
建築家・内藤廣さんの建築思考を紹介する企画展「建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘 in 渋谷」が7月25日、渋谷ストリーム(渋谷区渋谷3)ホールで始まる。
1950(昭和25)年生まれの内藤さんは、早稲田大学大学院修士課程修了後、フェルナンド・イゲーラス建築設計事務所(スペイン)、菊竹清訓建築設計事務所を経て、1981(昭和56)年に内藤廣建築設計事務所を設立した。同展は、2023年に島根県芸術文化センター「グラントワ」内「島根県立石見美術館」で開催した展覧会の巡回展。同美術館での展覧会には、内藤さんが2006(平成18)年から渋谷駅周辺再開発の建築デザインや景観を調整する「デザイン会議」の座長などを務めていることもあり、渋谷の商店会メンバーも来場。「渋谷でやってほしい」という声を受けたことから、今回渋谷に巡回する。
会場では、展示数は減らしたが石見美術館での展示を中心に再構築。4階では、内藤さんが大学在学中~2005(平成17)年の、5階では2006(平成18)年~現在の計45プロジェクトを、設計図や検討模型、建築模型、インタビュー映像(一部)などで紹介。展示の解説は、内藤さんの「頭の中に住んでいる側面」を鬼に仕立て、現実的・論理・まとも・堅気などの思考「青鬼」と、夢想型・支離滅裂・やけくそ・場当たり的などの思考「赤鬼」が「バトルしながら」対話する言葉でつづる。
内藤さんは、「実物(の建築物)があるのに、展覧会で見せるのは特殊なこと。ましてや一般の方には全く分からない。興味を持っていただくために」、と「鬼」を用いた解説を考案。「建築家の頭の中ってこんなことを考えているのかというのを、少しでも分かっていただけたら」と話す。文中には、「亡霊」として内藤さんが「お世話になった人」などのコメントも登場する。
渋谷区内のプロジェクトでは、内藤さんの「デビュー作」となった1984(昭和59)年に開設したギャラリー「ギャラリーTOM」(松濤2)などを紹介。「燃えた」(赤鬼)と解説するのは、CCC代官山(=代官山T-SITE)のコンペティション。モジュール化した約300ユニットのボックスで構成する「迷路のような店舗」を、5分の1スケールの模型と共に提案した。「現在のTSUTAYAのオペレーションでは提案についていけない」と落選したものの、「負けたけど、嬉(うれ)しかった。(中略)でも、やっぱりやりすぎたんだね、早すぎた」(赤鬼)と解説している。同じく、実現しなかった明治神宮ミュージアムは、内藤さんがコンペの審査員を務めた国立競技場の整備が2015(平成27)年に白紙撤回された後で、「リベンジするみたいな気持ちがあった」と解説。結果は隈研吾さんが当選したが、「交通動線の処理の仕方など、ちゃんと提案していたりして、やっぱりうまいね」(青鬼)、「このそつのなさがオレたちには欠けているところだね」(赤鬼、以上原文ママ)と振り返っている。
6階は、渋谷での巡回展で新たに加えた展示。「渋谷」と「益田」という異なる都市をテーマに据える。渋谷は駅周辺を、益田はグラントワを、それぞれ中心とした約700メートル四方を200分の1スケールにした新作の都市模型などが並ぶ。「過密の渋谷」と「過疎の益田」を「日本の2つの側面」と位置付け、いろいろと「考えられることもあるのかな」と、同じ大きさで作った。渋谷の都市模型は「可能な限り情報を集めてこれからの渋谷の将来像が見えるように作った」。複数の事業を集約した「全体が見えるような」模型であることから、長谷部健渋谷区長も「たぶん初めて(見る)。街の人たち、これから渋谷がどうなるのか不安に思っている方にも見てほしい」と考える。
渋谷エリアの展示では、現在進行中の駅周辺の大規模再開発に関する縮尺模型も並ぶ。京王井の頭線とJR渋谷駅を3階レベルでつなぐ歩行空間「西口スカイウェイ(仮称)」や、渋谷スクランブルスクエア(渋谷2)西棟前の3階レベルに計画されている約3000平方メートルの歩行者デッキ(渋谷駅西口上空施設)、渋谷地下商店街とハチ公広場をつなぐ東京メトロ・東急電鉄A8出入り口のキャノピーなどの模型が見られる。内藤廣建築設計事務所が設計に携わった、全長約6メートル(20分の1スケール)の東京メトロ銀座線渋谷駅の模型については、「100メートル歩けば本物があるのに、なぜそんなに大きい模型を作るのかと思ったが、模型をのぞき込むと現実の建物では見えないようなものが見えてくることがある。現実に体感するのとは違う建物の側面を見ていただけると思っている」とも。
内藤さんは、「若者には『内藤さんも悩んでいるんだな、その悩みは俺たちと同じだよね』とか、これから考えていく上でのきっかけみたいなものを感じてもらえたらうれしい」と期待を込める。「読む展覧会になっているので、時間がかかるかもしれないが、見ていただけたら」と呼びかける。
関連企画も展開。今月25日(16時~、18時~)には、渋谷ストリーム稲荷橋広場で島根県石見地方の伝統芸能「石見神楽」の公演を、同28日には、渋谷スクランブルスクエア(渋谷2)東棟15階の「SHIBUYA QWS」内「スクランブルホール」で内藤さんの講演を予定する。
入館料は、一般=1,500円、大学生以下=1,000円、未就学児無料。8月27日まで。