自慢話をされた時などは、「マジだー」と一応反応はするけれどもそれ以上は聞かないよ、という意思表示をする訳だ。相手を傷つけたくはないけど、無駄な話も聞きたくない、という10代ギャル達のコミュニケーション術が新しい言葉を生み出している。

センター街にいた7、8人のギャルの集団に話し掛けてみた。彼女たちは「ラブ・キッス」と「テンプテーション」という2つのギャルサー(ギャル・サークル)に所属している。そのうちの1人が「最近は『俄然ぶち上げにゃんにゃん!』が流行ってる。やばいくらいテンションが高い時に使う。ちなみに『あげあげ』はもう古い!」と言う。ちなみに「にゃんにゃん」に意味はなく、何でも語尾に「にゃんにゃん」と付けるのが可愛いからという理由だ。「『たしかに』って同意する時は『た、しかし』って言ったり、とにかく『し』をよく付ける。謝る時は『ごめんしー』とか」という話も。特に意味はなくても、独自の言葉は仲間内での会話を盛り上げ、楽しさを増すという効果があるようだ。「知っている人に挨拶をする時、『ちょんちょん』って言う。肩をちょんちょんって突付くことから、わざとそれを口に出すの」「意味わかんない時は『マジはてな』とか言うし、ダメなことは『超バット』とか」「メールだと、『~してくり』って書く時は『~して栗』、『~したい』は『~し鯛』とかって漢字に変換するのが流行ってるよ」など、次から次へと聞きなれない言葉が飛び出す。

正しい日本語、美しい日本語など、現在は日本語の使い方を指南する書籍が売れている。若者の独特な言葉遣いには否定的な意見も多いが、意味や使い方をよく聞いてみると、意外と豊かな感性を持っていることが感じられる。語感やイントネーションで微妙な感情を伝えようとするギャル用語は、世代が違うと理解しづらいものだが、仲間内での会話を盛り上げ、親密度を増すためには、ギャルにとって欠かせないコミュニケーション要素になっている。

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