松濤の「手で見る」ギャラリー、25周年で記念展「すべては触ることからはじまる」

さまざまな素材による特徴的な形の彫刻作品は触ることも可能

さまざまな素材による特徴的な形の彫刻作品は触ることも可能

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 視覚障害者のための「手で見る」ギャラリーとして1984(昭和59)年に設立された「ギャラリーTOM」(渋谷区松濤2、TEL 03-3467-8102)で10月3日、開館25周年を記念した展覧会「すべては触ることからはじまる」が始まる。

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 同館は、故・村山亜土さんと妻の治江さんが、視覚障害者として生まれた息子の故・錬(れん)さんの「ぼくたち盲人もロダンをみる権利がある」という発言をきっかけに開館。日本初の視覚障害者のための「手で見る」ギャラリーとして、戦後彫刻作品を中心に企画展を定期開催している。また、1986(昭和61)年以降は全国盲学校生徒作品展「ぼくたちのつくったもの」を毎年主催するなどして、盲学校の子どもたちの活動などを社会へ向けて紹介してきた。

 近年は戦後彫刻史の中で影響関係にある彫刻家たちの作品を集めた企画展「柳原義達と5人の作家」展(2005年)や、紙の模型彫刻だけを並べた「堀内正和 アトリエのない彫刻家」(2006年)など、先駆的な美術展も開催。25周年にあたり、1990年から同館で働く山本さんは「美術鑑賞は、9割が視覚に頼っていると言われる。開館当初の日本では、触ることで観賞できる作品や作品展は珍しかった。今は暗闇での展示や、影で音が出るインスタレーションなど、目の見える人でも視覚以外でアートを楽しむ方が増えてきた。当館も目の見える、見えないにかかわらずにお客さまがお見えになり、世の中の美術鑑賞のスタイルが変ってきていると感じる」と話す。

 会場には、アルミニウムや大理石、木やブロンズなどさまざまな素材を用いた具象・抽象の立体彫刻16点が一堂に並ぶほか、彫刻家によるデッサンや、触って読む美術本なども用意。「25周年の節目の年ということでギャラリーTOMの原点に立ち戻り、目の不自由な方に喜んでもらえるいろいろな切り口の作品を集めた」(山本さん)。

 伊藤隆康さんの「トゲの箱」(1966年)は、ボックス型フレームの内側に細長い突起が数多く伸びる作品。マダン・ラルさんの「芽が出る」(1986年)では種のような形の丸い立体の端に茎が束になって飛び出す。そのほか、一見丸い塊に見えるカール・プランテルさんの「瞑想(めいそう)のための石」(1977年)は、触ってみると中央に背骨のような触感の凹凸を持つことがわかる作品だ。

 同館では来年に向け、葛飾北斎の浮世絵作品を触って鑑賞する本「触察本(しょくさつぼん)」の制作が進行している。ヨーロッパでは公共機関が担っているという同プロジェクトについて、山本さんは「『彫刻』は視覚障害者にとって一番近いところにあるアート。『絵画』は一番遠いところにあって、遠近感や色彩は伝えることも理解することも難しい。ただ、目の見えない人を意識して絵画本を開発していくことが、目の見える人にとっても絵画の観賞の可能性を広げることにもつながる」と話す。

 開館時間は10時30分~18時。月曜休館(12日は開館)。入館料は、一般=600円、視覚障害者と付添者=300円。10月25日まで。

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