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頭文字「R」は時代のキーワード
デザインはどこまで街を面白くするか?

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■2001年に始動したIDEEの「Rプロジェクト」

IDEE(南青山)とクリエイターによる都市再生プロジェクト「R-project(アールプロジェクト)は、2001年暮れからスタートした。当時、ある外資系銀行から「不良債権化したビルを買ったが、買い手がつかないので何とかしてくれないか」という相談が同社に持ち込まれたことが契機となった。もともと空間のリフォームとリノベーションを手掛けていた同社では社内のデザイナーに加え、社外の建築家や不動産関係者、金融関係者なども交えて、この物件に関するミーティングを重ねていった。この物件自体は具体化しなかったが、ここで集まった社内外のメンバーはその後も議論を重ねていくうちに「これまではスクラップアンドビルドを繰り替えしてきたが、これからは今ある建物を活かすことによって、都市に深みが出たり面白さを出したり出来るのでは」(IDEE広報、川渕さん)という気運が高まり、その延長線上で「R」の概念を議論したり、具体的な数々の「R」プロジェクトへの取り組みが始まった。

IDEEは、これまで事業部として活動してきた「R-project」の動きを今後さらに活発化させようと、今年7月より株式会社化を図る。社名は「イデーアールプロジェクト株式会社」で資本金は1,000万円、代表取締役にはイデー社長の黒崎輝男氏が就任する他、相談役には際コーポレーション社長の中島武氏などを迎える。

「既存の価値観や今あるものを、視点や発想を変えてみることで違った価値を引き出し、都市経験の再生を図るのがR-projectの狙い」と川渕さんは加える。都市ではなく「都市経験」の再生。本来、デザインの対象はモノではなく、それを通じて得られる「経験」であるというのが同プロジェクトの考え方。例えばクルマでなくドライビング、ゲームでなくプレイング、家具ではなくそこで営まれるライフスタイルそのものの経験を、既存にあるものを活かしてデザインの力で復興しようと考えている。さらに同プロジェクトは「デザイン」という言葉を改めて定義し直す契機になったとも言う。同プロジェクトは、これまでのような狭義のデザインではなく、建物全体や金銭的な面も含めた広義の「デザイン力」が求められていることを気付かせた。特に景気低迷下では、大幅なコスト削減と回収までの期間を短期化する「R」においては、こうした総合的なデザイン力が成否の鍵を握っている。

同プロジェクトが取り組む「R」の方向性について、以下のような5点を挙げている。

(1)不良不動産の「R」
知恵とデザインでバリューアップを図り、不動産流通市場で流通できる商品に仕立てる。

(2)建築スペースの「R」
通常では見捨てられた土地を知恵とデザインでバリューアップを図り、商品化を図る。

(3)名建築の「R」
歴史的な価値ある建造物を保存という視点ではなく、現代に活きる新しい用途で再生する。

(4)都市の小建築の「R」
規模が小さくボリューム的に投資対象となり得ない案件を再生する。

(5)建築・不動産産業の「R」
デベロッパーやゼネコン、建築家などの業務区分の見直しによりクリエイティビティを高める。

具体的には、同プロジェクトでは古くなったビルや家屋の再生を多く手掛けている。八丁堀では築40年のビルを住空間にコンバージョン(機能変更)した。給配管の老朽化など、オフィスとしては最悪のビルだったが、相応の築年数が醸し出す「味わい」を活かして、ノスタルジックな外観の中に自由な空間が出現した。西新橋では安田不動産とのコラボレーションにより築30年以上のビルをSOHO風のスケルトン賃貸オフィスへと変身させた。さらに今年9月には、もとは不良債権だったビルを再生し、新しい賃貸オフィスビル「Floor & Walls八丁堀」として蘇らせる。同ビルは、地上7階、地下1階の構造で、各フロアは22~33坪。従来は画一的だった各フロアにデザインアプローチで個性を持たせ、ビル名板や社名板などのサインに至るまできちんとデザイン処理されているのが特徴。今後、この「Floor & Walls」ブランドはシリーズ化が予定されている。同プロジェクトでは、常時20以上の「R」案件を抱えていると言う。

今年6月には、築47年の「渋谷東急文化会館」閉館キャンペーンの一環として、プラネタリウム周辺の空間を、ギャラリー&ラウンジとして「時限的」に復活させた。このギャラリーでキュレーターを務めたのは、大手デベロッパー出身の原田幸子さん。原田さんは「『R』によって、不動産の持つポテンシャルとアートの距離がますます接近する」と話し、再生空間とアーティストの橋渡し役として、活躍の場を広げている。

さらに同プロジェクトでは、学校再生プロジェクト「R-school」にも意欲を見せている。東京23区では現在89の小中学校が廃校になっている。ポテンシャルが高く、公共性の高い大規模スペースの再生を通じた地域還元方法を考えることで、都市における廃校利用のプロトタイプの実現を目指しており、今年4月5日には、世田谷区の池尻中学校に700名を集めて、第1回のシンポジウムを開催し、映画学校、スタジオ、印刷所、家具工房、カフェ。オフィスなど、廃校校舎の教室を使った様々な複合施設が提案された。

IDEEアールプロジェクト R-school
八丁堀 Before 八丁堀 After 「渋谷東急文化会館」閉館キャンペーン 「渋谷東急文化会館」閉館キャンペーン 「Floor & Walls」ブランド

■新たな複合業態に生まれ変わる「ホテルニュー目黒」

今、目黒通り沿いに築34年の「ホテルニュー目黒」でリノベーション工事が進んでいる。新たに「クラスカ」いう名の複合ホテル業態に生まれ変わり、今年9月上旬のオープンを予定している。同プロジェクトには多分野のクリエイティブ分野のメンバーが多く参画しているのが特徴。ホテル部分の建築デザインにはクリエイティブディレクターとしてインテンショナリーズの鄭秀和氏、インテリアディレクションにはt.c.k.w.の立川裕大氏を起用し「アジアにおける日本発信の意匠」を目指す。また、エントランスのインスタレーションアートにはイギリスのグラフィックグループ「トマト」が起用されるなど、クリエイティブ性の高い空間に期待がかかる。

コンセプトは「目黒エリアにおける『新しいスタイル提案の融合』」をコンセプト。「老朽化したホテルを『どう暮らすか』という問いに対する多様な答えを組み合わせることによって、これまでに無いスタイルのホテルとして生まれ変わらせたい」という思いから「CLASKA」(クラスカ)とネーミングされた。同ホテルは都市デザインシステム(渋谷区)が総合プロデュース・経営を手掛け、同社とトランジット(港区)が協業して運営を行う。

同ホテルは8階建ての建物。4~5階には9部屋に限定した客室があり、いずれも間取りが異なり、それぞれが120平米を越える広いタイプ、テラス付きタイプ、ビューバスタイプ等、通常のホテルでは実現しにくい仕様となっている。客室には高速インターネットインフラ、衛星放送対応フラットカラーTV、DVDプレイヤー、CDプレイヤーも完備される。1階のロビー・カフェでは単なる飲食サービスだけでなく、イベントやパーティーが楽しめる大人の遊び場としてのラウンジ空間が生まれる。さらに、ギャラリー(2階)やオープンシステムのワークプレイス(3階)、宿泊客が部屋の仕様をカスタマイズできる長期滞在型客室(6~8階の27部屋)なども設けられ、多様なサービスの複合空間としての既存のホテルとの差別化を目指す。

クラスカホテル
「CLASKA」(クラスカ) 「CLASKA」(クラスカ) 「CLASKA」(クラスカ)

■代官山に民家を再生した和食店がオープン

今月7月30日、代官山に「かまくらや里」がオープンする。同店を経営するのは多摩プラーザや自由が丘で同名の和食店を展開するプロクレエ(本社:川崎市)。同店オープンに向けて今、代官山にある築30年以上の木造民家のリノベーション工事が急ピッチで進んでいる。店舗面積は1階・2階合わせて31坪で、50席を配する予定。物件の契約は今年3月。以前の居住者が他所へ転居したのに伴い、同社が借り受けた。代官山・恵比寿方面で店舗物件を探しながらも、その家賃の高さに諦めかけていたところへ同物件の話が持ち込まれた。同社代表の田辺さんによると「とにかく木造なので、内装を自由にできる点が魅力」と言う。それだけに設計期間が伸びて、当初予定していた開店時期より2ヶ月遅れてのオープンとなる。民家は重要な柱だけを残して一旦スケルトン構造にした上で、ガラス素材などを多用した空間づくりを行い「外観と内装のギャップも店の魅力にしたい」(田辺さん)と話す。

風土料理「かまくらや」自由が丘

「R」は、都市を面白くする側面を持ちながらも、不良債権に喘ぐ日本の景気低迷感を背景に生まれた新しい価値観とも言える。さらに背景には「2003年問題」と呼ばれる都心部でのオフィス余剰問題もある。昨年から今年にかけての汐留、六本木、品川などの都心部大型再開発により、今年のオフィス供給量は2,000万平米となった。これは都内23区内の総量の5%に匹敵する数字。これにより、古くなった中古ビルは大きな打撃を受けながらも、建て替えの余裕がないところに、新しい価値観とも言える「R」の存在感が増してきた。

右肩上がりの高度成長が見込めなくなった今、改めてスクラップ&ビルドで構築されてきた現代の都市構造を見直し、「使えるものは活かしていこう」という気運が高まっている。ただし、ここで問われるのが「デザイン力」。「R」では、古いモノを補修して使うのではではなく、用途変更や大胆なデザイン変更などを経て、現代のニーズにマッチした「優良物件」へと再生させることが重要なポイントになっている。これまで画一的だった不動産物件に対する商品開発(マーチャンダイジング)が、「R」という視点を加えることで、一気に多様化し始めたとも言えそうだ。これに伴い、建築家やデザイナーだけでなく、グラフィックやアート、音楽といったクリエイターが参画するシーンも増え、異分野の視点や発想も取り入れながら、東京の「R」はさらに深化を遂げていく。

かまくらや里 かまくらや里 かまくらや里
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