特集

短期総力戦!知恵と涙の便乗マッチ
白熱した渋谷W杯商戦

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■W杯で活気づいた業界と、しわ寄せを食った業界

サッカーのW杯で、日本代表チームが決勝トーナメント進出を決めた6月14日、電通総研は「W杯による経済効果は3兆円を超えた」と発表。決勝トーナメント進出で、国民一人当たり1,000円の追加支出が見込まれ、消費などで1,200億円が上乗せされたという内容である。マクロ的に見るなら、プラズマや液晶など高額テレビ(4月の前年同月比7%アップ)やビデオなどが売れた家電業界、各国の代表チームのユニフォームなど扱うスポーツ業界、日本代表チームの快進撃で実売部数を伸ばしたスポーツ紙(例年より2割~3割増の実売部数)、サッカー記事への広告掲載の需要が高まった広告業界(スタジアム内の看板や放映料など500億~600億円=電通調べ)、宅配ピザに代表されるデリバリーショップなどが“W杯特需”業界。

一方、不振が目立つ業界も多い。自宅やスポーツバー、巨大スクリーンで中継する競技場などで試合を観戦するサポーターが増えたことで、居酒屋チェーンやレストランから客足が遠のき、タクシー業界もまたサラリーマンを中心に夜の乗客が激減した。海外旅行パックを扱う旅行代理店も大幅ダウン(6月前年月比15%ダウン=JTB)。チケットの電話予約が殺到し、携帯電話が1時間もつながらなかったNTTドコモは電話料金の売上が伸びず、苦情処理に大慌てというオマケ付き。

しかし、ミクロ的に見るなら、W杯の日本開催と日本代表チームの健闘を追い風に、業種業態を問わず様々な関連商戦を展開し、タイムリー性とアイデアや行動力で“勝利”を手に入れた企業やショップも数多い。特に多くの若いサポーターが押し寄せた渋谷では、小回りの効くサービス業や小売業、飲食業のオーナーや店主の観察力や分析力がW杯商戦の勝因に結びついた。

■「スポーツカフェ」「ブリティッシュ・パブ」などW杯には欠かせない正統系

都内でゲームが行われないことから、“観戦”といえばもっぱらテレビの生放送観戦が主流。以下の高視聴率が示すように、平日でも多くの人がテレビの前に釘づけになった。

W杯日本戦視聴率
  1. 6月9日(日) 日本-ロシア戦=66.1%
    (サッカー中継では歴代最高)
  2. 6月18日(火) 決勝トーナメント 日本-トルコ戦=48.5%
  3. 6月14日(金) 日本-チュニジア戦=45.5%
  4. 6月4日(火) 日本-ベルギー戦=43.1%

サッカーの試合を大勢のファンと一緒に大画面で観戦する“英国パブ”モデルの店が、1996年開業のフットボールパブ「THE FooTNiK(フットニック)」(恵比寿)。テーブルチャージがなく、カウンターで購入したドリンクを片手に好きな場所で気ままに飲み、観戦できるのが特徴。全国のサッカーファンはもとより在日外国人にも広く知られる。W杯期間中は各試合とも1,500円(1ドリンク付)で観戦チケットを店頭販売。日本戦のみ男性3,500円、女性3,000円飲み放題で販売。同店スタッフの日高さんは「異常なくらい盛り上がっている。常連はもとより新規の客も多く、日本戦のチケットも即完売」と話す。同店では電話予約は行わず、店頭販売のみだが、店員180名に対してすべて満席状態だった。

THE FOOTNIK

一方、プロスポーツをスタイリッシュな空間で多くのモニター観戦できるのが、アメリカの“スポーツバー”のスタイル。その代表は、明治通り沿い「ワールドスポーツプラザ渋谷EAST」地下の「ワールドスポーツカフェ東京」。W杯期間中は「ワールドスポーツカフェ東京バドワイザー・フットボール・バー」として連日大入り状態。どのゲームも着席・立見とも予約満席。6月14日に開かれた日本-チュニジア戦では、店頭の列が歩道橋の上までつながった。「ワールドスポーツプラザ渋谷EAST」も入場規制が行われ、周囲は異様な雰囲気に包まれた。同店のスタッフは「売上のほどはわからないが、とにかく対応に追われるばかりで、事故がないのがなにより」と興奮状態。連日、同店サポーターの熱狂ぶりがテレビでオンエアされるなど、渋谷でもっともマスコミ露出の多い店となった。

ワールドスポーツプラザ

■その日だけ「スポーツカフェ」に様変わりした“突然変異”系

若いサポーターが集まる渋谷の飲食店の多くは店頭に「W杯生中継中!」の張り紙を出し、テレビや大画面のスクリーンを用意して若者の集客を図った。サッカー観戦といえば多くのサポーターと一緒に盛り上がるのが醍醐味。しかし「スポーツバー」以外の街頭中継には問題があった。「放映権を購入していない団体は、公に試合の映像を映し出すことができない(二次放映の禁止)」と記したFIFAの商標・放映権規制。これを拡大解釈するなら、「店でたまたまその日に限り、ひっそりとテレビ中継もする」(宇田川町の居酒屋店長)、「店員がプライベートでテレビ観戦しているが、客が一緒に観るのも可」(宇田川町のレストラン店長)、「宣伝は一切していない。サポーターの集い」(センター街のレストラン店主)というスタンスであれば“おとがめなし”ということになる。多くの店はFIFAの商標・放映権規制を意識して大々的な広告は打たず、試合の当日ひっそりと店頭に張り紙や黒板を出す程度だったが、センター街や宇田川町ではいくつかの店の前に長蛇の列ができた。一方、日本戦の生放送に踏み切らなかった飲食店、カラオケ店、アミューズメント施設では日本戦の最中、客足がぱったり途絶えた。生放送を試みた店はそのまま“スポーツカフェ”や“スポーツバー”に変身し、多くの動員に成功。スポーツカフェ、ブリティッシュ・パブなどは想像に難くないが、中には意外な店が期間限定の“スポーツカフェ”に変身した。

クラブ「FURA」(渋谷3)では1階のカフェスペースを午後3時から「スポーツカフェ」として運営。店長の中野さんは「平日でも列がついて収拾がつかないくらい。スタッフもフル回転で、これ以上、列がつくと近所からのクレームも増えるので、基本的に取材は断っている」と、予想以上の熱狂ぶりに戸惑い気味。宣伝はまったくしていないが、クラブに集う客層とサポーターの客層が合致したので満員御礼であった。同じく円山町の「club asia p」でも120インチの大画面を用意して対チュニジア戦を迎えた。

FURA

日本戦の実況中継を試みた宇田川町の老舗バー「ALCOHALL(アルコホール)」では、試合前に長蛇の列ができた。普段の営業開始は18時だが、日本戦の日には営業時間を繰り上げて開店。明治通り沿いの「ワールドスポーツプラザ渋谷EAST」並びのラーメン店「札幌本店」では、ワールドカップ開催前から準備をはじめ、一次リーグ開催と同時に「スポーツバー」に変身。入場料2,000円(料理、飲み物各1品)で臨み、連日80名の大入り満員。店主の新井さんは「もともと夕方から居酒屋ムードで展開している店だった。集客は予想した以上に良く、売上も通常の約3倍。テレビや椅子など、事前のコストは約50万円かかったが、すぐに回収できた。『ワールドスポーツプラザ』の並びのため、いわば便乗だが、この界隈は中華だけでは生き残れない。それで夜は居酒屋風にし、今回新たにテレビを入れた」と話す。渋谷ではW杯開催と同時に「スポーツバー」としてスタートした自負から、新井さんは「渋谷でもウチを真似してスポーツバーを始めた店が多いが、ウチが一番先」と胸を張る。

札幌本店 TEL03-3409-0311

W杯期間中は「カフェ クロアチア」と名を変えて営業中の明治通り沿い「チャイナローズカフェ」(神宮前)も連日賑わっている。アパレルメーカーのサンエー・インターナショナル(本社・渋谷)が経営する同店は、店内に大型プロジェクターを設置し、ライブ中継を実施。クロアチアを応援する店というコンセプトで開始するやいなやクロアチアのサポーターが集まり、情報交換が行われたという。日本戦、クロアチア戦の入店者数は通常のキャパの3倍以上となる300人を突破。日本戦に限りチケット制(2,000円)にするなど臨機応変に対応。「普段は客を集めるのに精一杯なのに、試合を中継するだけで客が集まってくれた。これは予想以上。しかし、W杯以降、リピーターとなってくれるかどうかが大切」と、マネージャーの井上さん。

サンエー・インターナショナル

渋谷で展開されたW杯商戦の大きなポイントは、生中継の有無。日本戦開催日に渋谷に集合した若者は、まず「生中継を観られる場所」を求めて渋谷の街を走り回っていた。「生中継」を武器に高めの客単価を設定する店側と、単にテレビを観たいだけの攻防が店頭で繰り広げられた。若者の奪い合いになった円山町のランブリング・ストリートでは「渋谷で一番安い」点をアピールする店もあった。

■「日本代表が勝てば特典あり」の“後フォロー”系

センター街の回転寿司店では、日本-チュニジア戦の直後、「おめでとう日本サービス」と銘打ち、うに、いくら、ボタンエビなど通常300円の青皿を半額にするサービスを実施。しかし、若者が騒ぐセンター街では見向きもされず、店員も手持ち無沙汰。料理店「季さな」(東)では「決勝リーグ進出おめでとうキャンペーン 生ビール、サワー1ドリンクサービス」を店頭に張り出したが、「ターゲットの大人は自宅でテレビ観戦、若者は渋谷で大騒ぎ。ドリンクサービスはまったく反響がなかった」(店長)と渋い顔。一方、渋谷のパチンコ店やスロット店などアミューズメント施設も「日本が勝ったら甘釘」「祝日本代表。高設定台設置」と銘打って集客を図ったが、興奮気味のサポーターとの接点はなかったようで、店員は「客入りは悪い」と憮然とした表情だった。こうした日本戦の結果を見てから「特典サービス」を謳った店のほとんどが店内で実況中継を試みていない。サッカーや観戦との接点がないまま、特典サービスだけを謳った店は観戦後に場所を変えて盛り上がろうとするサポーターの支持を得られなかったと言えそうだ。

一方、事前に告知キャンペーンを行っていた企業も少なくない。「J-POP CAFE」(宇田川町)、「渋谷ガネーシャ」(道玄坂)、「ZARU」(宇田川町)などを展開するビービーエーインターナショナルは、一次リーグの試合スタートと同時に都内20店舗でキャンペーンを実施。内容は一次リーグの試合で日本代表が勝てば20%OFF、引き分け10%OFF、ベスト8に進出すれば40%OFFという割引を実施するもの。日本代表の試合が行われた翌日に限定して実施されたもので、日本戦の翌日、つまり6月5日、10日、15日の反響を同社企画広報室の永井さんは次のように語る。「日本チームの活躍とその結果に比例して、反響も徐々に増えた。サッカー好きのメンバーの方が、新規顧客を呼込んでくれ、話題提供に利用してくれたようだ。基本的には、これを機にリピートに繋げることが一番の目的なので、割引による売上減は4年に一度のお祭事として割り切っている。トルコ戦での敗退は非常に残念だが、会社的には、ホッとしている人も多かったのかも知れない・・」。

ビービーエーインターナショナル

アディダスとコラボレーション・ショッピングバッグを制作した「タワーレコード」(神南)は、キャンペーン第2弾として「日本代表が勝った翌日、オールWポイントサービス」を開催した。同社広報室では「予想以上に反響があった。特にロシア戦の翌日の渋谷店は、平日にもかかわらず通常の約2倍の来客数だった。地方には倍の売上を記録した店もあった」と感触を語る。

タワーレコード

多少リスクを背負っても日本代表の勝利を想定し、事前に十分な“仕掛け”をしていた企業には、それだけの恩恵があったという見方ができる。日本代表の勝ち残りに賭けた企業やショップに商売の女神が微笑んだのだろうか。

■観戦・応援グッズなら非公認でもバカ売れ

日本代表の快進撃とともにうなぎのぼりに売れたのが観戦・応援グッズ。オフィシャルショップで販売するグッズと異なり、オリジナリティが出せる、イベント=祭りに参加できるとあって「東急ハンズ渋谷店」や「渋谷ロフト」には特設コーナーが設置された。「東急ハンズ」では、フェイスペイント1,200円、応援アフロ1,300円のほか、日本の国旗(1,400円)がよく売れたという。これらはいわば「お祭りグッズ」のジャンルに入るもの。同店でジャパン・ブルーの全身タイツ(4,900円)を購入し着用中の2人組の若者は「観戦はお祭りだから、目立った方が勝ち。FIFAオフィシャルものはW杯の応援でしか使用できないが、応援アフロや国旗は他の試合やイベントでも使えるのでお得」と、観戦のポイントに自分が目立つことを挙げ、非公認グッズを“使いまわし”するしたたかさを見せた。

東急ハンズ

原宿駅前、「サッカーショップKAMOメガエスタディオ原宿店」隣の洋品店「エリィ&マジイィ」では、「稲本~っ!」「トルシェ日本」「バンテリンあれば…負けないよ」などというコピーをプリントした青いTシャツ(1,500~1,800円)が爆発的に売れた。すでに「私はフーリガンではない」とプリントしたTシャツなどすでに完売したバージョンも多い。社長の入江さんは「もともとサッカーが大好きですが、基本的にオフィシャルのユニフォームは高い。ウチはTシャツが安く入ってくるし、それを安く提供できる。Tシャツは青けりゃ何でも売れる状態だった」と、してやったりの表情。実は普段は青いTシャツは売れ筋ではないという。パロディものやバッタモノと呼ばれるキワモノ路線の販売は確信犯。「パロディものはワールドカップが終わっても着られる。怪しいTシャツを多く見てきたが、『エリィ&マジイィ』のTシャツが一番怪しい、という言葉を耳にする。口コミで広がり、すでにW杯関連Tシャツだけで2,000枚近くを完売した。あと3ヶ月もすれば、日本代表の公式ユニフォームは数ヵ月後には誰も着ない。古着屋に大量に並ぶ姿が見える。数ヵ月後には、すでにW杯のことなどみんな忘れている。応援のためだけに1万円もするユニフォームを購入するのはどうしたものかと、サッカーファンである自分は疑問に思った」と入江さん。そこで格安でTシャツ本体を仕入れ、オリジナルプリントをすることを発案した。「サッカーショップKAMOメガエスタディオ原宿店」の隣で、国立競技場にも近いことや修学旅行生が立ち寄る原宿の路面であることなど好条件を最大限に生かした。「コバンザメ商法ってことで、チョロチョロ動き回っている。日本が負けたらアウト。様子を見て200枚~700枚を仕入れ、またオリジナルのプリントをする」と、フレキシブルに対応したことも勝因。

日本人は律儀に日本代表ホームレプリカジャージ9,900円、オフィシャルジャージ13,900円をスポーツ店に並んで購入したが、実は韓国ではまったく異なる現象が起った。韓国サポーターが応援に着用した「Be The Reds!」(韓国代表たれ)と記した赤いTシャツのほとんどがコンビニ店頭で1,000円の価格で販売していたもの。オリジナルは韓国の企画会社による限定枚数の販売であったが、それが品薄と見るやいなや多くのメーカーが追随して「Be The Reds!」Tシャツを販売した。低価格であったことで韓国国民に普及した。入江さんは「老若男女に着てもらい、サッカー観戦を楽しんでもらうためには、やはりTシャツは1,000円代でなければならない。観戦に行って、周りの人にTシャツがウケたら、それで元は取れる」と、遊び心を強調する。同店では日の丸の国旗(2000円)も販売。「国旗も予想以上に売れた。国旗屋さんにはそういう発想はないだろうが、売れるものは売れる時にどんどん売るまで」と、商売のポイントにアイデアとタイムリー性、実行力を挙げる。

エリィ&マジイィ TEL 03-3401-3750

都内で「お見合いパーティ」など出会い系イベントを開いている「東京夢企画」が日本戦の同時刻に明治通り沿いのビルの一室を借りて催した「サッカー観戦パーティ」(立席、入場料金1、000円)は、「10数年もイベント企画を続けてきたが、こんなに反響があったのは初めて。びっくりした」(同社の清水さん)というほど手ごたえがあった。通常お見合いパーティに使用している会場にモニターを設備して、日本戦の実況中継を行う新機軸のパーティで、告知は当日のポスターのみであったが、「サポーター同士が携帯やメールで連絡を取り合い、一瞬のうちに定員(140名)を超え、毎試合200人も入場した」という。清水さんは「イベントは企業としてサービスの一環のつもりで発案したもので、もともと利益を考えずに実施したところ、料金設定が安かったので10~20代の若い人が予想を大きく超えて来てくれた。スポーツバーで観戦するのも良いが、入場料2,000~3,000円はやや高い。若者は低料金でみんなで一緒に盛り上がることのできる場所を求めている」と分析する。もともとイベントの企画・立案・運営に長けている同社らしく、「動員や機材の設置、撤収はお手のもの。今回の成功を次回のオリンピックにもつながるようにしていきたい」と、イベント企画会社として抱負を語る。

東京夢企画

W杯に客を奪われ打撃をこうむったカラオケ店だが、「ワールドカップ」の文字を露出せずに、サービスの一環として個室で実況中継を実施した「パセラ渋谷店」(神南)店長の池田さんは「従来通りの営業形態で“テレビ観戦したい人は観て下さい”というスタンスで臨んだ。パーティールームなど部屋を提供しただけ」というものの、試合が行われた時間帯の入場者数は通常の10倍。特に14日の日本-ロシア戦では「金曜の昼間に0人だったパーティールームに200~300人もの人が集まった」という。同店は雰囲気づくりやアイキャッチにも長けており、「どこにも“ワールドカップ”とは謳ってはいないが、街頭看板の色味をジャパン・ブルーにし、“日本代表戦放映中”と記しただけで、ワールドカップのサッカー日本代表を連想させたようで、それが口コミで広がり、集客に成功した」(池田さん)という。同店が採用しているカラオケモニターはプログラム上テレビ放映ができるもの。新たにテレビモニターを導入するコストを軽減できたことも功を奏した。「多くのゲームセンターやカラオケ店が観戦中継に踏み切れなかったのは、FIFAの規制だけでなく、新たにモニターやスクリーンを導入するコストを睨んでのこと。しかし、“W杯がここまで盛り上がるとは予想していなかった”“中継を実施していれば良かった”というのが本音。当店では2年前のオリンピックの際に実施を試み、以降、常にスポーツイベントを意識してきた。プレゼントグッズの仕入にコストをかけたが、動員と話題性、リピーターへのアプローチなど大きな収穫があった」と、池田さんの顔に満足感が広がる。

パセラ

W杯関連ビジネスの王道は、もちろん日本を代表する大企業であるオフィシャル・パートーナー群を中心とした“ライセンスビジネス”。主に企業間(BtoB)のロイヤリティと流通で成り立つの“空中戦”である。「2002FIFA WORLD CUP KOREAJAPAN」のマークがついている商品はすべてロイヤリティビジネスの具現化したもの。公式地酒や公式珠数など10,000アイテム以上発売された公認グッズの例を挙げれば、公認ライセンスを取得した企業は契約料を支払い、売上の5%をFIFAにロイヤルティとして支払うという内容。対するその他大勢の“非オフィシャル・パートナー”のビジネスは、すべて“便乗ビジネス”とも言える。しかし“便乗ビジネス”の多くは、直接サポーターをターゲットとした、いわば短期決戦型の地上戦。それだけに日本代表の活躍とともに刻一刻と変わる風向きに敏感に対応するマーケティングセンス、アイデア創生能力とタイミングが求められた。W杯“フィーバー”マーケットを支えたのは、圧倒的な数の“にわかサッカーファン”“お祭り参加型消費者”、あるいは“何かを理由に集まりたい・騒ぎたい若者”たちであった。渋谷の各店舗のオーナーや店長は、こうした彼らの行動を予測して、W杯商戦に臨んだ。

経済国の格付けランキングで下降を続ける日本は、個人消費の伸び悩みというビハインドの状況で、いわばここ数年間ディフェンス一方であった。それがW杯の開催、代表チームの決勝リーグ進出という願ってもないゴールチャンスが巡ってきた。商売の中でも、“決める時にシュートを決める”ような動物的な臭覚、つまり、いつ・何が・どのようにすれば売れるのかを見極めるビジネスセンスという“個人技”が問われたのが、渋谷のW杯商戦であったと言えそうだ。

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